* blue-green amour *












「ねぇ、の好きな人って大石?」



始まりは、友人のこの言葉。

せめて、小さな声で言ってくれればこんなことにはならなかった。
もしも、人名を出さなければ。



「うわー、と大石はデキてるぞー」

「あっちっちー!と大石あっちっちー!」



違うってば、と、否定することも出来ず、
うるさいなあっち行ってよー、としか言うことが出来なかった。


「アイツ否定しなかったぞ〜!」とか叫んでたし。



……ったくも〜…。




「おい、ちょっと来いよ」

「なんで私が」

「いいから来いって」



…予想を立ててみる。

多分、呼び出された先で大石とご対面。




あーもう、なんでこんな面倒なことになっちゃったの!!
があんなこと言い出すからだあーも〜……。




しかし予想外なことに…
大石に会わないまま、体育準備室へ。



と、思ったら。



「やっぱり居たー!!!」


「あ、




しかも、大石何も知らない風だし。



「どうしたんだ、突然」

「へ?私じゃなくて…」




「「せーの!!」」





「え?」

「は?」




「「……わあぁぁっ!!!」」





抵抗する間もなく。

呼び出してきた男子二人に体当たりされて、
私たち二人は、何かに、押し込まれた。



「え?え、え?ええ!?」

「どういうことだ!」



「それじゃあ二人とも、ごゆっくり〜」



笑い声。



がちゃん。


鍵が、掛けられた。



足跡が、一歩ずつ遠ざかっていって、

扉が、閉まる音。


………絶望。




、これは一体…」

「私が聞きたいわよ!!」


叫びながら、状況を把握しようと努めてみる。

大きさ・形・体当たりされる前に見えた風景を考察するに
ここは体育準備室内の掃除用具入れと見て間違いない。
しかし、準備周到なことに中には箒やちりとりは入っていないよう。
そして何故だか、壁にもたれているのか
この掃除用具入れは斜めに傾いている。

まあつまり、
私が大石に覆いかぶさっている体勢だ。


「だって、俺はが呼んでるって…」

「あーもうあんなの嘘よ〜…」

「えっ、そうだったのか」


嗚呼…。


というか、原因はさておき。


何これぴたっと寄り添っちゃって。
ただでさえ季節的に暑いっていうのに…。

体育準備室が涼しいのだけが、救いだわ。
といってもこの狭い空間の中、
二人で入っていたら一気に気温は上昇しちゃうだろうけど。



ていうかこれ、暑いとか暑くないとかいう問題?



「ど、どうしよう……」

「参ったな…」


どうしよどうしよ、とか、
そんなどうでもいいことをたくさん呟いてたら。



…」

「な、なに?」



もぞもぞと、居心地悪そうにして、大石は


「この体勢は、厳しいかな…」


なんてことを言う。



「厳しいって、何が…」

「何が、って…分かるだろ」


「 ・ 」




…うん。
分かってる。



 私の胸、思いっきり大石に押し付けられてるし。


 大石の脚と脚の間に、私の脚が入ってるし。


 顔、近いし。



……確かにやばいよ、これは。



「ヤダ、何考えてるのスケベ!変態!!」

「なっ!だって、仕方がないだろ!?」



私は思いっきり怒鳴ってみせた。

分かっちゃったからこそ、
私は冗談のようにして切り抜けるしかなかったんだ。


だって、もし本当に変な気起こされたら、困るし。

そうしないと、本当に、変な気起こしそうで。


胸のドキドキ、伝わっちゃったかな。




………。




「困った、ね」

「ああ……」



その場しのぎのコメントは、
所詮その場しのぎでしかなくて。



それから暫く、沈黙があった。

だけど、私の耳には、脳には、
絶えず鼓動が響いてて。

私の、心臓。
大石の、心臓。

両方伝わってきて、少し速度の違う心拍数が、
不整脈みたいに、波打って、頭どうにかなっちゃいそう。


斜めに傾いた空間の中、私たちは、どうすることもできない。


「おおいし…重くない?」

「それは、大丈夫」


吐息混じりに大石は返事をした。

それは、という言葉に必要以上の重圧を感じた。


つまり、他のことが大変らしい。



どうしよう。

どうしよっか。


……どうしようもないか。



「ごめ、ちょっと…体勢変えていい、腕痺れちゃって…」

「ああ………、アっ!」




何。



その、微かに高い、声は。




「え、えと……」

「ごめん、あんまり…動かないでくれるかな…」

「あ、ごめんねごめんね!」



その言葉で、気付いた。


私の腿、大石の…アソコにずっと当たってる。



「(これは、動いちゃまずいよね…)」


「腕、大丈夫かい」

「うん。な、なんとか…」



気 ま ず い 。



絶対大石頭ん中あんなだしこんなだし
ていうか私も結構意識しちゃってるし
これどうしたらいいのこの空気どうしたら!!


