* 強くなれるよ。 *












「秀、大丈夫なの?」



私が問いかけると、
きょとんとした顔が斜めに写った。


「なんのことだ」

「最近やつれてない?」


間髪居れず返答する私に、秀は、
参ったな、という表情で天井を仰いだ。


「確かに最近はテニス部の副部長としての仕事も
 学級委員の仕事も多いけど…でも前よりも体力もついてるし、
 やつれるってほどでは…」

「やつれてます!だって見てよこの腕。
 スポーツやってる男の腕じゃないって」


私より細いじゃーん。
って言ったら、否定されたけど。(それはさすがにね)


でも、本当に心配になるくらい、
秀は細くって、不安になるよ。



「ちゃんと食べてるー?」

「食べてるさ。いつも見てるだろ」

「うん…。じゃあさ、ちゃんと寝てる?」

「寝てるよ」

「どんぐらい?」

「まあ大体…5時間くらいかな」


「げ」



…素で、「げ。」とか言っちゃいました。

だって、私、
それの2倍近く寝てるよ!!(9時間とか9時間とか…)



「どうしてそれしか寝てないの!」


「だって、学校に来るだろ。放課後は部活だろ。
 部活が終わって家に着くと7時頃」

「ふむふむ」



そのあと、
私は相槌を打ちながら話を聞いていたけれど、
どんどん青褪めていった。


夕食を食べて、少し休憩をする。
その時は音楽を聴いたり、本を読んだり、
そして日課として熱帯魚を眺めたりする。
水質や魚たちの体調によって餌の量も調節するらしい。

ある程度落ち着いたら8時半頃になっていて、それから勉強。
その日の授業の内容の復習と、明日の予習。
過去に習ったことの確認もかねて問題集を解く。
そうこうしているうちに、11時を周り、
一家の一番最後にお風呂に入る。

お風呂から出て深夜も間近になって、
パソコンを開いてメールチェック。
必要なものにだけ返信をして、余分なことはしない。

それが終わると鞄に明日の荷物を詰めて、
目覚ましを複数セットして、寝る。

朝は5時半起きで、部活には必ず一番に行って
部室の鍵をあける。朝練が始まる。
そして学校生活の幕開け。初めに戻る。



う わ あ 。




「よくそれで生きてけるね…」

「そうか?規則正しくて健康的だと自分では思っているんだけど…」

「いや、確かに規則は正しいけどぉ…」


私がやったら、過労死しちゃうよ。

そうならない秀は、自分の言葉どおり、体力があるから?
それとも、どこかに、降り積もっているものが。


「やめてよ、突然倒れるとか」

「大丈夫だって」


そういって微笑む秀だったけれど、
その後に「まあ…」と言葉が続いた。


「え、なになに?」

「え、いや、あの……」


ちょっと間を置いて。



「実は前にあったんだけどな。倒れたこと…」



……は。

なんだそれ!!!



「え、いつの話!?」

「まだが転入してくる前の話だよ」

「え、聞いてない聞いてない聞いてない」

「だってわざわざ話すこともないだろ」


そうは言われても……。

秀は困った様子だったけれど、
私が視線攻撃をすると、どうやら説明してくれる風だった。



「中学2年の時の話さ。
 初めて先輩とダブルスを組ませてもらって、
 練習があまりにハードで…」

「うっひゃあ、過酷だね運動部は」

「ああ。というかな、色々なことがいっぺんにやってきてさ。
 都の大会と学校の試験が重なっちゃって、
 部活の後には勉強もしなきゃいけないし、
 他にも読書感想文コンクールとか、色々あって…」


確かにあの時はきつかったかな。

平然と笑って、秀はそう言った。


睡眠削らざるをえなくてな、とか。
忙しすぎて食欲も減ってたし、とか。

平然とそんなことを言う。




「でも今はあの頃より体力ついたし時間の使い方もっ…、



 ?」





「バカバカ!秀のバカ!!」






私は。


秀に抱きついて、しがみついて、

そのまま動けなかった。




腕を放したら、崩れてしまいそうで。
力を強めたら、元に戻れない気がして。





「あんまり、無理しないでよぉ…」


「ああ」





「…………」



、俺は大丈夫だから」




「バカ」


「…ハイ」



「ばかあぁぁっ!!」





腕の中の存在が、愛しくて、いとおしくて。

まるで、貶すことで、愛情表現をするみたいに。



「学年トップなんかじゃなくっていい!
 全国一位目指したって、
 秀がそんな無理して、倒れたなんてなったら、嫌だよぅ」



わがままだって分かってた。
秀にとっては全国一位になることが全てってぐらい
大事なことって知ってたし、
秀の真面目な性格上、別にトップを目指しているわけでもなく、
日々の積み重ねで成績にも実りがあるっていうことも知ってた。


それでもね、私は……秀に元気でいてほしかった。

いつもいつも、いつまでも。




…」


秀はそっと、私の腕を解いた。




「心配してくれるのは、嬉しいよ。
 でも…これは俺の自己満足なんだけれど、
 今は頑張っていたいんだ。
 多少の無理があったとしても、それと引き換えになる
 大きな…大切なものを知っているから、
 そのためにだったら努力は惜しみたくない」



いつも真面目な秀だけど、
このときは、いつも以上に、真剣で。



「…なんていっても、きっと、
 これは俺が弱虫だからなんだ。
 後になって、後悔したくないから。
 後悔するのが怖いから、何かをしていないと不安なんだ」



痛いぐらいだった。




そんな秀は、ふっと笑って。




「でもに心配されてるようじゃダメだよな。
 俺も、もっとしっかりしないとな」




私はずっと我慢してたのに、やっぱり泣いちゃって。
頭はぶんぶんと横に振りながら、それでも、涙は止まらなくて。

そうしたら秀はぎゅっと抱きしめてくれて


が心配してくれる気持ちは嬉しい。
 でも今は…頑張っていたいんだ」


言い終えると

体が離された。



「必要以上の無理はしないから。
 だから…応援していてくれるかな」



苦笑いのような、優しい、ふっとした笑み。




私は目の端に涙を溜めて、
それでもやっぱり笑いたくて、
細くても、頼りがいのある腕にしがみついて、
ずっとずっと、声を張り上げていた。




強くなるために、頑張ってるんだ、って、やっと気付いた。






















普段の大石よりも勉強していない我。ダメ人間。
頑張るぜ受験生!!!

部活と勉強の両立ってどうなのかな、って。
大石頑張りやさんだからなー。
潰れてくれるなよ@

私も潰れない程度に強く生きます。頑張る!!


2006/08/24