* symmetaric my-color *












4月。
新学期。


クラス替えがあるから一安心、
なんて思っていた自分がバカに思える。
下駄箱に来て気付いた、
新学年も初日は一度前の教室に行かなければならない。

数週間ぶりに、慣れた下駄箱に靴入れて、
家から持ち込んだ新品の上履き履いて、学校に上がった。

階段を上る。
久しぶりのような、
懐かしくもなんともない教室。


おはよう。


「おはよう!」
「オス」
「何そのオスって〜体育会系じゃないんだから」


帰宅部でしょー、といっては笑った。
は、まあ、クラスでは一番…くらいに仲良い子だけど、
春休み中に会うほど仲が良いわけでもなく。実質久しぶり。


「あーあ、クラス分けどうなってるかなぁ」


ドキン。

クラス分けという単語に過敏にも反応する心臓。

どうなるんだろう。
よくわからないけど、早くしてほしい気もする。


教室を、ちらっと見回した。

一番後ろ、ロッカーの前に杏子(アンコ…橘杏だ)が居た。
他の女子と、何やらおしゃべりをしている。

一瞬、考えたけど、目を逸らした。


チャイムが鳴った。


「あーやばいドキドキするぅ〜!じゃ後でね」


はどたばたと席に戻っていった。
うちはその場の自分の席に座った。


居ない、な。

安心したような、拍子抜けしたような。


と。


リズムに乗るぜ!



…遠くから、バカっぽい声がした。


「あっぶね、ギリギリセーフ!」


もちろん声の主は、神尾だ。

教室に飛び込むなり、
教師が居ないことを確認して安堵の息を漏らしていた。
他の男子生徒につつかれているアイツは、
相変わらずだけど、久しぶりだ。


「はーい席着けー」


やっべ、と神尾は急いで自分の席に着いたようだった。
後ろを振り向きはしないから、はっきりは分からないけれど。
周りから笑い声が上がる。

前だったら、うちも、一緒になって笑ってたのかな。


「じゃあクラス分けの紙配るぞー」


来た。


心拍数が一気に上がる。
周りがわーだのきゃーだの喚いているのが別次元。


前から、紙が回ってくる。

一枚取って、回す。


……。


居た。
3年A組。


A組男子。か、か…

……居ない。


神尾と別のクラスになった。


安心したような、残念なような、
複雑すぎて、自分でも自分の気持ちが分からない。
とりあえず、溜息が出た。
文字通り、溜まっていたものを全て吐き出すような。


同じクラスのメンバーを上から見てみる。

あ。
橘杏。
杏子とまた一緒か。


「(これまた複雑な…)」


なんとも言えない、新学期初日。


「それじゃあ新しい教室に移動しろー。
 ロッカーの中には何も入れてないなー?」


先生が叫んでいるのをほとんど無視して、
みんなは一緒だの分かれただの騒いでいる。

溜息。



!」

「――」


神尾だった。


「お、おはよう!」


無理やりっぽい、笑顔で。
…何がしたいんだか分からない。

無視することはできず、

「おはよ。」

ただ、びっくりするほど暗い声が出た。



バイバイ、2年A組。





  **





新しい教室。
出席番号数えて、自分の席見つけて座った。
ここでまた、一年が始まるのか。

神尾の居ない教室が、
久しぶりすぎて実感沸かない。


そういえば、杏子とは3連続同じクラスだな。
一年生は途中からだけど、合計2年半を共にすることが決定した。
これも、何かの縁ってやつかな…。


、また同じクラスだね」
「ん、よろしく」


春休み、神尾となんかあった?
告られたりしたの?フった?OKした?

…なんて。

詳しい話は、何も出来そうにない。
当然だけど。

杏子が通り過ぎた後から、なんだか良い香りがした。
なんか、アイツ、可愛くなった気がする。

恋をすると女の子は可愛くなるっていうけれど。
………。

うちは、どこか可愛くなったのだろうか。
恋をしても、可愛げをなくすばかりな気がして、不安になる。


何はともあれ、また一年が始まったようだ。




  **




初日は始業式があって終了。
靴箱を新しい場所に移動して、帰宅。

異変があったのは、2日目。

休み時間になると、隣のクラスから神尾がやってきた。
杏子と話してた。


やっぱり…やっぱり、そうなのかな。
玉砕してたら、あんな風に話なんてしないよね。
かといって同じクラスでも話せてなかった神尾が
別のクラスからやってくるほど積極的なんて。
…やっぱり、なんかあったのかな。

教室に居辛い。
出ることにした。


「あっ、おはよう」
「おはよ」


思ってた以上に無機質な声がした。
また、神尾もなんで声かけるかな。
うちの気持ち、知ってるくせに。
今の状況がどれだけ辛いか、わかってる?


