* なるべくそばにいて *












手を伸ばしても届かないのに

手を伸ばしてしまうのは

少しでも近付きたいから。




今日は日曜日。感謝。



……電話。





「もしもし」


ほら、安心できる声が、聞けるから。





「シュウ、あたしだよ」

「ああ、



ちょっと、間がある。



「久しぶりっ」

「久しぶりだな」



前に電話したのは、誕生日の時だっけ。

ということは、4ヶ月前。そんなに経ったんだ。


そしていつの間にか、最後に会ってから9ヶ月が経った。

次に会うのは、きっと9ヵ月後。



「折り返し地点、だよ」

「そうなのか?」

「うん。最後に会った日から次に会う日の真ん中くらい」



……。



「ごめんね」

「え?」

「受験勉強、忙しいでしょ?」



あー…とシュウは少し考えてから。



「確かに勉強はしてるけど、まだそれほど追い込まれた状況じゃないよ」

「そっか…」

?」



元気ないな、って、言いたそうだけど、
私に元気がないから、それは言ってこなかった。

そういうところ、シュウは考えすぎで、
私には手に取るように言いたいことが分かるよ。



「ん…なんでもない。今日はちょっと声を聞いておきたくて」

「今日、何かあった…か?」



シュウは思考を巡らせながら聞いてきた。

男にしては記念日とかをマメに憶えていてくれるシュウだけれど、
さすがに今日のことは憶えていないみたいだった。



「私がドイツに来てから、始めて電話した日」

「ああ、そうだった…かな」



憶えてないよね。

普通は憶えてないよね。

私も、ただの電話だったら憶えてなかったよ。



だけど、あまりに心臓が痛くて。

色々なことと、重なりすぎて。



環境が変わって戸惑っているところに

失ったものが

大きすぎて


戸惑っていた頃で。



聞いた声に安心しすぎて、苦しかったよ。




「………」


「……?」


「………」


!?」


「うん」


「……どうしたんだ」





胸を撫で下ろすように、
疑問形じゃなくて、溜息混じりにシュウは聞いてくる。


どうしたんだ、ろうね。

どうしたんだろう。




「シュウ」

「うん」

「ずっと、傍に居てね…」




そもそも、今も傍に居ないのに、矛盾。

だけど、


そこに居るだけで

充分なんだよ。



「…声が聞けてよかった」

「俺もだ」



よかった。

そこに居てくれてるんだね。

今も。

ずっと。



これ以上離れないでね。





手を伸ばしても届かないのに

手を伸ばしてしまうのは

少しでも近付きたいから。


手を伸ばせば届くかもしれないのに

手を伸ばさないのは

いつでも近くに居るから。



これが今の精一杯。






















あの日から3年経ちます。
心の傷は塞がったことを信じます。
強くなったのか、理解しただけなのか。

近くに居ると、一日話さないだけで不安になります。
遠くに居ると、一ヶ月ぐらいへっちゃらになります。
慣れって怖いですね。

今にできる限りのできるだけ傍に居る、てこと。


2005/09/04