* ららら。 *













  ド ミ フ ァ ソ シ ド 。



「何やってんの」

「あっ、英二ー」



放課後の第二音楽室。
ぴょこんとその姿を表したのは英二。
私はバイオリンを持ち直して顔をそっちに向ける。


「今のさ、島唄って感じ?」

「あ、良く分かったじゃん」


ドミファソシド。

独特の音階を、また繰り返してみせる。
固く張られた弦を、一本一本弾きながら。


「沖縄の音階。レとラを抜かすんだよ」

「へー」


とかなんとか言っても、
音楽の成績で2を取ってた英二に
果たして分かるレベルの話かは不明だけど。
(と、これはちょっと失礼かな?)


「バイオリンじゃちょっと感じでないけどねー」

「そっかーホントはウクレレだもんね」


やっぱダメじゃん、英二。


「違うよそれはハワイだよー。沖縄のはね、三線っていうの」

「サンシン?」

「そ。蛇皮線って言った方が分かりやすいかな」


また首を傾げる。


「三味線みたいなもの?」

「まあ、そんな感じ」


ふーん。

とか頷いてたけど、本当に分かってるんだか。
まあ、全部分かってもらったところでどうってわけでもないんだけど。


英二は、私の前に椅子を持ってくると
胡坐を掻くようにして後ろ向きに座った。


「いつって言ったっけ、コンサート」


私は顎にバイオリンを当てて弓を構えた体制のまま、
ちらっと天井を見上げた。

答えると同時に、ジャンと和音を引いてみせる。


「来週の日曜日」

「え、来週って、次の次?」


ドレミファソラシド。

あれ、ラがちょっとおかしい。


「うん。今週じゃなくて来週」

「うっそマジで!」


チューニングしている私の横で指折り数える英二。
「来週の日曜日ってことは10日後だろ…」となんとか呟いて。


立ち上がった英二は一言。

「無理だ」

って言った。



「変えてよコンサートの日付!」

「えっ、は!?」

「テニスの大会と被ってるんだよ!」

「し、知らないよそんなの!」


英二が余りに変なことを言うもんだから、
私は思わずバイオリンも弓も下ろしてしまった。

英二が大声で喚く。


「だってオレ聞きたいもんの演奏!
 変えて変えて!再来週の日曜日あたりに変えてっ!」

「そんな…こと言ったって私には変えられないよ!」

「オレだって大会の日は変えれないもん!!」



ギャーギャーと話す私たち。

だけど、どちらにも譲れないものは、あるわけで。



「だって、英二いつも私の演奏聴いてるじゃん」

「でもさ、コンサート会場って違うじゃん!
 スポットライト浴びて、キレー…なドレス着ちゃったりさ!
 そんなを見れないなんて悔しすぎる」


地団駄ダンダ。
英二の場合、本当に地面をダンダン踏むからやかましい。



「じゃあさ、今から本番のつもりで弾くから勘弁してよ」

「えー…ドレスースポットライトーステージー…」



英二の不平を無視して、私はバイオリンを定位置へ持ってくる。


背凭れの部分に腕を組んで顎を乗せた英二は、
だらしない表情で

「突然『コンサートの日付が変わりました』なんてことにならないかな…」

なんて、まだ呟いてたけど。


苦笑に近い微笑を見せて、
すっと息を吸うと、演奏を始めた。




ドレミファソラシド。

シャープ、フラット、ナチュラル。


数々の音符が、頭の中の楽譜の中を駆け抜けていく。
奏でていくのは、バロック時代の西洋のメロディー。


和音が最後に二つ、重なって、
私はすっとバイオリンを下ろしてお辞儀をした。


ぱちぱちと味気ない拍手をした英二は小さく言った。

「変えれなくてもいいか…」って。

だから私も、

「変えないほうがいいんじゃない」って返した。


口を突き出した英二は、

「じゃあもう一回、さっきの島唄弾いて」

って言うから、私はその通りにした。


今度は、指で弾かず、
弓と弦でその音を奏でながら。



やっぱり背凭れに顎を乗せて、
聴いてるんだか分からないような表情で、
でも英二はずっとそこに居た。



 放課後の第二音楽室。

  夕日が橙色に輝くその中で、

   独特の“ドミファソシド”が響いてる。






















英二にら抜き言葉を使わせたかっただけ。
原作の「見つけれない」に余りに感動したもんで。
ついでに“れ”まで抜いちゃうぜ!
(意味まで変わってる事実/笑)

沖縄って好きだなー。
ちょっと調べてみたんだけど、好きだよ。

久しぶりに小説書いたかも。


2005/06/10