はっきりしてしまえば、もう少し楽かな。
本人の口から「付き合うことになった」とでも聞ければ。
それはそれでも辛いのだろうけど、
今みたいにもやもややきもきしなくては済むかもしれない。

あれだけ協力して、ごたごたに巻き込まれてきたんだ。
うちにも聞く権利はあるはずだ。

でも、聞きたいのに、聞けない。


普段はどんだけ男勝りといわれても、
神尾の前では、自分は、こんなにもオンナノコだ。

それがなんか癪だった。でも事実だった。




  **




そんな日々が、どれくらい続いただろう。
もう気付けばゴールデンウィークも終わって、5月も半ば。
時間なんてあっという間に過ぎてしまうものだ。

特別用もないのにC組のの元へ通うこともなくなり、
同じクラスの中で友達を作ってそこそこ楽しくやっていた。

ただ、廊下と教室の境目以外は。


あそこには、未だにまともに目をやれない。



なんだよ。
うまくいったならいったで、教えてくれればいい。
うちが、好きだ、なんて言ったりしたから、
相変わらず女々しく気にしちゃったりしてんの?
そういうのが逆に迷惑なんだっつーの。
この…女々子め。

最近のうちにとって、神尾はストレス要因でしかない気さえしてきた。
でもどうしてストレスになるかっていうと、
やっぱり好きなんだからだって思った。

いくら意地張ってもダメだ。


好き。
好きなんだ。

神尾のコト。




  **




今年、初めて委員会に入った。
うちは何故か美化委員になった。
こんなにがさつで整理整頓が苦手なうちが美化委員…
と自分で思っていたら周りにもそうやっていじられた。
だけどまあ、なんとか仕事はこなしている。

今日はその週一の活動日だった。
といっても男女交代なので実際隔週。
学校の周りの掃除をして、整備をするのだ。
テニス部は、ちゃんとしたグラウンドじゃなくて端の方だから、
委員会の仕事の範囲外だ。

残念だったり、安心していたり。
最近の自分は、落ち着かない。


「それじゃあお疲れ様でした」
「「お疲れ様でしたー」」


委員長の掛け声で、仕事は終了。
鞄を持ってきてなかったうちは、一度校舎に戻る。

ひんやりとした階段を上る。
薄暗い廊下を歩く。


そして開けた教室の扉。
目に飛び込んできたのは、橙。

そういえば、ノートが手の影にならないように、
大抵の学校は南向きに作ってあるって聞いたことあったな。


教室から見る夕日。
こんなに綺麗だったなんて。

帰宅部だったうちは、久しぶりにそれを見た。



「ふざけんな…」


こんなもので、涙が出そうになるなんて。



何回か瞬きをして、鞄を拾うと教室を出た。

と、隣の教室からも音が。
同じ美化委員の人か…?


「え」

「あ、!」


なんとそれは、部活終了したばかりの神尾だった。
ちょっと待て。

咄嗟に走って逃げようとした、けど、
一瞬にして捕まった。
ああもう。


教室のドアを開けっ放しにしたもんだから、
ここ、廊下までも橙色の光が差し込んでいた。


「え…お前、泣いてる?」
「神尾は関係ない」

手を振り払った。
神尾が関係ないのも、事実だった。

間接的には、関係あるかもしれないけれど。


一瞬沈黙。
神尾が突然切り出した。


「オレ避けられてる?」
「は?どっちが」


鼻にかかった笑いになった。
だって、意味が分からなかった。
あんだけ相談に乗ってやったのに、
結果報告すらしてくれないのはアンタでしょ。


「だって、挨拶してもろくな返事くれねーし…」


まあ、そうかもしれないけど…。

その理由もわからないくらい、
アンタはバカなの?

