* You're my only love *












付き合い始めて一年半。

いつの間にやら17歳。


だけど、何を隠そう。




ってさ」

「うん」

「もうアイツとヤりまくりなワケ?」


「ぶっ!!!」



素で麦茶を戻す私。

一瞬しらける空気。


「この反応は黒だな」

「いや、違うから!突然そんなこと言われたら誰でも焦るって!!」

「そうかーそうだよねー。うちらも何だかんだで高2なわけだし」

「だからちょっと待ってって!!」


必死に止める私。

周りは、全然聞いちゃいない。

ああもう、なんなんだよぉ!!


「ていうかさ、白昼堂々そんな話題はやめようよ…」

「いいじゃんか。気になるんだよ」

「そーそー。お年頃じゃんか」


なんなんだ、コイツらは…!



「で、実際はどうなのよ」

「頻度は?週5日?」

「うわヤバっ」

「せめて週一にしときなよ」


そんなこといって、ケラケラと笑う友人たち。

だけど私は固まっている。


だって、だって……。




「私、まだバージンですよ…」


「え」

「はぁ?」




場が、随分長いこと固まった。



そうです。

私と、彼。



まだ…エッチしたこと、ないんです。






  **





「隠してるわけじゃなくて?」

「だから、本当にないんだって!」


教室移動。
理科の教科書とノートに筆箱持って、
私たちは廊下を3人で広がって歩く。

話題はさっきの続き。
具体的な言葉は伏せられているものの、
堂々とこんなことを話してるって…。


「だって、もう二年でしょ?」

「正確には一年半…」

「でもまあ、そんなもんでしょ」


そう、1年半。
付き合い始めたのは、それはそれはかわいい中学校の頃。
中3の終わり、卒業式だったね。
バックで散りゆく桜と違って、
私が奮った勇気は見事に実ったのであります。

それから一年半、私たちは一体何をしていたのでしょう…。

普段することといえば…
どっちかの家に行って、お話したり、勉強したり…。
ああもうダメだ。この時点で二人とも真面目すぎかも!
出かけたとしたら、水族館とか、あと一回遊園地に行った。
喫茶店で食べて話しただけってこともあった。
そういえば、一緒に街に出かけると必ず本屋に入るな。
やっぱ真面目すぎなんですか…。

キスはした。夏休みに向こうの家に行ったとき。
そのとき家には他に誰もいなくて、
今にして思えばシチュエーションは絶好だった。
だけど、キスして、それで終わり。
その時はそれだけで頭一杯で心臓バクバクだったけど。

なんていうか…ウブなんですか?オクテなんですか!?
そりゃあ手を繋ぐのに二ヶ月も掛かったぐらいだからさ。
手がぶつかってちょっと触れるだけでだけで
双方共に「ごめん」とか謝ってたからさ!

どうなんでしょう、こんなカップル。


「だってさ、17歳とかヤりたい盛りじゃねーの?」

「バカ、声大きいってば!!」


いいじゃんか、とか言ってる。

この不良娘。スカート短くしすぎなんだよー!
生徒会としては見過ごせませんよ?
ていうか元々うちの制服のスカート短めじゃんかぁ…。

と、関係無いことで攻撃しても仕方がない。


「ある意味尊敬だよね」

「ある意味な」


「……」


ある意味、ですか。
それってどういうことでしょう。


まあアタシなんて彼氏できたこともないけどー!

オイオイちょっと頑張れよー。


そんなこと言って、二人は笑ってた。
私は二人の間に立ってたのに、
ちょっと一歩退いた感じで、
第三者のような客観的な目でその様子を見ていた。



やっぱり変かな?
17歳にもなる男女が一年半もお付き合いをしていて、
一度も体を重ねたことがないなど。
今の時代は普通じゃないんですかね…。





  **





何はともあれ、一日も終わり。
ホームルームも終わったし、今週は掃除もないし。
あとは生徒会だけですね。
といっても、あのメンバーは集まっても遊んでばっか。
本当にあれでいいんですか、生徒会。

でも今日は月に一度の委員総会。
生徒会のメンバーに加えて、
各委員会の委員長と、学年の代表での集まりです。
その方が締まるんだよね。
何しろ、この前風紀委員長に手塚君が就任したし。
(中3の時は生徒会長だった人ですよ)

それに…うちの学年の代表には、あの人が居るしね。
そう、私の恋人である、あの人が。



ー、今日の帰りお茶寄ってこうと思ってるんだけど来るだろー?」

「あ、ごめん。今日委員総会だから」

「そっか。じゃあ待ってるか?」

「ううん。きっと長引くと思うから」


そう言って断ると、はちょっとだけ気の毒そうな顔をして、
だけど直後に、にやっと笑うと鞄を拾い上げた。


「だよな。アイツも居るしな。
 まあ、イチャイチャしながら帰りなよ」

「なにその言い方!!」


だけど特に何も言い返してこないで、
背を向けたまま手をひらひらと振ると帰っていった。

……もう。


まあいいや。委員会頑張ろっ。





  **




そうして始まった委員総会。
普段の生徒会に比べて5倍ぐらい空気が引き締まってます。
生徒会長が心なしか緊張してみえます。
ちょっと、先輩がプレッシャー受けちゃってどうするんですか…。

