* 恋ぐらいするさ! *












「手塚っ!」

「は…」



バコーン。

漫画だったら、きっとそんな効果音だったのだろう。


手塚の顔面に、テニスボールが命中した。



「すみません部長!大丈夫っスか!?」

「む……」

「ホンっトすんません!このとーりっ」


そういって、桃は頭を下げている。
手塚は、地面に尻餅をついたまま額に手を当てている。


簡単に話すとこうだ。

今、僕と桃は軽く打ち合いをしていた。
ウォーミングアップの段階であって、
決して本気での試合なんかじゃない。

僕が少し甘い球を返すと、
体力旺盛な桃は、ここぞと言わんばかりに大きく跳んで、
自慢のダンクスマッシュを繰り出してきた。

そりゃあ、僕だってひぐま落としだってなんだってできたさ。
だけどまだ体を温めている最中なわけで、
そんな本気を出すまでもないかなーと思ったわけだ。

とはいってまともに受けちゃ腕がどうなるか分からない。
僕は、敢えてボールを避けた。
というか、僕の方向には向かっていなかったボールを
わざわざ追いはしなかったというか。

ボールを見送るように、後ろを振り返った。
少し深めの位置に打ち付けられたボールは、
当然バウンドするわけなのだけれど。

コートのすぐ後ろに、ぼーっと歩いている手塚が。
そしてボールは、手塚にまっすぐ向かっている。
僕は危ないと思って「手塚っ!」って声を掛けたんだ。
そうしたら、呑気な顔して振り返る手塚がいて、
こっちを向いた瞬間に顔面直撃。そういうこと。


頭の中で状況の整理がついた僕は、現実に再び目を向ける。
桃は手塚の背中を支えて、本当にすみませんとか謝ってる。
手塚は別に怒るわけじゃないけれど、眉に皺を潜めている。
だけど、見た感じ怒ってるように感じられるんだろう。
桃は苦労人だね。あれは痛がってるだけなのに。
…手塚も苦労人だね。


「まあまあ桃、ぼーっとコートの後ろを歩いてた手塚も悪いんだし」


そんなことを言って、自分の難を逃れたりしている。
だって、僕が声を掛けなければ少なくとも
顔面に直撃なんてことはなかったわけだ。
(でも、普通咄嗟には声を出しちゃうでしょ?)


「ね、手塚。怒らないであげてね?」

「…元々そのつもりはない。俺にも非はあった」


そういうと、手塚はキョロキョロと辺りを見回した。
僕は地面に落ちている眼鏡を見つけて拾い上げる。


「これ?」

「ああ、悪いな」

「大丈夫っスか?壊れてないっスか?」


一度掛けてみた手塚は
「鼻の部分が曲がった…しかし大丈夫だ。簡単に直る」
とか言いながら、
眼鏡を顔のすぐ近くまで近付けて
目を細めて眉間に皺を寄せながら直していた。
そうか、手塚の眉間の皺は視力が弱いせいもあったのか。
…関係ないかなぁ。

手塚は立ち上がって、桃はもう一度「ホントすんません」と謝った。
「気にするな」と言った手塚はふらふらと歩き出す。
心配して見にきた大石が「大丈夫か?」とか言いながら
手塚の肩に腕を回して、二人は歩いて行った。
僕はその二人の背中を見つめながら、何かを思った。


……もしかして、手塚…。





  **





練習中、僕は何かと手塚に注目してみた。


掛け声に、いつもの覇気がない。
何かとぼーっとしている。
スマッシュの角度が浅い。
パッシングのコースが甘い。
ファーストサーブを失敗する。
かといって体調は悪そうではない。

…実に怪しい。



「どう思う」

「やあ乾。やっぱり君も気付いた?」

「当然だろう。で、どう踏む」

「多分、君が考えているのと同じ事」



僕らは、顔を見合わせて笑った。





  **





「えーっ!?手塚が、こ、こっ……!」

「こら英二、声が大きいよ」


ごめんにゃ、と英二は肩を縮めて辺りを見回す。
幸い、周りに僕らの会話を聞いている人は居ない様子。

レギュラーではない一般部員は全員帰っていて、
僕らは特別メニューも終えて水呑場で話している。
桃と越前はさっさと自転車に二人乗りして帰ったし、
海堂は着替えないまま荷物を背負って走って行った。
タカさんはさっきまでこの水呑場に居たけど、もう帰った。
乾は多分部室に居ると思う。
大石と手塚は竜崎先生と話してる。

