* マナーイズム *












、パンツ見えてるぞ」

「え、うわマジでじゃん」



ぱっと、めくれたスカートを直す。
ちゃんと直すだけまだ恥じらいがあるか。
いや、それが普通か。

平然とした顔で、
そんなことを言うようになった秀も秀だけど。

ぱらぱらと、それ以上はこっちに目を向けることもなく、
熱帯魚とか色々載ってる雑誌見てる。


私たち、いつからこうなったっけ。



ずいと、四つんばいになって秀に近付く。
向こうはこっちに顔を向けずにページをめくる。


「ねぇ、遊園地行きたい」

「行けばいいだろう」

「連れてってよ」

「無理言うな」


簡単に言い放った秀は、
すぐ真横15cmぐらいのところにある私の顔を確認して、
何も言わずに、ちょっと顔動かして、
ちゅっと軽くキスをした。
そして定位置に戻る。


当たり前すぎて、新鮮。



「だってさぁ、最近あんまデートらしいデートしてないじゃん」

「そうか?」

「そうだよ!週末は大抵お互いの家に入り浸ってるだけだし、
 たまに出掛けたと思ってもマンネリコースじゃん」


マンネリとか言うなよ、って秀は笑った。
それに、和まされてる私も私だけど。


でも、その“マンネリ”って言葉を秀の口から聞いたら、
アレ?って、ちょっと疑問に思った。

喫茶店でお茶するとか。
ファミレスで駄弁るとか。
街で買い物するとか。
カラオケで歌うとか。
手を繋ぐとかキスするとか。

これ、マンネリなんだ。
ほんの数年前には、夢のまた夢だったようなことが、
全部。



「……私がいけないのかなあ」

「おいおい、どうしたんだお前」



私、こんなに可愛くなかったっけ。
少なくとも恋をしていた頃は、片想いしてた頃は、
もっとカワイイ女の子だったと思う。
スカートの裾にはいつも気を払ってたし、
喋り方や歩き方、果てには
髪を手で触るタイミングまで気にしてたものだ。
笑顔でキラキラした子になれるように、毎日努力してた。

だけど今は、なんなんだろう。



「本当は、特別だったよね」

「ん?」

「特別だったのが、普通、に……――」


喋りながら、泣きそうに。

「ん?」って聞き返した時の秀は、その聞き返し方は、
あの頃と全く同じだったことに気付いたからだ。


私は耳に髪を掛ける。
ああ、これは、不安になってる時の癖だったっけか。
それに気付いたのは、秀だったけど。




「どうした」




肩を、ぐいと引かれた。


掛けられた言葉は、語尾が上がってなくて、
訊かれてるんじゃなくて、慰められてるんだって気付いた。


そっか。全部分かってるんだね。

言わなくても、いいのかなぁ。






「来週、遊園地行こうか、久しぶりに」

「やっぱ、いい。秀の家でごろごろしてるの好きそれでいい」

「そうなのか?」

「あ、でもやっぱ久しぶりだし行く」

「そういうと思った」

「何それ」




肩を抱かれたまま、二人で笑って、
その腕はそっと放されたけど、
お互い横向いて、顔は真正面向き合わせて、
ちゅうっと、少し長めのキスをした。



この“当たり前”は、もう少し私を楽しませてくれそうだ。






















マンネリやほーぃ。
でも結局最後は愛なんだよね。

飽きがくることもあるだろねそりゃ。
でもさ、そういう時何が救いになるって、
今の中にも昔から変わらない何か、
の存在なんじゃないかなぁとか思ってみたり。

変化で盛り立てることもできるよ?
でも結局最後に守るべきなのは、そこなんじゃないかなって。


2006/09/30