そんな私は、生徒会役員の席に座って、
生徒会室全体を見回す。

相変わらず固い表情の手塚君発見。
そして…学年代表の席に、居た。


大石秀一郎。この人こそ、私の彼氏、です。


真面目という言葉が似合う男。
というか、この人のために作られた言葉ではってぐらい。
そういう私も、みんなからはよく真面目だって言われるけど。
似たものカップルなのかなぁ…。


「では、今月の生徒の遅刻数についての発表を役員のさんにしてもらいます」

「―――」

「…さん?」

「え、あっ、ハイ!!」


焦って立ち上がる私。

ひゃー恥ずかしい!!
委員会の最中にこんなにボーっとしてたの初めてだよ!

名前を呼ばれると同時、一瞬、目が合っちゃった。
それが失敗だったと思うんだ。

だけど、名前を呼ばれたら誰でもそっちを見るよね。


なんだか妙に、緊張しちゃって。
会長じゃないけど、私も、
いつもの10倍ぐらい張り詰めて喋った。

これ以上目を合わさないように、
必死に紙の文字ばかりを目で追っていた。
こういう時に顔を上げて喋るっていうのは
頭にも体にも染み付いていることなのに、
一生懸命、下を向いて喋った。

だけどなんだか視線が突き刺さってくるようで、
ずっとどぎまぎしてた。





  **





「それでは、これにて今月の委員総会を終わります」


会長が会の終わりを告げて、
なんとか無事に乗り切ったのでした。

だけど、なんで。なんであんなに緊張しちゃって。
いつも顔を合わせてる人なのに!
一緒に会に出たことだって、
最中に目が合うのだって、何も初めてじゃないのに!

なんで、今日だけ、こんな。


「(あーもう、の所為だぁ…)」




間。


…今のは、秀一郎の声。


「はいぃ!」

「……帰るか?」

「うん、帰ろう帰ろう」


ぎくしゃく。

妙に固い動きで立ち上がった私は、
椅子を入れて、鞄を拾い上げて、
と、金具に引っ掛かった。あわわ、あれ、あれ!


「どうしたんだ、今日おかしいぞ」

「あ…ありがと」


いつも通り落ち着いた態度で、
金具に引っ掛かった鞄の紐を外してくれた。


「帰ろうか」

「うん」


二人揃って廊下へ出る。
肩を並べて歩いているはずなのに、
15cm以上もある高低差が、普段通りに心地好い。
だけどどことなくドキドキしてる。
横目でちらりと顔を見上げたけど、
目が合うのが怖くてすぐにパッと戻した。


分かれて、それぞれの下駄箱へ行って靴を履き替えて、
また昇降口で一緒になる。
そうして二人で校門を出て行く。


「久しぶりだな、二人で帰るの」

「うん」


帰宅部の私は、普段はたちと一緒に帰る。
毎日練習している強豪のテニス部とは違うのです。
だから、委員会の日は一緒に帰れる貴重な日。

その貴重な日に、私は何故、こんなに緊張してるんだか…。


「(変なこと考えなきゃいい、とは分かってるんだけど…)」


だけど、考えない考えない、と自分に言い聞かせるほど
結局は考えてしまってるってことで。


本当は秀一郎も、やってみたい…とか、考えてるのかな。
こんなに真面目な人が…?
でもなんといえど男子高校生…。
だとしたらなんで…私に魅力がないからじゃない?
それとも…ああもうよく分からないよ!!




