君が好きなんだよって言ったら、


私は本気なんだけど、君は笑うかもしれないね。











  * 初恋もあと一週間だね *












6年という時間は、
思ってた以上に人を変えた。



「わぁー…東京や」



思わず漏らした自分の声に驚きながら、
私は満面の笑みを作った。



ただいま!!






  **







引っ越したのは、小学校4年生に進級する時。
好きな人と同じクラスで、仲が良くて、
いい関係になったところで転校が決まったので
かなり悔しい思いをしたのを憶えてる。
小学校3・4年にはクラス替えがないから、
また同じクラスになれると期待を一杯抱いていたうちは
肩透かしを食らったような、悲しいような、
とにかくお父さんに散々悪口言ってた。

だけど、今ではこんなに大きくなりました。
お父さんとお母さんは尊敬しています。
面接で、尊敬している人は「両親とエジソンです」って答えました。
無事に第一志望の高校に受かりました。

そして、今、6年ぶりに里帰り。





6年前とはいえ、故郷の思い出は未だに色濃い。
だってその前には8年以上ここに住んでたわけだし、
こっちの方が時間も長いし初めての記憶だし
全てが鮮明に蘇ってきて、
「私の居るべき場所」を表している気がする。


やっぱり都会だな。
色々変わったな。
こんなところに、ビルあったっけ。


色々と考えながら、
今は祖父母だけが住んでる、元実家へ、歩いた。




扉の前で、一つ悩む。


ただいま?

おじゃまします?



