* 親しいね。 *












「じゃあね、

「うん。今までありがと」



東京駅。
バスの出発まで、あと10分。

小学校の頃からの友達。
部活仲間。
クラスメイト。
全部合わせて10名弱。

私、結構友達、居るな。
こんなに大勢お見送りに来てくれるなんて。


「頑張ってね!」

「帰国したときは教えてね!」

「うん。メールするから」


手を取り合って、笑う。
といっても笑っているのは私で、
相手は泣いている場合の方が多いけれど。

女の子だらけの中、
男が二人だけ。

目が合った。


、頑張れよ」


大石に言われた。
初めて、泣きそうになった。

今までもどこかで泣きたい気持ちをかき消していたけれど、
そのときは本当に、涙が溢れるのを瞬きで誤魔化す形になった。

返事をしたかったのに、
声を出すことが出来なくて私は大きく頷いた。


ありがとう。

ありがとう。

君にどれだけ助けられたことか。


夢。

友情。

恋愛。

人生。


君と、どれだけ分かち合っただろう?



ちゃん、またね」


陰に隠れていたもう一人の男が、控えめに言った。
その態度があまりに消極的だったもので、
私が励ますかのごとく満面の笑みで答えた。


「ありがと、菊丸くん。また連絡するからね」


そうするとようやく安心したようで、
笑顔になって向こうも首を縦に振った。


そろそろ、かな。




「じゃあ、そろそろ」

「うん…」



掴まれていた手、離された。

バスの運転手さんに、荷物を預けた。
トランクが一つと旅行鞄が一つ。
ハンドバッグとみんなに貰ったプレゼントは、座席へ連れて行く。


もう一度みんなに向き直る。



「みんな、わざわざ本当にありがとう。
 今までお世話になりました」


誰も、返事をしない。
この沈黙、やばい。



「また、ね」



喉が詰まった。
変な声になった。

そのときの張り詰めた空気を壊したのは、
だった。


…」

、頑張れ!」


私に飛びついてきた

しゃくり上げていて、それ以上は何も言ってこなかった。
私は、ハンドバッグを地面に下ろして、
その背中をそっと抱いた。

の肩越しに、泣いている他の子たちも見えた。


これは、きついな。
そう思った。
だけど涙が出せなかった。
どこかで抑えている自分が居た。


と。


大石が、視界に入った。



涙が、出た。




私が素直に見せた、初めての涙だった。



ちゃん、泣いてる…」



震えた声が一つ。
その声に反応したが、ばっと体を離して私を見た。


「嘘、あんたって泣くの!?」

「失礼ね!私だって人の子だよ」


そういって笑った。


この涙は、

笑顔は、


大石のお陰だった。



指で目の端の涙を掬った。



「みんな、本当にありがとう」



頭を下げた。
バス出発まで、もう5分切ってる。
さすがにもう乗らなきゃ。
踏ん切り、つけなきゃ。



「じゃあ私、行くから。バイバイ!」



手を振って、手を振って、振り返って…バスに乗りかけた。

これ以上振り返ったら、
もう進めなくなる。
だからもう後ろは見ない。


と思ったのに。



「…っちゃん!」



バスの乗車口まで走り寄ってきたのは、
予想外なことに菊丸くんだった。


「こんなこというの、オレ、もしかしたら
 メッチャ無神経なことしてるかもだけど…」


そうだね。

私、どれだけあなたに恋して、
どれだけ傷ついたことだろう。

だけどそれすらも、良い思い出。


そんな君が、今更何を言う?




「大石は…ちゃんのことがずっと好きだったんだよ」




――――……。



「言えって何回も言ったのに、大石、
 何もしてねーみたいだから…見てて歯痒くって」


そう言って菊丸くんは頭を伏せた。

そうね。
確かにそんなこと伝えるなんて。
しかも君が言うなんて。
ちょっと無神経かな?

でも。
ああ。
そうか。
そうだったんだ。


やっぱり。

そうだったんだ。



「また日本、戻ってくるから」



待ってて、なんて言えない。
そんな資格ないし。

でも。



「また会おうね!」



みんなに向けて大きく手を振った。
涙ながらに振り返してくれた。


「伝えてくれてありがと…菊ちゃん」


目の前の人物はハッと顔を上げた。
ただ単に呼ばれて反応しただけか、
それとも気付いたのか、分からないけれど。


「大石くんによろしくね」


さあ、この言葉を、
君がどう受け取るか。



『まもなく、成田空港行きバス発車致します。ご乗車になって…』


「じゃあね。今度こそ行くわ」



バスに乗った。
空いてる席を見つけて座った。

バスが動き出した。
窓越しに手を振った。




ありがとう。

ありがとう。


君と、どれだけ共通の感情を抱いたことだろう?


それは、分からない。




今はただ、前を見る。




この気持ちは、またいつか知ることになる、その時まで。






















そうだったんだ、は、
向こうの気持ち以上に
自分の気持ちを知った合図。
この主人公、大分大人になりましたね。

菊と主人公が話してる間、
大石はどんな思いをして見守ってたのか(笑)


2009/02/12