「ん?」


私の名前を呼んだその人は、
少し眉を顰めて、様子を伺うように。


「何か心配事があるんだったら相談してくれよ?」

「え?や、やだなぁ。別に心配事なんてないって!」

「そうやって、すぐに抱え込むところが俺は心配なんだ」


そう言われて、図星だな、と思って、
何も言い返せなかった。


秀一郎の気持ちが分からない。





  **





「簡単なことだよ。ヤりたかったら誘えばいい」

「………」



そうだ。

この人に聞いた私がバカだった。


「そうかー。もヤりたい盛りかー」

「そ、そういうわけじゃないよ!」

「はいはいちゃーん、顔真っ赤でちゅよー」

「もう、バカにしないでよ!人が真剣に相談してるのに…」


あーごめんごめん!
そう言ってたけど、笑いながら言ってる辺り
全然ゴメンとか思ってない…。
分かってるけどさ、こういう子だって。


「私は、そういうことを相談してるんじゃなくて、
 もしかして…私が悪いのかな、とか思って。それで…」

「あ?曖昧すぎて話が見えない」

「そうそう。もっと直接的な単語でどーぞ」

「………」


もう嫌だ。
泣きたい…。


「だからね」

「うん」

「……やっぱ何でもないぃ!!」


「うっわが逃げやがった」

「戻ってこーい」


私は凄い勢いで教室を飛び出すと、
そのままトイレに駆け込んだ。

授業開始のチャイムが鳴るまで、落ち着くまで、
個室に鍵掛けてしゃがみ込んでいた。


なんか…自分がオカシイ。





  **





情緒不安定な日常は過ぎ。
だけど特別何もないまま、また週末はやってくる。
木曜日の休み時間に約束した通り、
土曜日である今日は、秀一郎がうちに来ている。


「で、これを微分すればいいんじゃない?」

「逆だろ。積分すると…」

「あ、そっか」


デートの始まりは勉強の復習、これ基本。


「あーもう最近数学難しー!わかんないー!」

「それが、前回学年3位のする発言か?」

「うるさい学年1位!!」


客観的に聞くと恐ろしい会話だと思うけど、
これが私たちなんです。


「疲れた…」

「そろそろ休憩にしようか」

「うん」


大きく伸びをして立ち上がると、
私は秀一郎の横に座った。
特に何をするわけでもなくても、
こうしてるだけで落ち着くし、幸せなんだ。

と。
秀一郎は、私の背中に腕を回すと、肩を少し引いた。
私は半ば無理矢理に、もたれかかれる体制になる。

前は手を握るのだってイッパイイッパイだったくせに、
前より広くなった肩幅で、こんなことやられると、
必要以上にドキドキしちゃうんですけれど…。

斜め上の顔を見上げる、目が合った。
そのままゆっくりと顔は近付けられて、唇は合わさる。

そして…なかなか離されない!?

え、ちょっと待って。
今までのパターンから行くと、
キスしても、短くて、ほとんど触れるだけのような。
だけど、わっ、舌とか入ってきて
ちょっと待って待って待って!!


「んっ…んん…」


苦し、くて、
声も出せない。
だけどなんだろうこれ。


そのまま溶け込んでしまいそう。

一つに交わっている、興奮。


「ん……ぷはっ!ゴホッ、ゲホゲホ」

「っ、ごめん

「ううん…だいじょう、ぶ」


ドクンドクン。

心臓が、今までに無いくらい早く強く波打ってる。

頭がぐるぐるして、
自分が今何をしているか考える余裕も、ない。



そして気付く。
この前と状況が、ほとんど同じ。
前回は秀一郎の家で、今日は私の家だけど、
違いはそれだけで、あの日も家には誰も居なくて、
勉強している私たち二人だけだった。


もし、かし、て。

頭の中を、ふとした考えがよぎる。


ドクンドクン。

心臓は、治まる余地を知らない。


秀一郎……?



「続き、やろうか」

「…………うん」



またテーブルに向かい合って。

結局、その日も何もなかった。



いつの間にか夜。


「明日の試合、頑張って」

「ありがとう。それじゃあ、学校で」


玄関で、触れるだけの軽いキスをした。
秀一郎は、帰っていった。



バタンとドアが閉まる。
私はそのまま、地面にしゃがみ込んでしまった。

こんな軽いキスが、昼間の情熱的なキスを呼び起こす。
あんなに深く交わったのは初めてで、
蕩けそうになる甘さと熱さを、同時に感じた。

だけど…そこ止まりなんだ。


別に…したい、とか、そんな風に思ってるわけじゃないけど、
愛されてないんじゃないかとか、
私だってちょっと不安になったりするよ…。




  **




月曜日。
委員会の仕事をやる私をは待っていてくれている。

テニスコートでは、テニス部が活動しているのだろうか。
ここからでは確認できない。

もうそろそろ暗くなりそうだし、
私は荷物を片して立ち上がった。
だけど、帰る意向は示さず。


ー…」

「ん、どうした沈んだ顔して」


相変わらずのおちゃらけた表情の
対して私は、おっしゃる通りのローテンション。


「相談があるの」

「……?」


そして、私は一部始終を説明する。



初めて手を繋いだのは2ヶ月目だったこととか、
初めてキスをした時の状況だとか、
昨日の、初めての深い大人のようなキスだとか。

だけど、そこまで来て、あの絶好なシチュエーションで、
それ以降進展しないって、私に魅力がないの?って。


は、くしゃっと指を髪に通した。


「マジのマジでヤったことないんだな」

「しつこいなぁ、本当だってば…」

「そっか」


いつもみたいに、はふざけた態度を取ったりしなかった。
なんだろう。



「いいな…」



小さくぽつりと呟かれたの言葉は、
確実に私の耳に届いていたのだけれど、
にわかには信じられなくて。

いい?

