* Handy glove *












「交流総会ぃ!?」


なに…それ。
そんなものあったんだ。
生徒会やら委員会やらからは
全く縁がなく過ごしてきた私にとっては、新しい言葉。

何やら、生徒会のメンバーと各学年から代表一人ずつが選出されて、
他の学校と意見交換をしたりする交流会…とのこと。

そして、見事に学年代表に選ばれちゃってる秀一郎。


「ごめん…だけどそっちをすっぽかすわけには行かないからさ」

「うん。分かってる」


本当は、一緒に居て欲しい。
だって、一年に一度の誕生日だもん…。

だけど、秀一郎にこっちを優先させることは出来ない。
私にそんな権利なんて、ない。


「本当にごめんな」

「大丈夫だから。頑張ってね、総会」

「ありがとう」


その後ちょっと雑談があって、
電話を、切った。

……。



「……誘ってみよ」


メールを打つ。
一人で過ごす誕生日なんて、寂しすぎるもん。






そして私の誕生日当日。
天気予報が私の生まれた日と、
今日は今期一番の寒波が来ていることを告げる。

うん、今日はマフラーと手袋をつけて出よう。


「行ってきまーす」

「気を付けて行ってくるのよー」


家の外に出ると、確かに今日は寒い。
だけど夜はもっと冷え込むって言ってたなぁ。


…どんだけ寒くなるんだろ。

息が白く変わるのを見ながら歩いた。



との待ち合わせ場所へ向かう。

電車に揺られること、約20分。


その間で、メールが来た。
秀一郎からだ。

あれ、もう総会は始まってるはず…。
どうしたんだろ??

開封。


『開催校の先生が急に倒れたらしくて、中止になった。
 今更だけど、元々約束してた場所で会えるかな?』


え……そう来たか。

返事を打ち返す。


『もう無理だと思ってと遊ぶ約束しちゃった。
 今待ち合わせ場所に向かってるとこ。
 突然呼んだのにもうドタキャンできないから…
 ゴメン(>_<;) 今日はと遊ぶね。』