僕らは着替えも全て終えて帰れる段階になってから、
ここに来て秘密の話をしているってわけだ。


「だけど、それって本当!?」

「確認したわけじゃないし本人に聞いたわけでもないけど、
 きっと間違いないと思うよ」

「へー。手塚も好きな子出来たりするんだー」


そう。
僕と乾の予想は同じだった。
それというのは…。


手塚は、きっと恋をしている。


もう、勝手に決定。
ほぼ間違いない。


そうと決めたら、邪魔…じゃないや。
なんとかくっ付けたいっていうのが人情だよね。

っていうか、なんか楽しいし。これが本音。



「でも本当に〜?手塚のことだから期末考査のことでも考えてんじゃん?」

「そんなことはない。溜息の回数、遠くを見る視線、
 集中力の欠落、何をとっても恋煩いの症状だ」

「乾!」


後ろからぬっと現れた乾がノートをめくりながらそう言った。
僕は英二に向き直って説明する。


「ほら英二、乾のデータが言うんだから間違いないよ」

「んー…。つーかさつーかさ、手塚って家柄
 『両親が決めた許嫁が…』とか言い出すタイプじゃん?
 しかもさ、イイナズケなのね!コンヤクシャじゃなくて!」

そう言って小ばかにして、英二は一人で楽しそうに笑っていた。

君の物真似、正直似てないよ。
と言いたくなったけど余りにも楽しそうだし、
何より英二が許婚なんて言葉を知ってたのが驚きだったので
それに敬服の意を示すとして敢えて何も言わなかった。


「だけど英二、あるじゃない。
 『俺の運命は既に定められていた…しかし、胸を滾る
 この情欲的な熱き想いを抑えることなど出来ない…!』みたいな」

「えーどこの漫画だよそれ」


まあ、例えばの話だよ。
そう言うと、英二は「ふーん…」とまだ何かを考えている様子。


「だけど、恋、とかさー…」

「うん」


呟くように、英二は話す。
僕と乾はその話に聞き入る。
乾に至ってはノート開いてる。


「そんなの手塚のキャラじゃない」

「まあな」

「うん」


…全員で同意しちゃったよ。

だけど、それでは話が進まない。
というか、その意外性が今回の盛り上がりの意味なのだから。


「確かにそう言いたくなる気持ちも分かる。
 だけど手塚だって、僕らと同じ中学3年生だよ」


そう僕が返すと、英二は「あ、そっか」と
いかにも思い出した風に言った。
というか、きっと実際に忘れていたのだろう。


「英二だって好きな人の一人や二人居るでしょ」

「二人も居たら困るよ!」

「まあ、例えばの話だよ。で、居るんでしょ」


聞くと、英二は首を引いて少し視線を泳がせて

「……ウン」

と小さく答えた。


「へぇ、それは初耳だな。手塚もそうだが
 菊丸からそのような話が聞けるとは興味深い」

「そうそう。誰なの、英二」

「にゃにゃ、ちょっと待てよ二人してぇ!
 自分のことを話すならまず自分のことからだろ!?」


僕と乾は顔を見合わせる。
そして直後に向き直る。


「だけど僕好きな人居ないもの」

「俺も」

「うっそだー!絶対隠してるんだー!!」


そんなことを言ってギャーギャー騒ぐ。
僕らは笑う。

と。


「しっ!手塚が来たよ!」

「なにっ?」


そして僕らは。


…何故か茂みの後ろに隠れている。



「……ねぇ、これどういう状況?」

「英二、静かにしなきゃ」

「…ハイ」


そして、手塚の行き先を見守る。


大石と一緒に戻ってきた手塚。
二人で部室に入る…と、思いきや、
ドアの前で立ち止まった手塚は、振り返る。


「お、動きが見られるぞ」

「話し声は聞こえないね」

「なに話してるんだろアイツら…」


手塚は真剣な表情で何かを語る。
大石は、身振り手振り動きながら、何かを訴えかけている。



「ちょっと」

「ああ」

「手塚泣きそうだったよ」

「うん。やっぱそうだよね…」


手塚が泣きそう。
手塚が泣きそう。

…ヤバイ。面白くなってきた。



「ねぇ、もしかして『俺は実はアンドロイドなんだ…』とかじゃない?」

「なるほど、それで手塚はあんなに堅いのか」

「乾、それ言い過ぎ」

「でも事実だろ」

「えー、『肩の痛みが再発して』とかだったらどうすんの」

「縁起悪いこと言わないでよ英二」

「ハイ…」

「とりあえず、もう少し様子を見守ってみよう」

「うん」



乾の言葉で、また僕らの視界が彼ら二人に戻る。
と、思ったらなんとそこには大石しか居ない。
大石が一人で、部室のドアの横に座っている。


「あれ、手塚は?」

「部室の中かな」

「どうして大石が外に置いてけぼりなんだよ!」

「いよいよ、本格的にアンドロイドかもしれん」


「乾、それ気に入った?」と聞くと「うん」と帰ってきた。
僕らは、みんなこうやって変なことを想像するのが好きなんだ。

僕らといっても、どこまでを仲間に入れて良いのか分からないけれど。
意外と、英二は現実的だったりするところあるしね。
サンタクロースはまだ信じてるくせに。
って、これは僕が勝手に決め付けてるんだけど。
(だって、「英二ってまだサンタクロース信じてるの?」なんて聞けないでしょ)

