* 今しかないその輝きよ *












「シュ〜ウ!」



の声がして振り返った。
無邪気な、笑顔。


「どう?今日も待ち合わせ時間ぴったり」

「だな」


笑い合いながら歩き出す。


とりあえず適当に歩き回って、一緒にお昼ご飯を食べた。
は嬉しそうにオムライスを選んで、
俺はカレーライスを食べた。

そんな日常が、たまらなく嬉しい。


いつも通りの一日、だけど、
二人ともどこかで意識していたと思う。


今日は、二人きりで過ごす初めてのクリスマスだった。


付き合い始めて5年以上経つというのに、
そもそもずっとがドイツに居て、
去年は受験に集中するために見合わせ、
都合6回目のクリスマスで漸く、だ。

別に、クリスマスが恋人たちのために設けられたイベント…
だなんては思ってはいないけれど、
それでもやっぱり、どこか特別な感情はあった。


「嬉しいね」

「え?」

「前に散々文句言ったこともあったけど…
 やっぱりさ、クリスマスに恋人と過ごせるって、嬉しいね?」


首を傾げながらは言った。
だから俺も、そうだな、と返した。

確かに数年前のクリスマス、電話越しで
「クリスマスは恋人たちのイベントじゃない!」
とか怒っていたのを思い出した。

なんだかんだ、強がっていたんだろう。
淋しい思いをさせていたんだなぁ、と思った。



街中を歩き回るそれだけで楽しかった。
どこも賑やかだなぁ、と俺は感じたけど
お祭り騒ぎが好きなはとても嬉しそうで、
俺はその姿を見るのが楽しかった。


夕ご飯を済ませ、軽くだがお酒も飲んで、
予約をしていた部屋に来た。



漸く静かになった気がして、
ふぅと俺は溜息をついた。


「いっぱい歩き回って疲れたね」

「そうだな」


はハンガーにコートをかけていた。
俺のコートも受け取ってくれた。

ぼすんとベッドに寝転んだは、
また即座に起き上がると「プレゼント交換しよっ!」と言った。


そうだな、と俺はの横に腰掛けた。



「ね、私が先でもいい?」

「どうぞ」


早く見せたくて仕方がない、
というような様子だった。

なんで笑うのー、と怒るの姿が浮かんだので
笑うのは心の中だけで留めておいた。
(そう文句を言う姿も可愛いんだけどな)


「あのねー、すんごいお金かかってなくて申し訳ないんだけどね」


がさごそと鞄を漁り始めた。


もしかして…これでリボンが出てきたらどうしよう。
それで体に巻きつけて…


プレゼントは、私の愛だよ!


確かに、言い出しかねない。
はそういう人だ。


なんて思っていたら。



「ジャン!」

「なんだ、これは」

「アルバムだよっ」



それはまさに100円ショップなんかで売っていそうな
なんの変哲もないフォトアルバムに、
数々の思い出が、収められていた。


「懐かしいでしょ?残念ながら付き合ってすぐの頃のはあんまなくてさー
 でもほら卒業式とかー、一時帰国とかー…」


ぺらぺらとページを捲って見せながらは解説する。

、幼いな。可愛い。
俺は…髪型のせいか大分違和感あるな。

そういえば、こんな頃もあったなぁ。



「てなわけでぇ」

「ん?」



はにやりと笑う。


「私からのプレゼントは『二人で過ごした時間』!」

「―――」


ちょっと照れくさそうに。


「今日一日も含めてね」


と笑った。


……。

これは参ったな。



くしゃ、と頭に手をやる。


「悔しいな…」

「え?」

「本当に、最高のプレゼントだから」

「何それ〜」


最高すぎて悔しいの?

は首をかしげたけれど、
直後に「あ〜っ!」と悪戯な笑みをした。


「さては、シュウのプレゼント微妙なんでしょ!
 だから、私のプレゼントが最高すぎて悔しいんだ」


きしししし、とは笑った。
でも俺は首を横に振る。



違うんだ、

違うんだ。



「どう…したの。シュウ?」

……」



俺はそっと、隣に座る、細い肩を抱きしめた。


崩れ去ってしまいそうな。

もう遠くに行くことはない。
そう分かっていながら、
どうしても不安が取り消せない、その体を。


あんまり力を込めたら、壊れてしまう気がして。
だからといって、その腕を緩められるほど、
そのときの俺には余裕がなくて。

とにかく、愛しい。



「えっと……」

「………ごめん」



そっと、体を離した。

不思議そうな顔で見上げてくる



視線を一旦外して、鞄の中から出した小さな包みを渡した。


「開けて」

「あ、ありがと」


笑顔になって、がさがさと包みを開け始めた。
その間もの顔を凝視している俺に、
気付いていないからか、気付いているからか、
こちらには見向きもせずに楽しそうに開封作業を進めていた。


「…わ、ネックレス!かわいい!」

「つけてあげるよ」

「ありがとー!」


陽気にはしゃぎながらは後ろを向いた。

さら、と髪の間に手を通してそれを留めた。


振り返った笑顔を俺は楽しみにしていた。のに、
はなかなか振り返らず、俺から覗き込むと、
なんと静かに泣いていた。


…どうした?」

「……ありがと」


首を2回横に振ったは、
礼を言いながら、それでも泣き続けていた。
これはどうしたものかな、と思っていると
途端に「えへへ」と笑った。

可愛いね、大事にするよ。と、
胸元に手を当てながら言った。


なんとなくの気持ちが分かった気がしたし、
もしかしたら、向こうも同じだったかもしれないと思った。

いつ渡そうか、ずっと迷っていたけれど、今にしよう。


「あと実は、もう一個」

「へ、まだあるの?」


もう既に満足しきった様子のだったが、
俺はもう一つ、小箱を取り出した。

そして、の手を取った。


「どうしたの、シュウ。王子様?」


けらけらと笑っていたが、
俺が片手で箱を開けると、即座にそれは止んだ。



「俺からのプレゼント。『二人で過ごす時間』」



は、また泣き出した。


今も、そしてこれからも、
ずっと一緒に居てください。

小さな輪っかに、その想いを全て篭めた。



窓の外から差し込む、銀の光が見えた。




その時間は、最高のプレゼントだった。

俺もどうにかして残したくて、
一生懸命に、その姿を目に焼き付けようとした。






















最高のプレゼントなのに取っておけないのがはがゆいな、
っていうそんな作品。
貰った物は本当に嬉しいんだけど、
それ以上に大切な、二人の時間。みたいなね!(何)
仮でつけたタイトルは『時間は保存できませむ』でしたw

2007/10/06に原案保存してあった!
2年以上放置してからのまさかの完成w

大稲では今のところそういう描写控えてるけど、
こいつら、ナチュラルにホテルにやってきてるよね。(笑)
まあいうてもこの時20歳って設定だしな!


2010/01/20