こういう時、人の性格でどっちを選ぶか違ったりするんだろうな。
だけど私は、友情優先…ってわけじゃないけど、
状況によって判断する感じ。

本当は、私だって会いたかったけど…さ。




  **




午後12時。

私は友人のと居る。
ドーナツを食べながらカフェオレを飲んで談話。


「それにしても、最悪じゃない?
 誕生日なのにデートキャンセルされるとか」

「仕方がなかったんだよ…事情が事情だから」

「大人だね、は。アタシだったら絶対駄々こねる」

「駄々こねて状況が変わるんだったらこねるよ」


だから、それが大人だねー、って。
はそう言った。
…そういうものかなぁ。

秀一郎は…いつでも真面目で誠実な人だから、
私ばっかりがそれに甘えてちゃいけないな、って。


「だけど…実は今日会うことも出来たんだよね」

「どういうこと?」


私は一部始終を説明した。

フンフンとか聞いてただけど、
最後の方では眉を顰めていた。
そしてそのまま話を始める。


「えーありえない私だったら絶対カレシ取っちゃう」

「…同じ状況だったら私との約束を蹴ってた…ってこと」

「ウン!」

「自信満々に答えないでよ…」


あはは、ごめんごめん!
とか言って笑ってるは、反省の色ナシ。


「でもは私を選んでくれたんだよね。どうして?」

「どうして、って…。別に必ずしも恋人が優先順位一位とは思ってないし、
 それに今回は私が直前になってを誘った側だから…」

「へー。すごいね、は。アンタ人生成功するタイプだよ」


なにそれ。
そんなこと言って、笑う。


「だけど…」

「?」


くりん、と人差し指を向けてきて。


「後悔しないの?」

「なによそれー」


私には友情も大事なんだよ。そう言うと、
よくそんな恥ずかしーセリフが言えるね〜、なんて茶化された。






時間って、結構早く過ぎる。
ちょっとしか居なかったつもりなのに、
そのドーナツショップには一時間以上居た。

ようやく立ち上がった私たちは、
プリクラ撮りにゲーセンへ。


本当だったら…今頃は秀一郎と一緒にいたのかな?
だけど仕方がないよね。
といっても、私が断ったんだけど…。
ううん、元々会えないつもりだったんだから…。


「この機種でいー?」

「なんでもいいよ。お任せ」


の言葉ではっと現実に戻された。

それじゃあねー、と
はキョロキョロしながら選んでいる。


一歩後ろを歩きながら、私は考える。

私の誕生日入りのプリクラ…。
秀一郎と一緒に撮りたかったな…って。


今更言っても仕方がないことだけれど。


そんなこんなで撮影開始。


「今日はの誕生日だからアタシのおごりね」

「えー悪いよ」

「いいから!さー荷物置いて×2!」


ちゃっちゃか話が進んでいく。
ってアクティブな子だよなぁ…。

それに比べたら私って、受身で、
いつでも何事も後ろに構えてる気がする…。

自分から動かないで。
相手に何かしてもらえるのを待って。


「撮るよー。いい?」

「うん、オッケー」


ボタンが押される。

シャッターまであと3秒。


パシャリ。

一枚目が撮られた。


「次どれにしよっか〜。
 あ、選んでバースデーガール!」

「えっとじゃあねー…」

「はやく、はやく!!」


狭い箱の中は、時間との戦い。


「じゃあこれね」

「よーしバッチコイ!」


パシャリ。

二枚目。


「あと何回撮れるっけ〜…お?」

「どうしたの」

、ケータイ鳴ってる」

「あ、ホントだ」


誰だろ…もしかして秀一郎かな。


「後で見るから。それより、あと10秒しかないよ」

「え、ちょっと待って!わ、わ!!」


そんなごたごたで、撮影終了。

次の部屋へ進む〜…。


「ラクガキは任せたよ」

「え、も書いてよ!」

「私下手だよ?遅いし」

「いいから書いてー!!」


とか言いながら…

結局、は一人で4枚ともやってのけた。(最強だ…)


私も書いたんだけどね。
「色気がなーい!」とか言って上からがどんどん足したりして。
見事に鮮やかでキラキラ輝くプリ完成。


私と秀一郎が撮ったときなんて、味気ないものだよー。
文字はほとんど入ってないし、
だからといってスタンプもたくさん押すわけでもなく、
フレームはありきたりだし、
一回書いて失敗しても消し方がわかんなかったり。
時間がなくて何も加工入ってないのが完成しちゃったり。

…今頃、そんなことしてたはずなのカナ。



モヤモヤは、歌ってすっ飛ばすといい!!
いつもの私たちのコース。

プリクラを撮ったら、カラオケへ向かう。


偽名を使って申し込む。

店員さんが「ヤマミムロベ2名様ー」なんていうのを楽しんでみる。


あらこの店員さんこの前も居たけど
前回は私たちサオトメガワさんだったこと憶えてないかしら。
毎日色んな人接待してたら忘れちゃうのかなー。


案内してくれる背中で、
「そんな苗字の人どこに居るんだよ」なんて
罪悪感もちょっと感じながら笑ってみたり。

こんなこと、秀一郎となら絶対しないな。


思いっきり歌って3時間+延長30分。
時間が短いように感じられた。

秀一郎と来ると、歌ってるの私ばっかなんだもん!
向こうは5曲に1曲ぐらいしか歌ってくれないしさー。
いい声してるんだからもっと歌えばいいのに…。


歌って聞いての繰り返し。
楽しくてもどかしくて、ちょっと寂しくなった。

だけどどこかでスカッとしてた。




そんなこんなで5時過ぎ。
最近は日が沈むのが早い。


「このままどっか行く?もう帰る?」

「んー…そろそろ帰ろっか」

「そだね。冷え込んできたし」


そうして私たちは駅へ。

定期を持ってる私はそのまま、
反対方向へ帰るは切符を買った。

ホームは別。


「それじゃあ、また明日ね」

「うん。今日は楽しかった」

「またドタキャンされたら誘ってちょ!」


だけど、たまにはカレシ優先にしてあげな〜!

手を振りながらそう叫ぶと、は階段を上っていった。


私は隣りのホームの階段を上る。

電車がきていたことに気付いて急いで駆け上がると
それは別方面の電車だったり。


反対側のホームにも電車がきてた。
はそれに乗ったみたいで、
電車が通り過ぎた後にはそこには誰も居なかった。


ベンチに座る。

ふぅ、と息をついた。



今日は楽しかったな。

だけど、なんでだろう。

なんかぽっかり胸に穴が空いたみたいで。



……あ。

そういえば私、今日15歳になったんじゃん。

誕生日ってのは分かってたけど、
はっきりとした言葉を貰ってないから、実感なくて…。


…そこら辺、は気配りないなぁ。



携帯を確認。

現在時刻 17:35


17時ってことは…5時か。
24進法に慣れてないくせにこの設定にしてるから
一瞬思考が遅れてしまう。


あれ?
新着メール。

いつの間に……?



着信時刻 13:16


あ……。

これ、プリ撮ってた時の…。


そういえば見るの、忘れてた…!


焦ってメールを開封。
差出人は、勿論、秀一郎からで…。



『友達との用事が終わった後でいいから、
 元々約束していた場所に来て欲しい。』


……え?
こんなメール…。

ちょっと待って!