だけど、三人一致で、こういう物事を遠くから見守るのは好きだ。


「あっ手塚出てきた」

「二人は何か喋ってる?」

「そうは見えないな…あ、大石が立ち上がった」

「大石視線を合わせようとしない…なんだろう」

「何かやましいことでもあるのか」

「これはいよいよを以って怪しいね」


手塚は大石を見る。
大石は下を俯く。
手塚が大石に何かを言っている。

大石がぱっと顔を上げた。
手塚は、真剣な顔付きで何かを言った。


「なんだなんだ…よく聞こえないぞ」

「オレ…聞こえた…」

「本当に?なんて?」


英二は、思い詰めた表情で。



「『本気で好きなんだ』って…」



暫く、間。




「うそっ、本当に!?」

「でかしたぞ菊丸」

「まさか…手塚に限ってまさかそんなことがっ!!」


つまり、手塚は大石に恋愛相談をしているわけだ。
よし、証拠は全て揃ってきた。
今ならほとんど確信を持って言える。


手塚は、恋をしている。



もう少し様子を見守ることにした。

大石は手塚に何かを言った。
今度は手塚が顔を俯いている。
そのまま口を動かすのが見えて、
手塚は踵を返すと帰っていった。
大石は額に手を当てると、そこに立ち尽くしている。

