* 刹那限りの両想い *












本日、卒業式。

明日、引越し。


年末年始は大忙しだけれど、
年度末だってそれ同様に忙しい。



そんなことも知らずに、桜は呑気。
ちらちらと舞って、あたりは淡紅色。

ロマンチックすぎて、柄に合わないや。


「大石っ」

「おお、

「卒業おめでとうございます」

「お互い様」


深々と頭を下げる私の社交辞令のようなおふざけに、
だけど真面目に返してくるのはさすがだね。


あんなことを話したね。
こんなときを過ごしたね。

憶えてる?
私は、一つ一つ全て残さず憶えてるよ。


横に並ぶ私は、
高低差10cmを感じながら、
どれくらいの音量で喋ればこのどんちゃん騒ぎの中
私の声は君に届くだろう、って。

結局、演技のようなはっきりとした喋り方で。



「どうせもう当分会うことも無さそうだしさ、言うけど」



入学した頃は高く感じた鉄棒が、
実は肩より低かったことに気付いて、
それとも、前はもっと高かったのかな。


「実は…さ」

「うん」



ドクンどくん。


変な、間。



「私……大石のこと好きだったよ」


「うん」



二つ返事は、
実は意味を含んでいなくて。


だけど直後、彼が放った言葉は。




「俺も…のこと、好きだった」。






くっくっく……って、
含み笑いのような笑いをする私たち。



「素で?」

「そっちこそ」



そんなこと言って、笑って、
本当はそこまで面白くないよなんて分かってたのに
お腹抱えるぐらい爆笑して、時間引き延ばして、
「あー涙出た」なんて目元の滴を指で掬って。

本当は、そこまで面白くなかったのに。



「てか、知ってたし」

「ホントか?」

「ほぼ確信してた」



大石は「は意地が悪いな」って言って、
だけど数秒後に、「実は俺もなんだけど」なんて言ってきて。

そんなやり取りして爆笑してる私たちは、
傍から見れば、楽しそうだったのかな。


周りは走り回っていたり、喋っていたり、
3年間からの卒業の開放感を満喫している。

私も、卒業。
3年間からの、卒業。



「今は、違うんでしょ」



語頭を強めて、
後ろは聞き取れる程度に濁して。


「違うって、何が」

「だから…好きだったって、前は、ってことで…
 …今は違うんでしょ?」


こんなこと聞くなんて時点で、
本当は、って、気付かれちゃうかもしれないけど。

だけど私は最後まで白を切りとおす。



「違う」


「うん。私も」



わざとらしいくらい自然に、
即行で返事、返した。



いいよね。

もう少しぐらい、味わっても。



微笑して。


「もしさ、もっと前にもこうやって話してたら、
 付き合ってたかな、私たち」


「さあ、どうだろうな」




しらばっくれて。

こっちも向こうも。


本当は、分かってたのに。





「大石ーー、集合写真取るぞー」



「はーい! いこ、大石」

「ああ」




クラスメイト、明日になれば元クラスメイト、に呼ばれて、
鉄棒の横離れて、朝礼台の近くへ向かう私たち。



最後だっていう気持ちが、私を大胆にさせる。


私は、大石のその手を掴んで、走った。



抜かされるのが嫌だからほぼ全速力で走った。

自分が速く走れば相手もその分速まることを知りながら
急く足を止めることが出来なかった。

だけど出来るだけ長くこうしていたいと思った。

走っても走っても辿り着けない、なんてことを
理不尽ながらに所望してた。


走っても走っても辿り着けない。

ある意味では真実だと思った。



繋がれた手と手。
それに気付いたクラスメイトが声を上げる。


「おっ、ついに結婚式!」

「うわーマジで!?」

「お前らいつの間くっついてたのかよ!」

「怪しいと思ってたんだー」

「え〜、ちょっと待っていつからぁ!?」


「んーんっ」


私たちの前には、クラスメイト。

大石は、私の斜め後ろのまま。


手を離した。



囃し立てるクラスメイトからすれば、
予想も期待もしていなかった答えなんだろうけど、

「たった今、終わった」

って。私はそう言ったんだ。



一瞬場が静まりそうになったのが怖くて

「さ、写真撮ろ撮ろ!」

って私が言ったのが切っ掛けで、クラスメイトは動き出す。
不自然なようで、わだかまりは不思議となかった。


写真って分かりながら飛んだり跳ねたり、
みんなで揃えてポーズを取ったり、
標的を定めてタックルしてみたり、
背の順でも名前順でもない、
初めての形式張らない集合写真でも尚、
クラスで背の順一番後ろの私と彼は、
いつも通りの定位置、真ん中の後ろに立つと
こっそり、手を繋いで写ったんだ。

写真には写らない。
周りの誰も気付かない。

だけど、その事実は確かにそこに存在した。



撮り終わった瞬間、私の右手から彼の左手は離されて、
だけど彼の右手が差し出されて

「お元気で」。


ぎゅっと握り返して

「そっちこそ」

って言い返すのが精一杯で、
顔も声も気にする余裕は、なかった。



今日、卒業したんだもん。

泣いたって、別に変じゃないよね?




刹那限りの両想い。



置いていくよ、全て。

今日限りで、この場所にはサヨナラ。






















微悲恋万歳ー。楽しすぎ…!

実は3つの解釈があったり。
あとがきだけでは語りきれないなー。
トリックばっかり隠しましたw
これをアップする日に日記でレビュします。

読み返してるうちに“自分のリズム”を見つけて、
あーそっかこれが自分の文体なんだ、と思った。
ん、なんつかね、そっくりなリズムの裏小説あったなと。ぁ

学校帰りにふと閃いた大石夢。
実は走るための萌供給源でした。笑。


2005/12/05