眉がしかめられている自分に気付いた。
しんどい。この状況。


ふぅー…。

と、長い溜息をついたのは、神尾の方だった。


目を開いた。
普段よりも、鋭い眼光。

まるで、見透かされるようでー…。


「なぁ、オレお前に聞きたいことがあるんだよ」

「な、に…?」


喉が詰まって

声が掠れて

変な音が出た。


向かい合った神尾は、

私の顔を見たまま、

問う。




「お前、オレのこと本当に好きなのか?」




――――――――……。




「だって、オレと居ても楽しくなさそうじゃん」
「それは…」
「それは?」


………。

しどろもどろの解答。
神尾からの尋問。
でも確かに、的を射ている。


「そう…だよねぇ」


くしゃ、と頭を掻く。


「うち、本当にアンタのこと好きなのかな」


神尾は眉を潜めた。
何、今度は何。


ああもう、頭痛い。


「…ところでさ」


そうだ。
話題変換も兼ねて、聞いてしまう。


「杏子に、伝えたの?」
「――」
「なんかさー、最近やたら親しげじゃん」


その、精一杯の強がりは、
うちの苦肉の策だった。

けど、思った以上に効果絶大で。
っていうか、予想外の返事が返ってきた。


「……いや」


は?

あれ、そうなの?
うちはてっきり…もう付き合ってるものかと。

やっぱコイツには
何を期待してもダメか。

溜息が出た。

「なっさけない。そういうのを“いくじなし”っていうの」
「う、うるさい!」

ボキャブラリーのなさがダメ。
そういえば神尾、国語の成績微妙だったっけ。


「それより、話逸らすなよ!」


あ。バレた。


「だって、なんか苦しそうじゃん、最近のお前」
「え……?」


言われて、意識すると、
確かに最近、あまり笑わなくなった。
神尾と同じクラスだった頃みたいに。
仲良かった頃みたいに。
今、も、気付けば眉は八の字になってる。

だけど何。
苦しそう、とか。
勝手にうちの心情分かった風に語るな。

哀しそうな顔してるからって苦しんでるって決めつけるな。

ふぅ。


「うちのことを気にしてんだったら、やめろ」
「え、だって…」
「いいから。結果はどうであれ、いいから伝えてこい」


フラれたら、慰めてやるよ。
うまくいったら…祝ってあげられるだろうか。

ダメだ。
神尾の顔見れない。


「なぁ、オレも返事聞きたい」
「え?」
「お前、オレのこと本当に好きなの?」


忘れていた、話題。

もう、今更いいじゃんそんなこと。
うちを責めて、何が楽しい?


もうイヤダ。



「ワカンネー。けどとりあえず今すっごいムカついてる」



言ってやった。
なんか清々した。
でもどこか後悔してる。

神尾がどんな返事をするものか。
また、女々しく「オレどうすりゃいいんだよ」とでも言うのか。


と思って見上げた顔は、

思ってた以上に険しくて。



「例えばこうなって、お前どう思う」

「え?」


な、何?


……信じられなかった。


――― 一歩一歩、近付いて



「来ないでよ」


バカ。



――― 壁際に、追い詰められて




「やだ、やめて」


バカ。




――― 左手が、壁につかれて





「やめてってば……やめろっ!!」



この人はバカだ。



――― 右手が、肩に掛かる



振り払おうと思った。
でも、力で勝てないのを知っていた。





「神尾っ!!!」



「!」





うちの叫び声で、はっとしたのか手を離した。
「ワリ…」と口が動いたけど、声は聞こえなかった。
神尾は、酷く傷ついたような、もしくは、
酷く傷つけてしまって申し訳ない、とでもいいたいような、
とにかく、泣きそうな顔をしていた。