僕らは思い思いに声を上げる。


「おいおいおい、これは一体どういう展開だ…」

「怪しい。絶対怪しいよ」

「うわー!今度大石から聞き出してやる」


ぽん、と僕は手を打つ。
乾も横で「なるほど」と頷く。


「英二、それは賢いよ」

「でかしたな」

「えっ、どういうこと?」


英二はハテナマークを大量に浮かべる。
まったく、天然でやってるのが英二の凄いところだよな。
一生懸命考えてもきっと思いつかないだろうのに。


「手塚は体が固けりゃ表情も硬くて頭も固い上に口も堅い」

「それに比べて大石は、約束は守るけど気が弱い」

「ついでに正直者でなんでも信じるため鎌をかけやすい」

「少し突付けば吐くんじゃない」

「な」

「つ、つまり…大石を脅すってこと!?」


僕と乾は顔を見合わせる。
そして直後に向き直る。


「まあ簡単に言えば」

「そういうことだな」

「えぇぇぇっ!?」


だから声が大きいって!!
僕は英二の口を手で塞いだ。
ゴメンゴメン!とジタバタしていた。
窒息死されても困るので、
英二が理解したことを確認して手を離した。


「脅すっていっても、別に拷問に掛けるわけじゃないんだから」

「そうそう。せいぜい乾の汁ぐらいだよ」

「(それって、結構拷問なんじゃ…)」


表情から英二の心の声が読めた気がしたけど、
敢えて知らん振りすることにした。
大体、あれってそんなに不味いものかなぁ。


「それじゃあ、さっそく聞き込み調査と行くか」

「うん」

「えー、盗み見してたことバレちゃうよ?」

「いいんだよそんなこと」


引け腰な英二を連れて、
茂みの後ろから僕と乾は闊歩して部室へ向かう。
大石は部室に入ろうとするところだった。


「大石」

「わっ!…どうした、忘れ物か?」

「いや、聞き込み調査をしに」

「脅しに」

「えぇっ?」

「不二、それは違うだろう」

「フフッ」


大石は、目をパチパチとしている。
そして助けを求めるかのように、
僕らの後ろで小さくなってる英二と目配せをしたけど、
それを遮ると僕は単刀直入に聞いた。


「さっき、手塚はなんて言ってたの」

「え……えっ?見てたのか!?」

「うん。生憎のこと“何にも”聞こえなかったけどね」


僕はちらっと後ろを振り返る。
英二は「分かってるよ…」という感じで肩を竦めた。


「で、なんて言ってたんだ?」

「それは教えられない!」

「何、口止めされてるの?」

「それなら解決法は簡単だ。俺たちが更に大石の弱味を握り、
 大石が俺たちに喋ってしまったことを口止めしてもらえばいい」

「なるほど。口止め返しだね」

「さすが、カウンターパンチャーは言い方が違うな」

「ちょ、ちょっと待てー!!」


壁に大石の肩を押し付けたところで、
大石はついに抵抗を見せて僕の腕を解いた。
ちぇっ。こういうところで大石は力が強いんだ。


「とにかく、俺は人の秘密を勝手にバラすわけにはいかない」

「じゃあ自分の秘密をバラしてよ」

「後はそれをネタに揺するだけだ」

「アン乾、作戦教えちゃったらダメじゃない」

「あ、すまん」


大石は、ぱちぱちと瞬きをしている。
後ろで英二が小さく「やめようよ〜こんなこと…」とか言ってたけど、
僕らは聞く耳持たない。

だって、こんな面白いことを見逃す手はないでしょ!


「まあ、大石が教える気がないなら手塚に直接聞けば良いことか」

「『大石に聞いたんだけどさー、この前の放課後のアレは何さ』とかね」

「大石、とばっちりだぞ」

「だからやめろって…!」


大石は顔を真っ赤にさせて興奮していた。
まあまあ、秘密厳守の信用深い副部長であること。
本当に素直な正直者なんだから。
これは相談するほうも安心ってやつだね。


「ま、今日はこの辺で許しといてあげるよ」

「手塚に、俺らが見ていたことを話さないようにな」

「大石、またにゃー…」


そうして、僕ら3人は帰路へつく。
振り返ることは出来なかったけれど、
背中の後ろで大石のぽかんとした表情が想像できた。


「実に面白いね」

「ああ」

「なんだか人生の楽しみが一つ増えた気分だよ」

「俺もだ」

「ねー、にゃんか大石かわいそうじゃない?」


後ろをちらりと振り返った英二がそう言ったけど、
正直、大石は興味がなかった。(ごめんね)





  **





翌日の休み時間、チャイムが鳴るとすぐに
乾が廊下から顔を覗かせてきた。


「やあ」

「はるばるご苦労さま」

「あ、乾!珍しいじゃん6組まで来るなんて」


英二はそう言っていたけど、僕は立ち上がる。


「え?何言ってるの。6組じゃなくて1組に行くんだよ」

「どうせ通り道だからな」

「……は?」


ハテナマークを浮かべる英二を他所に、
僕らは廊下で落ち合い、1組へ方向転換する。


「じゃあ行こうか」

「も、もしかして…」


僕らは、にやっと笑う。


「そのまさか」

「菊丸も同行するか?」

「え、遠慮しとく…」


ピク。


「えー、気にならないのアノ手塚がどんな子を好きになるのか」

「う…」

「大丈夫。何も危険なことはないさ」


そして…
結局3人で1組へ向かう。そうこなくっちゃ!


長い廊下を越えて、漸く1組に着いた。
教室内を覗くと、手塚の姿が見えた。

僕たちは、手塚の視線がどこかに向かいやしないか、
廊下からこっそり様子を観察した。
すると教室内から「うちのクラスに来るなんて珍しいね!」
「何か用事でもあるの?」なんて女の子たちが寄ってきて
気付かれやしないか焦ったりしたけれど。

