* そろそろ終わりにしましょうか *












君なしでは生きていけない。


君さえ居れば生きていける。



君さえ居れば、他には何もいらない。




本当にそんなことを思って生きていた時期があったね。








「心理テストです。これから私がする質問に『はい』か『いいえ』で答えてください」

「はい」

「…まだ始まってません」

「あ、そうか。そうだな」


…もう。

バーカ。


「それじゃあ行きます。『どちらかというと、冬より夏が好きだ』」

「はい」

「はい…と。『食事をするなら、高級フレンチよりも庶民的な和食』」

「はい」

「『はい』ばっかだね。…『何だかんだ言って、世の中は愛より金だ』」

「はい」







 ・ ・ 。








「世の中は、愛より金だ」

「だから、はい」








  ・ ・ ・ 。









「愛より金だよ!?」

「え、もしかして引っ掛け問題なのか」




はぁ〜……。

溜息。

どうして、こう、君は中途半端に天然なの。



でもどうやら、これは真剣な様子。





「秀って、たとえ嘘でも奇麗事並べる人かと思ってた」

「なんだそりゃ」

「だからさー、『結局最後に残るのは愛なんじゃないのかな』ー、とか、
 『いくらお金があっても、の居ない世界なんて地獄さっ』とか!」


二つ目は冗談だけど。
でも、ちょっとは本気も混じってて。

そんな答えを、期待していたんだと思う。
そしてまだ、期待している。


「それも確かにそうだよな」

とか。もしくは、

「だからそう言ってるじゃないか」

とかさ。そうしたら、

「…俺さっきなんて言ったけか?」

なんてとぼけても許してあげる。


そんな答えを期待してた。


「それも一理あるかもしれない。けど…」


だけど、「けど」、がついてしまいました。
反対を意味する副詞。どうぞ。



「いつまでも、そんなこと言ってられないのかなって」



たった一秒程度の間が、随分重くて。




「何、経済的に苦しいとか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」


困った顔の秀を見て、
私は焦って
「じゃあ次の質問いこっか」
と言った。


進んでいく秀に。
自分が
置いていかれる
気がして。

早く進まなきゃって急く気持ちと同時に、
まだまだここに居たいっていう思いが重なって。

足が動かない。前にも後ろにも。


「………」

「…?」

「え?」

「次の質問じゃないのか」

「え、あっ、そうだった」


なんだそりゃ、と
おっちょこちょいな私を秀は笑って。

だけど私は泣きそうで。




「…きですか」


「え?」


「好きですか」




主語も

目的語も

全部抜かして。


それでも

伝わってくれることを

願った。




「ああ」




それを言うなら『はい』でしょ。

じわりと浮かんだ温かい滴は
繰り返される瞬きに掻き消されて。



「それじゃあ次の質問ね」

「どうぞ」



何もかも見抜いている貴方を見て

まだ、ここに居てもいいのかな、って。



少しずつ引っ張りあげてね。

一人で歩けるようになるまで。


見放さないでいてね。

たまに立ち止まってしまうけど。



君に後ろを振り返る余裕があるなら、

私はずっと、前を向いてさえいればいいから。



本を閉じた。

私も君も、
途中から路線の外れた診断結果なんて
気になんてしないだろうから。


目を見て。



「楽しかったですか」


「楽しかったですよ」




だから、それを言うなら『はい』でしょうが。




何食わぬ顔でそんな言葉を
笑顔のままにさらりと言う君を見て、
やっぱり先に進んでんだろうなってそう思った。


心にこみ上げる感情の名前を知るのは、私だけでいい。


ただ、私は、声を張り上げて泣くことを止めることが出来なかった。






















2006年の初書き。おぉ。
最後は明るい調子で読んでください。
だけどマジ泣きなんです。微悲恋万歳。

物語の真髄が隠されてるのは常にあそこ。ぁ
大石は肯定しかしてないんですよ、って話。
否定したとしても、「けど」が入る。うわ、尚更↓。


2006/01/25