私は急いで立ち上がって、
そのままさっき上ってきた階段を駆け下りる。

背中の後ろで電車が到着したのが分かった。
だけど、もう関係無い。


私が見ているのは…これから向かう先。


それ以降のメールはない。

まさか…とは思うけど。

でも、連絡も無しに帰っちゃうとも考え難くて。



……秀一郎!!









17:56。

街中に立つデジタル時計がその時刻を告げる。


約束の場所…。

広場のベンチ、には。



……居た!




「秀一郎!!」


「……?」




本当に…居た。

ちょっと待って、この人、一体いつから…?!



「来てくれたんだな」

「何言ってんのよ、今何時だと思ってるの!」

「よかった」

「よかった、って…!」


…呆れた。

この人は一体、どこまで、
お人好しで…他人想いで。


自分が悪者みたいに思えてくるじゃん。


「秀一郎、顔色悪い」

「いや、大丈夫だよこれくらい」

「うそ!唇真っ青だもん」


気付いた。

秀一郎の体…震えてる。


「とにかく、早く帰ろう」

、約束は…」

「どうせ真っ暗だよもう!
 それより早くあったまらないと…」


それでもためらってる秀一郎。

私はその手を、引いた。


……え?



「やだ……こんなに冷え切ってるじゃない!」



冷たい ?


秀一郎の手が?


いつでも…秀一郎の手ってあったかくて。
冬のどんな日でも「手貸して」っていうと、
ホッカイロみたいに温かい手が出てくるものだと。

私が普段手袋をしないのは、
その温かい手と、手を繋ぎたいからだなんて、
秀一郎、知ってた?

私、秀一郎と出かけるときは、
手袋してたことなかったんだよ。


だけどそんな秀一郎が、こんな、冷え切って。


一体この冬空の下、どれくらい待っていたんだろう。
時間通りに来ても4時間。
秀一郎のことだから最低4時間半。
今日のこの状況を考慮すると5時間以上。

どれだけ待っててくれたんだろう。


私は自分の付けているマフラーを解いた。

そして、秀一郎の首に巻きつける。


「ほら…これつけて!」

「でもこれを外したら…が」

「いいから!」


強く言い放つと、秀一郎はなされるがままに
首にマフラーを巻きつけられた。

ピンク色だけど、そんなことどうでもいいでしょ。


「秀一郎が風邪ひくのも、私が風邪うつされるのも、
 ぜーったい嫌だからね!!」

「…ありがとう」

「あと、ほらこれも」


私は自分のつけている手袋を一つ外した。
だけど、秀一郎はそれを制した。


「なに?」

「それはいらない」

「えーどうして!だって手がそんなに冷た…」


ぎゅっと。

秀一郎は、私の手を握って。


「こっちの方が、あたたかいよ」

「……そうデスカ」


私は、ちょっと冷たいけどね。

だけど、その手を放したくないと思った。


秀一郎は、いつも私の手を取るとき
こういう気持ちだったのかなぁ?



……あ。


今気付いたよ。


秀一郎も、手袋をつけて出てきたこと、なかったよね。

わざとかな?
偶然かな?
自分が温かいから必要ないだけかな?

それとも分け与えてくれてるだなんて、
そんな、思い上がり。



「じゃあ、こうしよっか」

「?」


私は一旦手を放して、
さっき外した手袋を秀一郎の反対の手につけた。

私の左手に、一つ。
秀一郎の右手に、もう一つ。

そして、私の右手と貴方の左手。


「あったかいでしょ?」

「そうだな」


と。

手が引かれた。

秀一郎は立ち止まっていた。


「どしたの?」





私が貸してあげた手袋が、
少し小さそうに見える、白い手袋が。

私の顔に迫ってきて、
私の頬に、軽く添えられて。


そのまま顔が近付けられた。

冷たいけど、熱のあるキスだった。


無意識に背伸びするクセとか。

少し長めのキスに浸って。



ゆっくりと唇が離されたとき、

耳元で一言


「お誕生日おめでとう」


って。



その言葉を貰って、私は初めて、

一つ歳をとったんだなぁって、実感が湧いてきたのでした。


…ありがと。



「行こう」

「うん」



ゆっくりと歩き出す私たち。

予定とは違うけれど、こうして、
一緒にひと時を過ごせて良かったね、って。



繋がる手と手は、いつの間にか温もりを抱えていた。






















不二夢の『baby..』と似てますよね。
手の温かさ/冷たさ主張が目的なのさ。(笑)

「行こうか」じゃなくて「行こう」ポイント。
引っ張ってくれる力強い男らしい大石希望!
ただ単に早く温まりたいだけのヘタレ大石でも可!(ぁ

マフラーも半分こは無理。二人巻用じゃないものを
身長の高低差20cmの人々がやるものじゃない。笑。

…え。Handy(ケータイ)ってドイツ語だったの!?(汗)


2005/11/20