* コトばト涙で笑顔 *












突然だけど、私には好きな人が居ます。


別に、特別目立つ人ってわけでもないんだよ?
そんなにモテるタイプとも思えない。
…好きになっておきながらなんだけどさ。

でも、彼の周りにはいつも人がたくさん居る。
女子も男子も。
人望が厚いってやつなのだろうか。



大石秀一郎。

……大スキ。



目が合うだけで頬が上がる。
会話が出来たら一日幸せ。
登下校が一緒になってしまった日なんかは
ウザいほどに友人に報告のメールを送りまくる。


“サバサバしてる”通り越して
“バサバサしてる”とか言われちゃう私だけどさ、
やっぱり女の子だし人並みに恋とかしてみるわけ。
思ってた以上に乙女な自分にびっくりしてる日々だよ。



好きって気持ちって、こんなに凄いものなんだね。





  **





秀一郎の周りには、男子じゃなくて女子もいっぱい居る。
だから、みんなクラスメイトで、ただの友達だと思ってた。
だから、私にもチャンスはあると思ってた。

だけど。


、どこでお昼食べる?」

「学食」


“特別な存在”に気付いたのは、
二学期が始まって間もない頃だった。



うちのクラスは仲が良くて、
男女関係なく下の名前で呼び合ったりする。
それなのに、秀一郎が他の子を下の名前で呼び捨てすると、
すっごく嫌な気持ちになる。
でも、「友達だから」ってずっと自分に言い聞かせて、
その嫌な気持ちも乗り越えてきた。でも…

秀一郎がちゃんの名前を呼んだ時、
他の子を呼ぶときとは違う、何か、嫌な感じがしたんだ。
はっきりとは分からない。
でも、後から思えば“オンナの勘”ってやつだったのかもしれない。



意識してみれば、
朝の学活が始まる前、
休み時間に入った時、
掃除の時間、
放課後、
秀一郎が誰かに話しかけるとき、
その相手は大抵ちゃんだった。


嫌な感じが、どんどん広がる。





  **





途端、毎日が苦しくなった。

目が合って挨拶されて、その時は嬉しくても、
ちゃんと会話している秀一郎を見ると
そんな嬉しさ全部吹き飛んで苦しくなっちゃう。

前は、秀一郎が他の女の子と話してる苦しさを、
視線一つや言葉の一つで乗り越えられてたのに。
逆転しちゃったんだ。
幸せが苦しさを包み隠せなくなった。



二人が話しているのを見ると、とても楽しそうで、
どんどん自分が小さくなっていくのを感じる。

私は特別でもなんでもないんだ、って、痛感してしまう。




分かってる。
分かってしまった。
叶うはずのない辛い恋なんだって。

二人はまだ付き合ってる様子はない…。
でも、時間の問題だって思った。


だったら、

二人が付き合い始めちゃう前に、告白したい。


付き合い始める前だったらまだ可能性があるから、それが一つ。
まあ大して期待なんかしちゃいないけど。

もっと大きな理由は、
ドキドキしたままフラれたい、ってこと。

今回の恋はね、本気なんだよ。
結果が分かってから告白するのは、諦めるための儀式。
結果が分からずに告白するのが、純粋に、
私の想いを相手に伝えるための行為だって、そう思うから。
本気だからこそ、本気でぶつかりたい。


どちらにしろ、告白するってのは決めてる。
そうでもしないと、二人を見ているのは辛すぎるよ。
フラれてしまえば、その時は辛くても、
いつかは笑顔の思い出に変えられるって、分かってるから。





  **






ある日の放課後、私は教室に残って委員会の仕事をしていた。
気付けば、6時。窓の外は暗い。


「(そろそろ帰らなきゃ…)」


夜道、怖いな。
でもこれ以上遅くなったら余計暗くなっちゃうし…。

急いで帰るしかない。
そう思って立ち上がりかけたとき…。



、まだ居たのか」

「あ、秀一郎!」



そこには、部活が終わったらしい秀一郎の姿。



「どうしたの?」

「ん、忘れものをしたのを思い出して」


そう言いながら机の中から秀一郎は一冊ノートを取り出した。



は帰らないのか」

「か、帰る!」

「じゃあ行こう」



……うわぁ。
なんかすっごい自然に送ってもらえるっぽい感じ。
ていうか帰り道途中まで同じだしね。
現に今までも何回かご一緒してるし。


二人きり、か……。

もしかして、チャンス?




