* 大好き涙が止まらない。 *












2月14日。
今日は、日本中の乙女が勇気を振り絞る日。


私、は……
もう振り絞っちゃった後なんだけどナ。



、おっはよーん」

「おはよう


後ろから肩を叩いてきたが、
そのまま私の腕を引く。


「ね、ね、チョコレート持ってきたの?」

「う、うん…いちおう、ね」


鞄を掴んだ手を、ぎゅっと強めた。
この中には、昨日の夜中の、私の頑張りが。


「やるじゃーん!!さすが。頑張ってよね〜応援してるからっ!」


そんないい加減な言葉を残して、は走って消えた。

本当に応援してるならいいんだけどさ、
実際はただ端から見て楽しんでるだけなんだから。
自分勝手だなぁ。

心の中でくすくすと笑う。


こんな、達観した気分で見ているのは、見えてしまうのは、
私は、もう純粋な恋を終えてしまったから。



「何やってるの、早く来なよー!」

「え?あ、今行くー!!」



居なくなったと思っていたは、
遥か前方で足を止めるとこっちを振り返って叫んだ。
焦って、私は走り出す。


走ると、冬の空気が頬に当たって冷たい。
私は少しスピードを緩める。
でもそうするとが文句を言いそうなので、
気付かれない程度、ほんの少し。
だけど、早く建物の中に入りたい気もする。



私の現状は、まさにこんな感じ。


ただがむしゃらには走れない。
だからといって目標が定まっているわけでもない。
アクセルを踏むべきなのか、ブレーキを掛けるべきなのか、
それすらも分かっていない。





ごめんね、
まだ言えないで居るけど。

本当はね、私の恋、3ヶ月以上前に終わってしまっているんだよ。






あれは、二学期半ばのこと。

好きで好きで仕方がなくて、
見ているだけで楽しくて嬉しいのに、苦しくて。
想いが伝わらないのって、こんなにも
寂しくてもどかしい気持ちなんだ、って、初めて知った。


だから私は、告白した。

フラれるって、分かってた。
期待なんてこれっぽっちもなかった。
でも、ううん、ノーっていう返事を聞いた時、
とってもとっても哀しくって、
やっぱり、ほんのちょっとは、期待してたんじゃないのかな。


でもそれも、3ヶ月以上前の話。
もう立ち直ったし、思い出して辛いなんてこともない。


辛いのは、アナタへの気持ちが抑制されてしまうこと。
だからね、私は、言ったんだ。本人に。


『フラれちゃったけど…まだ暫く好きだと思う』


アナタは微笑して、こう言ったね。


「俺は今まで通り接するから、心配するな」


期待していた返事だったのかな、
嬉しくって、涙止まらないままだったよ。




アナタは、信じていないかな?

フラれて、その後数日はちょっと気まずかったけど、
半月も経つ頃には、その言葉通り、
拍子抜けするくらい“今まで通り”の関係に戻っていたから。

だから、信じていないかな。
私が、本当に、未だにアナタのことが好きだってこと。


今も好きだよって伝えたとしたら、アナタは、どうする?




