まさかさ。


こんな出会いなんて、期待してないじゃん。











  * 千歳の春越えて *












「絶っっ対!今度こそいい人だから」



目の前に居るのは、鼻息荒く意気込む親友。
だけど、どうだか。


のそれって宛にならない」

「今回こそほんとーに!!だから頼むよ〜」


手を合わせて頭まで下げてられてしまった。
まあ、そこまでされたら、断るのは鬼ってものだ。



「…で、日時と場所は?もう決まってるの?」

「!! っ…恩に着る!!」



溜息交じり。



説明しよう。

高校が同じで親友の私たちは、
お互い大学に入学した今も関係が続いている。

で、私の通っている大学には、
が高校の時ずっと片想いしていた相手が居るのだ。
しかも同じ学科に。
だから、合コンをセッティングするから連れてこいと。そういうこと。


の「今度こそいい人」とか、
この“今度こそ”って言葉には前例がなく、
つまり、毎回“今度こそ”が続くのである。

だから、今回だって期待してないよ。はっきりいって。
でも親友としてやってやるっていう、そんな感じ。



「じゃあ、出来るだけが好きそうなタイプ見つけてくるから!」



はいありがとう。
期待はしてないけどね。


「…アレ?」

「ん?」

「でも、の好きなのってどんなタイプ?」


聞かれて、固まる。


そういえば、は知らない。

だって高校時代の私の恋愛なんて、酷いものだった。


芸能人に本気で愛を捧げたこともあったし。
中途半端な片想いをしてはさっさと飽きたり、
一人にだけ告白したこともあったけど玉砕してそれっきり。
他にも何人かに告白されたけど
その度に難癖つけたりして断り続けて、
気付けば彼氏いない歴19年。何これ。


「ね、どんなタイプ?」

「そんなのっ!……言えないよ」

「えーじゃあ連れてこれないじゃん!」


ぶーぶーと文句を言う
いいのいいの。どっちにしろ期待してないんだから。


「じゃあ質問。私、どんな人が好きに見える?」

「え?うーん…ちゃんは大人っぽくてしっかりものだから、
 それに見合った紳士的な人が好きなんじゃない!?」


パチン、とは指を鳴らした。
私は、フ、と微笑を零す。


「あー…そう思うなら、そういう人連れてきてよ」

「分かったっっ!!!」


そう言って、は張り切っていた。


だけど、ハズレ。

私の好きな人は、どちらかというと、
なつっこい笑顔のやんちゃな末っ子タイプ。
紳士とは似ても似つかない。寧ろ正反対。


自分と、反対にタイプに引かれるっていうのかな。
凹凸を埋めているみたいに。



…でもね、は知らない。
高校時代の私の恋愛は酷いものだったから。


中学校の頃、まだ純粋に恋をしていた私を、は知らない。




思えば、私、中学から高校に入るときに性格変わったな。
所変われば品変わる、環境変われば性格変わる。

中学校の頃はおてんばキャラだった私も、
高校に入るときにイメチェンを図って
髪を伸ばしたり大人ぶったりしてる間に
考えが老熟した変なキャラになってしまった。

お互いが持っていない部分を、埋めあってるのかな。
確か、あの頃の私は、
自分と正反対の、そう、
大人っぽくてしっかりした人に憧れたものだ。



思い出して、思う。
大好きだったよなー…って。

本当に本当に。
相手は、人が元気ないとすぐに気付くくせに
恋愛に関しては本当に鈍感で、
アナタへの恋について悩んでいるんですよ、
って何度吐き捨てようとしたか分からない。
その度に、私は逃げてしまったけれど。

例えば…例えばだよ。
もしあの人が、目の前に現れたら。
私は、まだ…好きだと思う。

今の私には合った性格じゃないかもしれない。
でも、本当に私の性格ってなに?
今の性格が後天的に出来たものなのなら、
本当の自分は、過去の自分?

それとも環境に合わせているんだったら、
人に会ったら、また、戻されていくのかな。

まあ、こんなこと考えて仕方ないんだけど。


…でもね、ちょっとこう思ってたりする。

今の自分は、本当の自分じゃない、偽った自分。
本当の自分は、難しいこと考えないで生きる、
難しいこと考えてないから出来る、お気楽な性格で、
本当は、しっかりした大人の人の前で甘えていたい、
そんな性格なんじゃないのかなって。


本当の自分って、分からないよねぇ。





  **





そんなこんなで気付けば合コン当日。


「本当に来てくれるの!?」

「ああ。ちゃーんと頼んで念押しておいたよ」

「ありがとー!!」

「いいからいいから」


テンション高く、やけにどぎまぎしてる
なんか、かわいいな。
私もこんな恋をしてみたいものだ。
4年や5年前にもなれば、出来てたんだけどな。私にも。

今はもう、出来ないよ。
そんなにかわいく恋なんて、してられないよ。

こんな性格、だから?
それとも、そんなにかわいい恋、できないって思って、
今の自分に、なったの?

アレ?


「ところでだけどさ」

「ん、何」

「今日が呼んでくれた人の名前は?」





その人の名前を聞いたとき

何かの間違いじゃないかと思った

もしかしたら同姓同名かなとか。

だけど……




「大石秀一郎くんっていうんだ」




いいよね?


何年も前の

かわいく恋していた自分を思い出しても。



それが本当の自分なんだって思えたら、

いいよね?



到着まで、あと少しだけどぎまぎしてても、

いいよね。





いいよね、

あれから何回の春を越えていたとしても
あの頃の想いは消せないものだから。






















大石は遅刻しないよー!!
きっと、二人が早く来すぎたの。うん。

おう、大好きな先輩に出会ってしまってどうすればいいのやら。

真夜中に寝惚けながら書いたもんで
なんか色々と妙だけど
当時の興奮っぷりが分かって面白いからこのまま。笑


2006/05/20