* wordless'nt worthless *












こっちはお昼の2時。

そっちは夜の9時。


二人揃っての時間だね。




今日は、学校は休み。

昨日がドイツの休日だったんだ。
何の日かは忘れちゃった。
今日は、先生が連休を作るために
プロフェッショナルデーなぞなるものを設定して。
まあ、要するに休みなんです。

日本だと、ゴールデンウィークの中で
ぽつりと一日だけ半端に浮いてる登校日。
「6日がなけりゃ最高なのに」って、
絶対全国で3万回は呟かれた。

6日がこなければ、どうなってたかな。
そんなことを考えながら、ネットサーフィンしてる私。


回線が切れた。

「アイーン?」と画面に向かって顎を突き出した私は、
電話が来たことに気付いた。
常時接続のはずなのに、電話が掛かってくると切れる。
一体どうなってるんだドイツ。謎過ぎる。


受話器を取るべく部屋を出た。

こんな日にこんな時間に掛かってくる電話、
お母さん宛てに決まってるわ。
すみませんが母は現在外出中ですわよ。


営業の声で

「もしもしー」

と電話に出た。そうしたら。



「もしもし、?元気っ?」


それは、英二の声。

私宛てだった。



「あ……」


予想外のことに驚いた。
あー、そっか。英二だもんね。
英二はいつでも人のことを驚かすことをしてくれる。
(と、私も人のことは言えないのかもしれないけど)


「お誕生日おめっと」
「…ありがと」
「ちゃんと憶えてたんだぞー、凄いだろ!」


自信満々に言う英二。
私はふふっと笑って「どうも」って言った。

嬉しいんだけど、ちょっとくすぐったくて。そんな感じ。



「最近そっちどうよ?」
「あー、うん。楽しくやってるよ。そっちは?」
「こっちも相変わらずー」


そんなやりとりを交わす。
3分ぐらい、どうでもいい雑談。


「それじゃ、そろそろ大石に代わるね」
「えっ、シュウそこの居るの!?」
「ていうかここ大石んちだから」


じゃあなんでお前が電話してくんだ、
というそんな突っ込みはさておき、そこは大石家らしい。

「大石ー、だぞー!!」
と、英二が叫んでいる声が聞こえる。
一体今はどういう状況なんだろう…。


「あれ、って今何歳だっけ」

と不思議そうに呟いた英二。
私はちょっと呆れて

「18歳だよ」

と軽く言った。


そしたら途端。


「えぇぇっ!?18歳!?」

「なによ、これでも英二より半年年上なんだから!!」

「うわぁー何それ。18禁解禁じゃん」

「言うと思った!」


笑った。
そうして話しているうちに、
そういえば15歳の時も「15禁解禁じゃん」
と英二に言われていたことを思い出した。
オイ。お前の脳はいつまで経っても変わらんのか。


「あっれー?大石なにやってんだろ。オイ、大石ィー!!」


英二がもう一度叫んだ。
受話器を遠ざけてるのか分からないけど、
声が凄く大きく聞こえた。


「あ、きたきた。それじゃあ変わるからね」


そう言って、がさごそと音がして。



…沈黙。


「もしもし」


凄く、クールな、声がした。



「もしもし」


思わず私も真顔で返してしまった。


いつもだったら、「もしもし」って、
爽やかで明るい声が飛んでくるから、
私も、「もすもすー」とか、
「もっすぃー」とか「やっほぃ」とか、
そんな感じで返すのに。

今日は。
どうしてだろう。

あ、まさか昨日の夜中にあんな電話したから怒ってるなんてこと…?



「え…と、特に話すこと、なし?」



あんまりに沈黙が怖くて引き気味になった。ら。


「んー…」

「お?」

「んー…」

「むー???」


はてな。
どうしたんだ、シュウ…!?

と。


「…ごめん。話すことが浮かばない」

「なんだそれ!」


私は笑う。
話題が無いことに対してじゃなくて、
唸ってまで一生懸命考えてたことに対して。


違うよシュウ。
話題はたくさんあるんだよ。
ただ、忘れちゃってるんだよね?
緊張してるから。

緊張してる?
なんでだろ。


誕生日だってことを意識してるから。
一週間前よりお互いちょっぴり大人になってるから。
昨日の夜に変な電話をしたから。
電話越しだから。
シュウだから。
好きだから。

悔しいほど理由がたくさん浮かぶ。


とりあえず、不安要素を削っていこう。


「あの…シュウ?昨日は…ごめんね」
「いや、気にしてない。それより、あの後平気だったのか?」
「シュウこそちゃんと眠れた?」

相手を気遣ってばかり。
やっぱりちょっと、変だと思った。
気配りはそりゃ、心掛けてるけどさ。
だけどちょっと不自然だと思った。

近すぎる存在だから。
なんだろう。
ちょっと気恥ずかしい。


沈黙が生まれる。


私って、仲良い人と一緒だったら沈黙しても平気なんだ。
休み時間に友達と話してて突然静かになった時、
そのままぼけーっとしていたら
「…なんか喋ってよ!」とか突っ込まれるぐらい。
沈黙が息苦しいだなんて、あんまり感じない。