そういうものなの?


「なんつーの、ピュアじゃん。プラトニックラブってやつ?」

「でもさ、この歳で、1年半以上付き合ってて…ってやばくない?」


聞くと、は「やばくないやばくない」と
手をひらひら振りながら否定した。


「あのな、ぶっちゃけたところセックスっつーのは
 最低限コドモつくる時にだけできりゃーいいんだよ」

「は、はぁ…こども」


そうくるとは思ってなかった…。
でも、正論といえば正論…なのかな…。


「中途半端な心構えでヤるよりは、
 全くヤらない方が良いに決まってる」


は、机から降りると窓際に向かった。
窓の外の、何を見てる?


「実はさぁ…私が今の彼氏とヤったの、付き合い始めて3日目なんだよな」

「3日目!?ほぇ…」

「実は、ちょっと後悔してる」


意外な言葉。
まだまだ、私の知らないがたくさん居る。


「今もアイツのこと…愛してるって思う。
 これから付き合っていく自信もある。だけど…」


俯いて。


「いつか、体でしか繋ぎ止められなくなりゃしないかって、
 たまーに心配になったりするよ」


…。


私が悩んでいたみたいに、
には、の悩みがあって。
それぞれの悩みがあって。


……秀一郎。

秀一郎、は?

何を思って、どんなことで悩んでる?



こっちを振り返ると、は少し笑った。


「その点、アイツは浮気しそうな男にも見えないしな」

「え?」

「大石だよ、大石」


本当にクソ真面目だよなー、
アンタもだけど。

そう言って、溜息をついた。



「自分たちのペースで行けば、いいんじゃない?」



夕日をバックに、笑った。
だから私も、笑い返した。


だけどはすぐに意地悪な顔になった。


「あーもう、羨ましいよアンタ!」

「へ、どうしたの突然…」

「悩み事相談とかいってな、正直ノロケにしか聞こえないんだよ」

「えぇ!?あ、痛い痛いぃ!」


頭を拳でぐりぐりとされた。
ひ、ヒドイ…。


「どういうこと?」

「……大切にされてるってことだよ」


アンタも、大切にしなよ!


そういうと、はさっさと教室から出て行ってしまった。
私は数秒呆然と固まって、
それから自分の鞄を掴むと焦って追いかけた。


「ちょっと待ってよぉ!!」






――――――………**





その日の帰り、私は秀一郎に会った。
向こうは部活の帰り、こっちは委員会の帰り。
気を遣ってくれたは、
「用事を思い出した」と言って走って帰っていった。

なんなんだろうね、なんて呑気な会話をしながら帰る私たちは、
鈍感でオクテではあるけれど、に言わせれば
“羨ましい関係”だったりするのかな。

目が合った瞬間に、ふと昨日のキスを思い出しては
両者赤面しちゃうような、そんな私たちが。



そうだね。


自分たちのペースで行けば、いいんだね。







―――事の起こりは、そのまた3ヵ月後。



誰も居ない、土曜日の夕方だった。
板一枚の扉に鍵を掛けた密室の中、私たちは体を合わせた。
遊びに出掛けた妹さんがいつ頃帰ってくるのかヒヤヒヤしながら、
だけど結局はそんなことを気遣う余裕も無いくらい、乱されて。

それでも秀一郎はずっと私のことを気遣ってくれていて、
暴れる衝動を抑えているのを全身の熱が伝えてくるのに、
眉を潜めて「大丈夫か」「痛くないか」って。
その度に首を上下に揺らすしか出来ない私は、
どれだけ弱くて、どれだけ愛されてるんだろうって思った。

大切にされてるって、こういうことなんだと思った。


その行為が終わった後、
「私に魅力がないのかと思ってた」と呟く私に
を傷付けてしまうと思って怖かった」と答える秀一郎は
どこまでお人よしで真面目で、ホントどうしようもないなって、
なんだかくすぐったくって笑ってしまった。



帰りは、秀一郎が私を家まで送ってくれて、
玄関で一つ軽いキスをした。

去っていく背中を見送りながら、幸せだなって、そう思った。





 「何かあったらまた相談しろよ」っては言ってくれてたけど、


 今日あったことを報告したら、また、

 ノロケかよ、って、きっと怒られちゃうんだろうな。






















若いっていいよね。(何)
17歳主人公に違和感を感じ始めました。嗚呼…。

それぐらいオクテな方がいいんじゃないの?
と、思って。とある二人を応援して
とある二人を批判というか心配して…ガンバ。

行為部分が割愛ですが。
そこまでの過程が大事なので、ね?
(裏々らしからぬ事態かしら…/まあまあ)


2005/09/27