* 氷点下の中、上着もナシに。 *












「じゃ、オレそろそろ帰るわ」

「そうだね」


冬至も過ぎて伸びてきたとはいえ、
5時には歌と一緒に夕焼けこやけで日が暮れる。

私は雅也を玄関まで送る。



「うわっ、さすがに寒みぃ」



上着を着てこなかった雅也はそういって肩をすくめる。
私は、くすくすと笑う。


「な、何笑ってんだよ」

「だって雅也ァ、鼻真っ赤」

「あ……」


雅也は、尚更顔を赤く染めた。


「息まで白いじゃねーか!!」


照れ隠しにそう叫んだ雅也は、
ポケットに突っ込んでいた手を口の前に持ってきて、
ハァー…と息を吹きかけてやる。
顔の前が白く雲ったのも相乗して、
なんだか、とっても雅也がキレイに見えた。



「ねぇ雅也」

「あ?」



またポケットに手を戻した雅也は、
首を縮めこんだまま、こっちを振り向いて。



「帰ってほしくないなぁ…」



小さくダダをこねる私を、
大きく広げた目で驚いて。


「どうした、お前」

「もうちょっと一緒に居たい」


顔を伏せたままの私。
たぶん、今、雅也なんかよりずっと顔赤いよ。


こんなこと、したことなかったのに。
甘えたりわがまま言ったりなんてしたことなかったのに。
だってそんなことしなくても、
雅也は私の気持ちを汲んでくれるから。

だけど今日は、どうしても、私の方から繋ぎ止めたくて。



「……お前」

「え?」

「変わったよ、なんか」



顔を上げて視界に入ったのは、
口元に手を持ってきている雅也。
その頬と、鼻、と、耳、は、全部真っ赤。
私なんかより、ずっと赤い。


「どこが?」

「そんなこと…言ったことなかったろ」


今度は、腕で目を覆う。

気付いてたんだ。
私の性格、わかってくれてるんだ。


私だって知ってるよ。
雅也って、自分から何かをする時はどんどんやるくせに、
いざ人から何かされると、かなりの照れ屋だってこと。


大好き。



「その辺、一周してくか」

「うん!」



私は雅也の首にマフラーを巻きつける。
前は5センチとなかった身長差が、
いつの間にか10センチほどついている。
本当はドキっとしてる素振りなんて見せないで、
私は笑って、雅也も笑ってた。






















『不器用が温かい。』から一年後の冬。

オフの絵日記で「氷点下の中上着ナシに歩く桜井君」を
描いたイメージでそのまま小説にしました。
私は桜井君に夢を見過ぎてる節もあるけどいいんです。
モブは妄想して捏造してなんぼ(笑)

遥か昔に書いたのに変な場所に保存されてて忘れてて
まさかの6年半越しのアップ(笑)


2007/01/04