あーもうどうしてこんなことになっちゃったんだっけ…。

どうしようどうしよう!!





……はっ。


こんなときに…!


「(や、やめてよやめてよ!!)」


いくら心の中で叫んでも…
止まらないものは止まらない。



「おおい……ふっ、ふぇ…」


「……?」




その時。





「……へぇっくち!!」





やって

しまった。



鼻水が出たとか、そうじゃなくて、そんなんじゃなくて、

くしゃみの衝撃で、体が動いて。



だから要するに


私の膝が


ジャストミート。



「オオイシオオイシオオイシーー!!」

「ごめんごめんごめんごめんごめんごめん!!!」



泣きそうな声で大石は謝ってきた。

でも、本人にはきっとどうしようもないことで。

寧ろ謝らなきゃいけないのは私の方なのに。



私が上に乗っかっている体勢にも関わらず、
下から、布越しに……押し上げられてる。



「ごめんホントごめん!そんなつもりじゃなくて、
 その、だから……本当に、ゴメン!!!」

「だだだだだいじょうぶだからとりあえず落ち着いて!!」



だいじょうぶじゃ、ない。


本当は、私まで

心臓ぶっ壊れそうだよ。




「大石、どうしよう」

「え?」

「なんか…私まで興奮してきちゃった」

「こんな時に変なこと言わないでくれよ…」



大石は情けない声を出した。けど、
下のほうは情けないどころか元気イッパイで。


私だって

無理だよ

こんなの。



だって、狭くて暗い空間にだよ?

好きな人とピッタリくっついて
あんなことやこんなこと想像しちゃったら、さぁ。





「ねぇ、大石」

「え……?」



さっきから、大石は私が声を掛けるたびに聞き返してる。
多分、必死なんだろうね。必死。

いつの間にか、呼吸は荒くなってきてて。



「暑くない?」

「暑い、けど…………!?」



私の行動は。

こんな状況じゃなければ、絶対やらなかった。


あまりに、暑いから。
暑すぎて……壊れそうなくらい、熱くて。

脳味噌ゆだっちゃってたんじゃない?
そうでなければこんなことしなかった。



!?!?」

「ほら、ちょっと涼しいでしょ」



私が何をしたかというと。

自由に動かせる状態だった左手で、
大石のワイシャツのボタンを、外してやった。
上から、一つずつ。
といっても体勢的に二つしか外せなかったけど。


現れた肌にそっと手を触れさせてみた。
少しじっとりと汗で湿った、熱い体がそこにあった。

指で、すーっと線を引いてみる。



!!」

「どう、感じちゃう?」



暗くてよく見えなかったけれど、
大石が口をぱくぱくしている姿が想像できた。



、こんなことは…」


「ねぇ大石」


私は声色を変えた。わざとだ。

おどけた感じから、真剣な風に。


だって、この想いは、真剣に受け止めてほしいから。





「私、大石のこと、好きだよ」





ちょっと、沈黙。





「こんな状況にならなかったら言い出せなかった。
 分かってる。こんな時に言うのなんてずるいって」

…」



言葉に出したら、
想いがいっぱいいっぱい、溢れてきて。


「でも…本当はずっと好きだったんだよ…!」


涙、が。
こんなに簡単に出るなんて思わなかった。

ぬぐう余地もないまま、ぽたっと、
大石の開けた胸に一滴落ちた。



「…?」

「な、に…」


その時の私の声は、自分でも分かるくらい鼻声で、
大石のぎょっとした表情が想像できた。


「な、泣かないでくれよ…」

「ごめん、ごめん……」


大石に慰められてる自分を考えてみたら、
これってつまり、上手くいかなかったんだな、
って遠回しに理解して、余計涙が出た。
そんなこと、大石には知れちゃいけないけど。


なんとか泣き止もうと努力していたら、大石は言った。



「そんな…好きな子と狭いところに閉じ込められて
 泣かれたりなんてしたら、理性が保てるわけないだろ」



………え?

