* バカみてぇ。 *
『バーカ!バカって言った方がバカなんだよ!』
…そう言って無邪気に笑っていた神尾が、忘れられない。
だけど思い出せない。
確かにそう言って笑っていたことは憶えてるんだけど、
どんな顔してたっけ。神尾って、どんな顔して笑ってたっけ。
どんな声で。
どうやって。
……神尾?
「、!」
「……あと5分」
「バカ!寝ぼけてんじゃねぇよ!あてられるぞ」
「……ア?」
むくっと顔を起こした。
合わない焦点の向こうで、教師がオレのことを睨んできていた。
……ああ。授業中か。
くるっと後ろを振り返る。
背中をシャーペンで突付いてきていた人物にお礼。
神尾だ。
「サンキュ」
「おぅ、いいけどよ…」
と。
「、後ろを向いて喋るな!前に出てこの問題を解け」
「あー…はい」
だから言わんこっちゃない…!
そんな声が、頭の後ろで聞こえた。
半分寝ぼけ眼で俺は前に出た。
そうそう、数学の授業中だったな。
オレって何故か数学だけは天才的に得意なんだ。
まだ思考が働いてないけど、これぐらいなら楽勝。
解き終わると、正解かどうかも聞かないまま席に戻る。
あくびが出た。
席に座る直前、神尾が囁いた。
「お前、バカだろ…」
…バカ。
お前に言われたくねぇよ、
オレはそう言い返したくなった。
だけど、何故か言えなくて。
何かが引っ掛かっていた。
バカ、とか。
神尾が、バカとか言って。
「ぁー…」
思い出した。
夢の中だ。
神尾が。
「バカって言った方がバカなんだぞ」って。
神尾が?
オレは神尾を振り返る。
そして、言う。
「神尾。お前、バカだな」
―――――…… * * *
「……ん?」
夢。
……。
なんだ?
変な夢見たな、久しぶりに。
神尾とまともに会話なんて、
一年近くしてないっつーのに。
………。
もし、「お前、バカだな」
って言ったら、
神尾は、「バカって言った方がバカなんだよ!」
なんて、
言い返してくれたりするのかな。
もうホント、バカみてー。
だけど久しぶりに鮮明に思い出せる夢を見て、
オレはなんだか、余分に嬉しかった。馬鹿みたいに。
バカって言った方がバカなんだよな。まさにその通りだよ。
「バカっていったやつはカバ」とか、
そんな意味不明なやつもありますがさておき。
後悔の念が少しずつ滲み出て、
もう本当に自分バカだなって思って、
夢の中で神尾に言うことによって、
バカだと神尾により言われたかったんです。
だけど、実際は無邪気に笑っては言ってくれないだろうなって。
『見たくない顔』の続編です。
相変わらず性格悪いっぽい主人公。爆。
2005/08/25