いつもだったらうちが逃げてたけど、
今日は神尾が走っていなくなった。



………サイアク。



しゃがみこんだ自分の影が、長く橙に伸びていた。
今度の涙は、完璧に神尾の所為だと思った。




  **




家に着いたら、留守電が入っていた。

本当にごめん。
オレどうかしてた。
杏ちゃんには、ちゃんと伝えてくる。
本当にごめんな。


以上、一件のメッセージ。



割れるくらいに、頭が痛かった。
それくらい、この日は、泣いた。





  **





朝が来た。
鏡を見た。


「(げっ…)」


すっげー腫れてる。
学校行きたくねー…

って今日土曜日だ。週休2日制万歳。


とりあえず、起きる。着替える。
顔を洗って、自分の顔の酷さを再確認。

あー…これは彼氏できないわ。
いつかも神尾に言われたな。
お前可愛くねえな、彼氏できねーぞ、って。


そうだ。
こんなに可愛げのないうちじゃ、
ライバルが居る居ない関係なく…
神尾のことを振り向かせるなんて無理だったんだ。

バカらし。



『ピンポーン』



チャイム。
親は今居ない。
ドアを開ける。


……神尾が居た。

ドア閉じてやろうかと思ったけど、
一瞬の隙にドアを力ずくで抑えられた。

なんか、似たような状況前にもあったような。

なんだか少し話が長くなりそうな気がした。
靴を履いて玄関を出た。


始めは申し訳なさそうな顔だったけど、
神尾は、笑った。


「伝えてきたよ」


そ、っか……。

頭の中がぐるぐるで、
うまく考えられない。

正しい受け答えは、なんだ?
とりあえず、適当に返事。

「やっぱ行ってきたんだ」
「ああ」

神尾の顔を見た。
穏やかな笑顔。
でも目が、少し潤んでる。

…男だろ、泣くなよ。


「ダメだったの?」


表情から察してそう聞いた。
だけど神尾は首を横に振った。

そうか。
さしずめ、それは嬉し泣きってやつか。


「上手くいったんだ」


神尾は何も言わなかった。
何、コイツ、
神尾なりに気とか使っちゃってんの。


「バカ」


うちもつられて泣きそうになりながら、
でもなんか、つい笑った。

ヤバイ。
本当に泣きそうだ。


ほら神尾。
やっぱりキミは分かってない。
前にも言ったけど、逆も然り。

笑顔見せてるからって、辛くないワケじゃないんだって。


本当は今すぐにでも
キミには視界から消えてもらいたい。

なのに神尾は、うちに一歩近付く。
今までにも幾度かあったみたいに。

うちは、神尾が一歩近付くたびに一歩下がる。
でもドアにぶつかって、どうしようもなくなる。


昨日を思い出した。
アレは、結局どういうつもりだったんだろう。
もはや、分からなくていい事実。
きっと、私には神尾が一生分からない。


また腕をつかもうとでもするのなら、
振り払って平手でも食らわしてやろう、
そう思ったら。



手を、つかまれて。




「好きだ」





……………。



……は?





「え、は?今、なんて…」

「だから、オレはお前のことが好きなんだよ!」






……………。



「いやいやいやいやいや!」
「茶化すなって!オレは本気だ」


え、だって、お前、
ついこの間まで、ずっと、
っていうか、昨日とかも、
あれ、え、おかしい。は?



「本当は…」


どきんどきん。




「この前…終了式の日、杏ちゃんが別の中学のやつと付き合いだしたの知って」

え。




「でも思ってたほどへこまなかった…たぶん、オレ、
 そのときには杏ちゃんよりお前の方が気になってたから」



なんだ それ 。





「とにかく、オレはお前が好きなんだよ!」




パシッ。


結局平手打ち。





「痛っ……てぇー」

「ザマーミロ」

「あ、こら!ふざけんな!!」




うちは、笑った。
お腹の底から笑った。

心の中のもやもやが、ちょっと、取れた。


杏子と、決着つけられたんだね。(遅ぇよ)
うちに、結果報告してくれたし。(当たり前だけど!)
神尾にも、伝える勇気あるじゃん。(脱女々子?)