ドキン。



心臓が、波打つ。





ほとんど諦めてる。
期待がゼロかって言ったらそれも嘘なんだ。
だけど、フラれる覚悟はしてきた。

いいよね。


これ以上辛い恋見守るより、

いいよね?





げた箱で靴を履き替えて、私たちは岐路に着く。


「うわ〜真っ暗だね」

「最近日が縮んだな」


とりあえず、どうでもいい会話で導入。
よし、いつも通りだ。



「ねぇ、秀一郎…」

「ん?」

「話が、あるの」



言いながら、私は歩調を緩める。
そして、足を止める。
秀一郎に置いていかれる形になる。

数歩分先に進んだ後、秀一郎は振り返った。



「どうした?」


「………」



私は、無言のまま下を向いて、顔を上げられない。

心臓がバクバクいってる。


だけど勇気出して…視線だけでも持ち上げて。




「秀一郎……スキ」


ポロリと、案外あっさりそれは口から零れた。



「……え?」

「秀一郎のこと、好きなのっ!」



秀一郎は、信じられない、という顔をしている。
私は半ば怒り気味に吐き捨てた。


…」

「………」


今私、顔真っ赤だ。
暗がりだから分からないだろうけど。
顔だけじゃなくて全身が熱い。
ぶわって汗が噴き出したみたいになってる。

ドキンドキンドキン。
心臓と頭がぶっ壊れそう。



返事は分かってる、のに。

返事の予想はついてる、のに。




「でも俺……」




返事は、分かってた…はずなのに。




涙が。

ぽろぽろ出て止まらないよ。


バカこら止まれ。




「えっ、な、泣いてるのかい」

「ふっ…!うぇ〜〜ん!!!」




分かってる。
泣いたってどうにもならないってこと。

別に秀一郎のこと困らせたいわけじゃないし。


まあちょっとは、困れコノヤロウ、とか
思ってないわけでもないけど。



「あ〜…どうしよ。参ったな…」



頭を掻いてる秀一郎。
私は勢いで泣き出してしまったけど、
早くも治まり始めている。


……ねぇ。

わがまま言っても、いいかな?


いいよね、どうせ最後だし。

最初で最後だし、いいよね?



「しゅう…いちろ」

「どうした」

「ひとつだけ…お願いがあるの…」

「ん、言ってみろ」



頭に言葉を浮かべたら、涙がまた滲んできた。
一回は止まりかけたのに。


ダメだ。

ダメだ。


やっぱり……好きだ。




「一回だけ…抱き付いても、イイ?」




返事を聞く暇は、なかった。

自分の声がどんどん涙声になって、
一気に涙がポロポロ溢れ出してきてしまったから。



いいとも言われてないのに、
秀一郎の胸に自分の顔を押し当てた。

涙が止まらなかった。
咽び泣く声も止めることが出来なかった。



ずっと、触れたいと。
抱き締めたいと、思っていた身体。

こんな形で、それが叶うなんて。



胸に顔をうずめて泣き続ける私。
すると秀一郎は…背中に腕を回してきた。


情に流されんなこのお人好し!!


って、思ったけど…
その腕は、私がずっと、
ずっとずっと欲しかったもので。
それを拒むことなんて、出来なかった。



こんなにあったかくて。

こんなに幸せなのに。


どうしてこんなに切ないんだろう。





最初で最後の、君の腕の中。

涙が止まるまで、もう少し、このままでいさせて。






















大石の周りにいつも女の子がいるとは思えないけどな。(笑)
下の名前で呼ぶとかありえなさそうだけどな。
でもごめん現実込みなんだ。(←ぁ

本当は大石を使うべきじゃなかったね。
だって似ても似つかないもん。
でもね、愛しさゲージでつりあえるのが
大石しかいなかったの。(微笑)

せーつーねーいー。

あ、これは防御策です。
実際の後日談はそのうち書くことになると思うよ。
…その元気があればね。ぁ

なんでこれを表に置けるってこれは微悲恋だからさ。
フ。小説はいいよねぇ。(遠目)


2006/10/26