……。




「ごめんくださーい…」




自信なさげに小声で言ったうちだけれど、
まだ背筋が伸びたままのおばあちゃんは
「はいはいはい」と元気そうに廊下を歩いてきた。



「あらあらあらちゃん、こんなに大きくなっちゃって」

「久しぶり、おばあちゃん」

「前はこーんなに小さかったのにねぇ」



ホントだ。

おばあちゃんって、もっと大きいって思ってた。
いつの間にこんなに小さくなっちゃった。


「たったの一週間だけど、ゆっくりしていってね」


優しくおばあちゃんは笑った。
これからあと一週間の生活にうちは希望を寄せていた。




今回うちが東京に出向いてきたのは、
同窓会があると聞いたから。

小さい頃から幼馴染でずーっと仲良くて
文通やらメールやらでやり取りを続けてきたが、
「今度うちのクラス同窓会やるけど、来ない?」って。

別のクラスなのに行っていいのーって聞いたら、
関係ないから来てきてーって。

が突然来たらみんな驚くよ」って言ってた。

「特に…あ、なんでもない」
って言葉が気になったけれど。






夜が明けて、同窓会当日。

6年前、いつも通りだった電柱の下で待ち合わせ。
住居の雰囲気は変わっていたけれど、
道なりなんかは何も変わっていなくて、
迷うことなくそこへたどり着いた。

はもう先に来てた。



「あ、!?だよね!!」

ー!!!」



感動涙の再会。

いや、涙は流さないけど。



「えー超久しぶり〜」

「うわ〜懐かしいわ〜」



思わず声高々に盛り上がるうちら。

そんな中、ふと、が呟いた。


、変わったね」

「え?どこが?」

「ノリが関西っぽい」

「うっそやーん!!」


眉をしかめるうちに対し、
くっくっく、と笑ってさは言う。


「あと、喋り方とか」

「えー何言ってんの超東京弁じゃん」


ほら、ってはうちの肩を小突いた。


「東京の人は東京弁とか言わないんですぅ」

「ぐわぁ!!やられたわー」


…と。

これか。このノリか。
前はここまでお調子者じゃなかったもんね。

でもやっぱり、今ほどではないにしても、
たまにふざけてみては、笑いを取るような子だったけどね。


すぐに照れ隠ししたがる癖とかは、
変わってないんだけどな。



「ま、とにかく行こうよ」

「そだね」



笑いながらの通学路は、
6年前の全てを思い起こさせてくれた。


思い出も。

風景も。

感情も。





「ひっさっしぶり〜」

「あーちゃんだぁ!」

「よーぅ私立娘!!」



あ、そっか。

は私立の学校を受験したんだっけ。
確か、青春学園とかいう。
他のみんなは大体地元の中学校に行ってるのか。


「ねえねえ女子校ってどんな感じ?」

「何言ってんのうち共学だから」

「あ、マジで」


ケラケラと笑う女子のグループ。
うーん。やっぱり居辛いか。


「で……アレ?」

「あ、ごめん。あの子うちのクラスじゃないんだけど、
 私の親友。小3で引っ越しただけど」

「あーさん。知ってる知ってるー」

「あれ、ちゃんじゃん!」

「おーやっほやっほ」


なんと小1と小2で同じクラスだった子発見。
うわー大人になっちゃって!!
でも面影は残してるね。

楽しいなー楽しいなー。
ちょっと後悔しかけたけど来て良かったわ。



「ねーなんかさぁ、男子の人数少なくない?」

「あ、でもアイツは来るよ」

「誰、アイツって」

「ほら、私と同じ学校の。真面目君!」

「あーあーあーアイツね」


アイツ…。
真面目…。

はて。


と、一緒の学校に行ってる人。


……んー???




「あー来た来た」

「噂をすればなんとやらー」



………え。




ちょっと待て。

ちょっと待てちょっと待て。



確かに。

確かにね、
目と鼻と口の数とかは同じなんだ。あと耳も。

だけど、え、同一人物か、っていう。



………。



「もしかしてコレ秀一郎!?」

「アタリ〜」



思いっきり指差して言う私。

秀一郎は
「コレってなんだよコレって…」
って少し呆れた感じで言った。


……なんだそれ。



「嘘や嘘やこんなデカなっとるなん聞いてへんし!」


「じゃあうちらあっち言ってよっか」

「うんそうだね」



だってだって、
秀一郎って言ったら、
まあうちが身長は後ろから数えた方が早い人だけど、
秀一郎は前から数えた方が早かった。
下の上だか中の下だかしらんけど
少なくとも真ん中よりは前だった。

それが…。


「身長、何センチ?」

「175ぐらい、かな」

「ひゃっ…!?」


私、166cm。
これでも女子では大きい方。
それでも、もっと……。


「なにこの敗北感…」

「どうしたんだいきなり」


あれ、気付けばたち居ないし。
まあいいわ、この際どうでも。


「…ちゅーか」

「ん?」

「その奇天烈な髪型なんとかならんの?」

「やっぱり変かな」


微笑する秀一郎。

…やっぱり、なんか違う。



「…変わったね」

「そうかな」

「ウン」

「そっか」


ほら。

前は、こんなじゃなかったもん。
悪口言えば、控えめだったけど言い返してきて、
悪戯すれば、拳振り上げて「こらー!」って叫んできて、
たまに誉めてみようものなら、あからさまに照れて。

……どこに言ったんだろ、秀一郎。


「…あ、そういやうちが誰か分かってる?」

「ああ。4年の時に転校しただろ」


うん。その通り。
でも前は、って、
名前で呼び捨てしとったくせに。

……。


なんや、アホらしくなってきた。
うちだけ秀一郎呼びしとるなんてわざとらしいっちゅーねん。

ま、変える気ないけど。



「大阪に転校したんだっけ」

「京都です」

「あ、そうか。ごめんな、なにぶん小さい頃の記憶だから」

「別に気にしてへん」



なんや、うまく喋れんで。
さっきから、なんや、関西弁ばっか使っとる。

これ、照れ隠しっちゅーんかな。



「…あの頃」

「ん?」

「あの、うちが転校した頃な」

「うん」


…ごくん。


「うち……秀一郎のこと、好きやって」

「……え」

「いや、『え』やのうて」


あからさまに顔を赤くした秀一郎は、
あたふたとした。

やっぱり、変わってないとこは、変わってないんか。


……。



前みたいなやんちゃさはないけど、
それでもやっぱりあの頃みたいにお人よしなんだろうな。
言われたら言い返すなんてことは減って、
受け止める広い心と体を手に入れたんだろな。