でも、なんだそれ。
顔が綻んでしまう自分が、悔しい。


「…納得いかない」
「でも、本当だって!」


神尾は、駄々をこねるこどものように、叫ぶ。
と思ったら、突然小声になって。

「だから最近は、よく杏ちゃんにも相談に乗ってもらってて…」
「はぁ!?」

糸が繋がっていく。
驚くほどに。

「だからうちの教室に通い詰めだったわけ!?」
「う…そういうこと」
「なーにそれ!だったらうちに話しかけてくればいいじゃん」
「うるせぇ!」

怒ったかと思ったら、
神尾が逸らした顔は
少し赤くなってて。


「オレの性格は、お前が一番知ってるくせに」


…はい。
そうですね。

相変わらず、
女々しいですこと。


ぷはっ、って、
思わず吹いた。


「だ、大体お前が険しい顔してオレのこと睨むから!」
「残念でした、地顔です」
「オレ、もうあの一件で嫌われたと思って…」


ああもう、女々しいなぁ。
ホント、女々しいなぁ。


「あれくらいで嫌いになるくらいだったら、
 元々告白する勇気出るほど好きじゃないっつーの」
「あ!」


その言葉を受けてか、
神尾が何かを思い出した風に声を上げた。

「そっか…そうだよ、な。うん。そうだよな」
「どうした?突然」
「いや、なんでもない!」
「?」

なんだか腑に落ちなかったけど、まあ、いいだろう。

いつもはイライラする神尾の女々しい態度も、
なんだか、今日は、それすらも愛しい。

なんて、言ってやるわけもないけれど。


最近、本当にイヤだったんだ。
神尾の女々しい態度も、
神尾の顔見るのも、
神尾の存在すら。
もう、本当にイヤだった。

フラれた手前その反動が来てるのか、
好きって伝え終えたら満足してしまって
その感情が薄くなってしまったのか、
好きだからこそ、なのか、
自分でも分からなかったけれど、
ここ暫く、神尾のことを考えるだけで、本当に辛かった。


「うち、アンタにムカついてる」
「うん」

「すっげームカついてる」
「あーもう2回も言うなよ!」

「もしかしたら、本当は嫌いになったかもしれない」
「うげっ」


咄嗟に、
神尾の手首をつかんだ。


「でも、超前向きに検討する」


目を合わせて、凝視。
静止。

3秒後、爆笑。


すぐにまた杏子に寝返るんじゃないかとか、
自分こそ本当に神尾のこと好きなのかとか、
色々考えちゃうけど。


だけど今、
とにかく楽しい。
笑って、
神尾が笑顔で居ることが、
嬉しい。


そういえば、神尾、
最近あんまり笑ってなかったな。


「ちょっと待ってろ」

「あ?」


神尾の疑問符を無視して、私は家に飛び込む。

ドタバタと自分の部屋に戻ると、
昨日の中身入れっぱなしの鞄掴んで。


「お待たせ!」


鍵をかけると、駆け出しながら鞄を引っ張った。


「カラオケ行こうぜ」
「乗った」


うちは走る。
神尾も走り出す。

友達で、いいんじゃないか。
またさっきの思考が頭をよぎる。

やっぱりうちは女の子らしくないし、
神尾はちょっぴり女々しいし、
こんなうちらは“男女の関係”よりも“友情”じゃないかって。


でもやっぱり心臓がどこかドキドキしてる。
もっと一緒に居たいと思う。
ちょっとのことで不安になったりする。

と。

手が取られた。


「わっ!」
「っしゃ、リズムに乗るぜー!!」


手を引かれる。


繋がってる部分が、温かくて。

ぎこちないけど、自分より少し大きな手が、心地よくて。

前よりさらに高くなった頭を、少し見上げて。


なんだか泣きそうになる。
ああやっぱり、
やっぱりうちは、
神尾の前だとこんなにもオンナノコだ。



やっぱりうちは、
神尾が好きだ。

好きだ。

ムカつくしダメでしょうがないやつだけど、
やっぱり好きで仕方がない。


現実は、なかなか思い通りにはいってくれないけれど、
とりあえずもう暫くは、走り続けられる。
そんな気がした。


超前向きに検討してみた結果は、
もうちょっと引っ張ってやろう。
アイツがいつもそうみたいに、
女々しく女々しく先延ばしにして、
たまにはアイツを焦らしてやろう。


落ち込んだり

落ち込んでるのに笑ってみたり

色々あるだろうけど


心からの笑顔が増えますように。


握る手に力込めて駆け抜けながら、そう思った。






















はい、『te/mi/ho/e-rror』の続編でした!
前作読んでないとちょっと意味不明かな??
色々な方から支持を得ている作品なので
続編が皆様の納得いく形ならよいのですが…。(汗)

かなりお気に入りの作品だったので力入れました。
ようは、神尾の女々しさが伝わればいいかなと。(笑)

本当はこれで終わりにするはずだったのですが、
途中の神尾目線モノローグを切り取ったものを
別の話としてアップすることになりそうです。


2008/07/22