今、なんて。



「大石、今…」

「……俺も、のことが、好きだよ」



う そ 。



「ほ、本当に…?」

「嘘を言うわけないだろ」

「えええええ、え!よ、よかったぁ…」



そしたら。
余計に涙が出てきちゃって。

今度はしゃくり返るぐらいの本気泣きをしちゃった。
でもね、違うんだよ。
これは、嬉しいから零れる涙なんだよね。


…」

「うぇ、なに……?」

「もう……我慢できないっ」


言葉の意味を理解する間もなく。


「え、おお………キャ!」

「さっきがやってたのと同じことだろ」


大石の、手、が。

お腹の横から、服の内側に入ってきて。



「や、やだ…あダメ…くすぐったい…あっ、あはは!」

「じゃあ、ここは?」

「あはははは!」



横っ腹を撫ぜるようにする大石。
その時は、くすぐっただけ、だったんだけど…。


「…あ、やん!」

…かわいいよ」


大石の手が、胸の方に伸びてきて、
ブラ越しに…そっと、揉まれた。

本当は、止めることも出来た。
私の左手は自由に動けたから。

だけど、止めなかった。止められなかった。
そのまま乱されたくて、そんな自分に驚いて、
だけど、どうすることもできなかった。


「これ、外したいけど無理だよな」

「無理だよそんなのぉ」


さっきまでの情けなさとは打って変わって、
どんどん積極的になっていく大石は、
私のブラまで外そうとしているみたいだけれど
なんにせよこんな状況なわけで、思うとおりにはいかない。



「でも…こんなんで治まらないよね」

「治まるわけがないだろう」


開き直ってるし。
ああ、なんか大石…いつもとキャラ違う。面白すぎ。

開き直ると怖いA型。
思い切ったことした後に後悔するA型。

と、思ったけどこの人O型だっけ。
まあいいやそんなプチ情報は。


どうしてくれよう。





……ヤバイ。


むらむらしてきた……。





「おおいしぃ…」


「んー?」


「ちゅーしたい」







間。






「は?」


「ね、キスしよ」







なんかもう、


 どうにでもなれ。







私が少し顔を近付けようと首を伸ばしたら、
大石は、私の顔に触れて。

そのまま、お互い不自然に相手の首の後ろに腕を回して
至極無理のある体勢で、相手を、貪って。




……何、コレ。




想像していたのと違う。

キスって、もっと甘くて柔らかくて、
ふんわりとしてちょっと甘酸っぱい、
そんなものだと思ってた。ファーストキスなら尚更。


なのに…実際は、
熱くて、熱くて、獣みたいに、噛み付くみたいに、
舌も唾液も全部混ざり合って一つに溶け込むみたいに
なんだか、どろどろとした、全然キレイなものではなかった。




「(もしかして…初チューでディープ、ってやつ)」




遠のいていく意識の中、そんなことを朦朧と考えていた。




体中が。



熱い。





いつまでこんな…絡まりあって。

苦しい。
でも、嬉しい。

気持ちよくて、いつまでも繋がっていたいよ。




遠くで、チャイムの鳴る音がした。
だけどそんなのも無視して、私たちは繋がっていた。

一旦離しても、角度を変えて。
新しい場所を、より深く。
絡まりあって、隙間すらないほど。



ヤバ イ。


ここまですごいものだとは思ってなかった。
脚ががくがく震えてきた。
今、全体重は大石に掛かっちゃってるけど、
もし地面に立ってたとしても、
自分の体重を支えきれる自信がない。

腰、砕けた。




「おお、いし……」


…」





と、その時。






『ガラガラガラ』


「!?」



私たちは、焦ってお互いの顔を遠ざける。
といっても半径30cm以内には収まったまま。

扉を開ける音。

一歩。

一歩。

足音が近付いてきて。




…ガチャン。



鍵が開けられた。






「大石ー、ー、生きてるかー」

「デキてるかー」

「生まれるかー」

「いやいやそれ早すぎだから」



笑い声。


呆然として、動き出せない。




でも扉は…開かれた。






私は無言で、そこから一歩踏み出す。


その途端…へたり込んでしまった。

そして大石は…その横をすり抜けて全速力でどこかへ消えた。




「あっ、おい大石どこ行くんだよ!!」



アンタ大丈夫!?」

〜〜〜!!!」




ドクン。

ドクン。

ドクン。



心臓が強く波打っている。

さっきとは違って、
たった一つの、強い振動が。



「なになになに、どうだったどうだった!?
 私びっくりしたよー男子たちが教室入ってきて
 『と大石を監禁してきた〜』とかいったときは」

「あはは」



私は、笑った。


だけど、



「何があったか…」




「それはナイショ」



そうやって誤魔化した。

誤魔化しきれてないのは分かっていたけど、
そうして、秘密を作って守りたかった。



「なによそれ」


「まあ…上手くいきました」


「えー何それなにそれっ!?」





  * *






今日、今しがた、あった出来事は誰にもいえない。



だけど、何年か後になって、語るのだろう。

「私たちは、体育準備室のロッカーの中で始まったんだ」って。



恥ずかしくって、詳細なんか言えやしないだろうけど。






















テーマ:青臭さ(笑)

展開無理矢理臭いけど気にせず。
狭くて暗い場所にぴったりお互いが好きな二人が
入っちゃって暫く時を共にしたら
大変なことになるだろうな、と。(笑)

何がしたかったんだろう。
…大石をムラムラさせたかったんだろね、うん。(えええ)


2006/08/31