……。



「でも、俺も…」


秀一郎が「俺」やって。
ちゃんちゃらおかしくてへそで茶が沸く。

でもなんか、カッコエエな、とか。



思い起こしてしまう。

この人と居ると。


思い出とか。

風景とか。

…感情とか。



のこと好きだった、と思う」


ドキン。


……いや。
これは、今のことでないよってからに
何乙女ばりにドキドキしとんねんアホ!

と、心の中でひとり言…。



「ホンマか」

「……うん」

「なんや、相思相愛やないか」

「いやそこまではいかないけど」


秀一郎は苦笑した。


……なんかな。

あの頃は、両思いだったとして、
それが今、なんになる?

思い出になる。
それが?



経験って言うのは、思い出の積み重ねで。
つまり、思い出の中の出来事を、
いかに未来に繋げていくかっていうのは、
凄く意味の大きいことで。



たとえば、うちが今、

「好きです」って言うたら、

キミはどないする?




……どくんどくん。


どくんどくん。




軽く笑いながら。


「なんや、勿体無いことしたわ」

「え?」

「うち、今でも秀一郎のこと好きやし」


うぁ。
言ってのけた。



秀一郎、は…

ハハッて、笑った。


それだけ。



………。

冗談と思われたんかな。



…寒い。



なんかいえっちゅうねんドアホ!!
この状況で、うちから喋りだせるわけないやろ。


ちらっと、秀一郎を見た。

目が、合った。


パッと逸らされた。



……なんやねん。



と、
そしたら。



「…俺も」

「え?」


「暫く一緒に居たら、また好きになるかも」


「―――」




間が


長い。



長すぎた。



「な、何言うとんの!冗談やって冗談」

「え、そうなのか?」

「当たり前やろー」


とか言いながら、
顔が真っ赤なうちの言葉は果たして説得力があったのだろうか。

恥ずかしくて顔を逸らしていたけど、
一瞬目が合ったら、秀一郎の顔も赤くて、


 なんやこれ。相思相愛かいな。


なんてわけのわからんことを頭の中で考えて
目線のやり場に困ってた。



「じゃーそろそろ始めますので適当に席についてくださーい」


「あ、始まるんやて。ほら、行こ」

「あっ、ああ…」



焦って気まずい雰囲気を打破して、
急いで輪の中に加わった。

の隣にピタっとついた私は、
秀一郎に近付こうとはしなかった。

視線を感じたような気がしたけど、
それは予感ではなくて、期待なんだろうなって思って、


「では久しぶりなことですし、自己紹介から行きましょうか」


司会がそんなことを言って、
何を思ったか私は手を挙げて。


「トップバッター、です!
 本当はこのクラスではなかったけれど親友のお誘いによって
 参加させていただいておりますありがとうございます!!
 ただいま京都在住ですけれど、一週間限定で帰省中で、んで、
 そのついでに片思い中です!どうぞ宜しく」


ストンと座って、
そしたら、斜め前の席の人と目が合って。


苦笑い。


校庭に生えてた、思い出の、
甘酸っぱい夏みかんみたいに、
ほんのちょっとだけ、苦く。



だけどこんな初恋も、あと一週間の命。






















大石は小さい頃はやんちゃ坊で
歳の離れた妹が生まれた頃から
年を重ねるごとに老熟していったと思うの。

久しぶりに小学校の頃好きだった人が夢に出てきて
「あーもしかしたら今もまだ好きかも」
って思ったりしてしまうっていうそんな罠。

途中で止まってて久しぶりに読んで書き終えたんだけど、
元々はどんな話にする予定だったんだろう。笑
大筋は変わってないと思うんだけど。


2006/10/03