幸い、手塚は気付いていないようだった。
寧ろこの女の子たちの波が壁となって
僕たちの姿を隠してくれて好都合。
まあ、乾なんかは丸見えかもしれないけどね。

その女の子たちの頭の間から、手塚の姿を捉えた。
と…そこに大石の姿があった。

手塚の席は窓際で、窓の外にはベランダがある。
ベランダは、隣りのクラスと繋がっているんだ。
そこを伝って、大石が2組からやってきたってわけだ。


手塚は、大石と話しているばかりで、
別にどこを見回すでもなく楽しそうに談笑している。
肝心の人物の特定は適わない。

そのときチャイムが鳴ったので、
僕らは女の子たちに別れを告げて、元来た道を歩いて戻る。

正面を向いたまま、各々思いを口にする。


「手塚、女の子のことなんて見ちゃいないじゃん」

「もうバカだな手塚…だから君は固いって言われちゃうんだよ」

「しかも、相談に乗ってもらっている手塚の方が大石を教室に呼ぶとは…傍若無人な」

「部長だからって調子に乗ってるんじゃない、手塚」

「あの…不二と乾は手塚が嫌いなの?」


僕と乾は顔を見合わせる。
そして直後に向き直る。


「いや、僕手塚好きだよ」

「俺もだ」

「じゃあ今の打ち合わせっぽい間は何…」


まあまあ、と上手く宥めて。
僕が手塚のことを好きなのは本当だしさ。
部活仲間としてもそうだし、こうやって遊ぶのも楽しいし。
全く、手塚は本当に面白い存在だよ。


「同じクラスじゃないのかな」

「かもしれないな。普通なら気になっている人物には
 一回ぐらい視線を向けるものだろう」

「だよねー。それなのに二人で見詰め合っちゃってさぁ」


つまんないのー!
いつの間にか乗り気になっていた英二がそう言った。


「二人で…」

「見詰め合う…」


言葉を二分した僕と乾。
二人で顔を見合わせる。


「まさか…な」

「まさか…ね」

「え、なんの話なんの話!?」


僕と乾は、顔を反らしてお互いひとり言のように呟く。


「いや…まさか…ねぇ?」

「ありえない…とは言い切れないが…まさか…」

「ねーだからなんなのー!?」


英二はなにやら喚き散らしていたけど、
構っている余裕はなかった。

もし、僕らの予想が正しければ。

……。


「とりあえず、放課後の部活だね」

「ああ」

「えー……」


ハテナマークを頭に浮かべまくってる英二は、
かわいそうだけど幸せ者だな、と思った。





  **





「どう、乾」

「瞬きの回数、12回/分上昇。
 顔が通常時に比べ紅潮している。
 加えて瞳孔の拡大……ほぼ間違いない」

「本当に」



まさかこんなところに居たなんてね。

手塚の恋の相手が。



「前から思ってたんだけどさ」

「うん」

「手塚ってさ、大石の前だとよく微笑ってるんだよね」

「それは俺も思った」



………。



「もしかしてさ、この前の部室前のアレって…」

「ああ。告白現場を抑えてしまったらしいな」

「うわー、凄いね僕たち」

「ストーキングも悪いもんじゃないんだろう」

「…乾、今自分がストーカーって認めたね?」

「否定しても受け付けないだろう」

「まあね」



………。



「なんかさ」

「ん?」


「今更だけど、いけないことに首を突っ込んじゃったかな」

「かもな」



………。



「そっと見守ることにしようか」

「ああ、そうだな。それがいい」

「手塚…幸せになってね…」


「ねーねー、さっきからなんの話?」


ぴょこん、と英二が僕たちの間から顔を出した。


僕と乾は顔を見合わせる。
そして直後に向き直る。


「英二」

「手塚が恋している説は勘違いで終わった」

「へ?」

「というわけで、昨日と今日のことは忘れよう」

「なぁーんだ、やーっぱりそうかよ!
 手塚に限ってそれはないと思ったんだよなー」


そんなことを言いながら、英二は僕たちに背を向ける。
僕はその英二の背中を見つめながら、何かを思った。


「あ」

「へ?」


英二が振り返ったところで、単刀直入に聞く。


「ところで英二の好きな人って誰なの」

「そういえば、それは確認せず終いだったな」

「えぇぇっ!次の標的オレ!?」


慌てふためく英二。
前を向き直って走り出そうとしたが、
その直前に乾が襟首を掴んだ。


「ナイス乾」

「俺も、このデータには興味があるからな」

「ちょっと、離してよっ!!」


なにやら喚いている英二だけれど、聞く耳持たない。
第一、僕らが人の言うことを素直に聞いたことなんて、あった?


問答無用。


「容赦しないからねっ」

「か、勘弁してぇ〜!!」


ほら、忘れがちだけど、
僕らって青春真っ最中の中学3年生なわけだし。

付き合ってる人や好きな人ぐらい、
居るのが当然ってわけだ。



「どうやって料理してやろうか…ね、乾?」

「ああそうだな、不二」



僕らは、顔を見合わせて笑った。






















Q.この話のメインカップリングは何でしょう。
当たった方には賞金3万円。嘘。

答えを言っちゃうと、塚大メインと見せかけて、
実は本命不二乾でしたとさ。ちゃんちゃん。
分かり難いかもしれないけど、不二乾はカプです。最後の7行がミソ。
てか、始めは手塚夢で、ナレーションを不二にさせよう、
という魂胆だったのに塚大と不二乾になってしまいました。
どこでどう踏み外したのだろう。
不二&乾じゃなくて不二×乾(リバ可)なんだと思います。スミマセン。

手塚だって、恋ぐらいするさ!というのが書き始めの理由。
だけど蓋を開けたら結局ホモでした。変だなぁ…。
あ、英二のお相手は普通の女の子でいいと思います。
別に、大石とか言ってもいいけどさ。(微笑)(開き直り)


2005/08/28