さて、肝心の鞄の中身は、いつ渡そうかな。
本人に直接渡したいけど、二人きりになるチャンスがない。
だからといって、呼び出すのも勇気要るな…。

あの時ほどの勇気じゃないけれど、
状況が変わってしまったから、
あの時以上に、覚悟が必要。






  **






いつの間にか放課後。
授業が終わって掃除の時間。
掃除がない人は帰宅、もしくは部活へ。



教室の中にはまだ人が大勢居る。
だけど、逆に賑わいすぎてて、不自然にならないかもしれない。
私は歩み寄る。アナタの元へ。




「大石!」



荷物を纏めて部活へ向かおうとしているところへ。
一度持ち上げた荷物をまた下ろして、
「どうした」って言ってくれる。
細かいことだけれど、こういうところが、好き。


平常を装う私だけれど、心臓の中は、バクバク。

どんな反応されるかな。
この人に限って拒絶するってことはないだろうけど。
でも、どうなるんだろうね。



「はい!」

「え、俺に?」



鞄の中から小さな小包を出して、差し出す私。
戸惑ってる大石に、首をこくんと頷かせて返事をしてあげる。


「いつもお世話になってるから」


周りに人が居るの知ってるから、そんな配慮。
本当は言いたいのは、そんな言葉じゃないのに。


ちょっと戸惑った風だったけれど、大石は

「サンキューな」

と言って小さく笑った。


私は走ってその場を後にする。








スキ。スキ。

やっぱり好きだよ。

フラれたからって諦められない。


私はアナタが




好き。







  **








翌日。

朝、登校した私は、自分の席に着き頬杖をついて黒板を眺めている。
一ヶ月先まで待ちきれない心臓が、大きく波を打つ。



昨日の、どうしたかな。
やっぱり、捨てられたかな。

始業のチャイムが鳴る5分前。
朝練を終えた大石は、教室にやってきた。

振り返ると、目が合った。
おはようって感じで軽く会釈をして、それだけ。
会話なんてない。
不自然な視線交差だけ。



それなのに、

「あ、そうだ」

とか言って、こっちに歩み寄ってくる。






「おいしかったよ」







――――――……。








………バカ。

バカバカバカ。
大石のバカ。


そんなこと言われたら、
余計好きになっちゃうじゃん。






私ね、渡したチョコレートと一緒にね、
こんな手紙を入れたんだ。



『大石へ。


 ハッピーバレンタインデー。


 一度はフラれてしまったけれど、

 やっぱり私はアナタが好きです。

 でもまさか、こんなことで

 振り向いてもらえるなんて思ってない。


 これは、貰ってほしくて渡したんじゃない。

 私が、渡したいから渡したの。

 もし迷惑だったら、捨ててください。

 私の願い、叶えさせてくれてありがとう。


 より。』



愛のこもらない、こんな短いメッセージ。



だって、たくさん愛をこめたりしたら、アナタ迷惑でしょう?
一度はフった相手に言い寄られるのって、
どんな気持ちかなって考えたらやっぱりイヤだと思うんだ。

だから、受け取ってくれてありがとう。
私はそれだけで満足だよ。
その後のことは知らないから。分からないままだから。

受け取ってくれた。
渡すことができた。

それだけで大満足だったんだ。



それなのに、なんでそんなこと言うの。




涙が滲みかけたとき、みんなの話し声が一気にフェードインした。

そうだ。教室の中だった。
そう、昨日私がチョコレートを渡したときみたいに、
誰と誰が喋ってても不思議じゃない、ざわついた時間。


…もしも昨日、私が二人きりの時に渡してたら、
これも、二人きりの場で返事をくれたんだろうな。


この。バカ。



今はみんなが教室に居るからそんなことできないけど、
もし二人きりだったら、私は泣き出してただろうな。
我慢する意味もないし、何より、
ちょっとは困らせたい。

少しは私のために悩んでよ、なんて、
そんな押し付けがましい乙女心。
全然特別なんかじゃないのに、
アナタの中の一人になりたがる。




「それは良かった」




必死に笑顔取り繕って、私はそう返事をする。

大石は、ちょっとだけ哀愁漂わせてにこっと笑って、
その場を後にすると自分の席に座った。



入れ替わりで、一部始終を見守っていたが駆け寄ってくる。



「やったじゃん、やったじゃん!」



違う。
違うよ



今の笑顔はね、
この前の続きなんだよ。
私は告白してフラれたけど、
その返事は今も変わらないってことなんだよ。


「ありがとう」って言えないから、
でも「ごめん」は繰り返せないから、
その代わりの、「おいしかったよ」だったんだよ。
「以上です」って意味の、笑顔だったんだよ。



ごめん。
ごめんね。

、私ね、隠し事してるんだ。


私の恋は、3ヶ月以上前に、終わってしまっていたんだよ。





……ぽろり、と。



「え、泣いてるの?なんでぇ!嬉し泣き!?」

…」



私はの胸に飛び込んで、泣き始めた。
遠くの方でアナタがこっちを見てきていたかなんて、知らない。
そもそもそんなことを期待するのが間違っている。
私はアナタにとって、特別でもなんでもないんだから。

だけどちょっとは期待してる。
するだけ、傷つくってってわかっていながら。



私のこと好きにならなくてもいいからさ。
片隅にだけでも置いておいてよ。
ちょっとだけでもいいから、特別なうちの一人にしてよ。


そうでもしないと

この涙止められないよ。






















今年の初書き。おおお大石ぃー!!

はっきりいってどうみても悲恋だけれど
表に起きたいがために微悲恋を主張。笑
まだ途中なんだよ。と、いうことじゃダメですかね。
いつかはこの二人くっつくんだよ、
とか夢持たせる発言しちゃダメですかね。

現実の予想図なんですが。笑
そういうやつなんです。大好きなんです。がぁ!
決して大石に似てるわけではないのに
大石に行動当てはめても全部不自然じゃない…おぉ。

大好きをイッパイ詰めて、やっとこの作品は完成。


2007/01/04