だけどどうしたんだろう。
今日は。
シュウが口を噤むたびに。
私も黙りこんじゃって。

……。


「あー…」

「ん?」

「…上手く喋れないね」

「な」


何かと沈黙が生まれる。
だけど電話は、切りたくなくて。


いつの間にか。

暫くしたら、話してた。
どうでもいいこととか、
バカらしいこととか、
なんでもかんでも。


だらだら。

本当にどうでもいいことを、話した。



…忙しいか?」

「え、それって、今?それとも最近?」

「今最近」

「……」


シュウって、いつからこんな茶目っ気使う人になった?
(ん、結構前からそうか)
(ていうか原因が私とか言われた憶えも)


「どうして聞くの?」

「いや、メールの返事が最近遅いな、ってちょっと思ったから…。
 別に、急かしてるわけじゃないんだけどな!」


フォローを忘れないのもシュウらしいな、と思いつつ。

…うん。確かに最近、返信遅いね私。
ついつい遊んでしまうのよ。
無意味にゲームをやったりしながら。
宿題もたくさんあるしテストも近いのにさーぁ。
何やってるんだろー…。


「忙しいっていうか、暇だと思ってダラダラしてるうちに多忙人、みたいな」

「なるほどな」

「うーん、もっと効率の良い生活の仕方あると思うんだけど…」


私がそういうと、シュウは笑った。
な、なして突然!?


「そこ笑う場所!?結構マジメなんだケド…」

「いや、ごめんごめん」


むー…何故だ?
私そんな変なこと言ったかな…。

と思ってたら、シュウは言う。


「嘘でも『忙しい!』とか言って俺のご機嫌取る気はないんだな」
「…え?えぇっ!?」


ご機嫌取り!?
そんな必要がある…?

…あ。
シュウは毎日きっちり返事くれるのに、
私は週一ぐらいでしか送ってないことですか。

…正直スマン。


でも嘘は吐かないもん。



笑顔が電話越しに見える。
そんな気がする。

シュウはゆっくりと語る。





「笑いたいときは笑って…」




「文句があるときは素直に怒って」





「そんなが好きだよ」







シュウ…。



大好き。

大好き。

どうしてこんなにたくさん想いが溢れてくるんだろう。


3年も経ったのに。

付き合い始めた頃と変わらない。
ずっと会ってないからかな。
今でも、こうやって話をするだけで、
緊張して、ドキドキして、愛しくて。



そして気付いた。
まだ おめでとう 言われてない。

タイミングを失敗したんだろう、と思った。
なんでだろう。
いつもは一言目ってぐらいすぐに言ってくるのに。

それでかもしれない。
この妙な緊張は。


でも、シュウに限ってタイミングをミスるとか、そんな?


…そうか。
私が昨日あんなこと言ったから
言うか言わないか悩んで。
それで。
一言目にも詰まって。

……。


なんでこんなに。
良い人すぎ。最悪。



「ありがとう…」

「いや…」

「ううん。アリガト」



たくさん伝わってきてるよ。




、無理してるわけじゃないよな?
 本当に忙しいんだったらそう言っていいんだぞ」

「分かってるよ!シュウは心配性だな」



笑った。
そのとき、お腹が鳴った。

まさか電話越しには聞こえてないと思ったけど、
自ら「お腹鳴っちった」って言った。
そういえば2時半を回ったのにお昼ご飯がまだ。


「ごめん…そろそろお昼食べてきていい?」

「あ、そっちはそういう時間だよな。気付かなくてごめん」


私は焦って否定。
どうしてそっちが謝るの!
良い人すぎる良い人すぎる!!

大好きだ。ホント。



電話を切る直前、シュウは「メール送っておいたから」と言った。
結局おめでとうって言葉はないまま、電話は終わった。




手早くお昼ご飯を準備して、
昨日の残り物の野菜炒め物を電子レンジにかけてる間に
メールをチェックしにいった。

届いていたメールを開封して、笑った。



写真だった。シュウと英二の。
どうやら予想するに、今撮ったっぽいよ。
なるほどね。英二も大石家に居たし。

こっちは元気にやってます。
そっちも元気にやってください。

まあ、つまりはそういうことなのだろう。



言葉なんて要らないんだ、って気付いた誕生日。

去年よりずっと大きくなったかもしれないってそう思った。




幸せな誕生日をありがとう。






















まとまり的にどうなのよって感じ。
現実込みを意識しすぎて大石っぽくないかも。がくぅ↓
でもところどころ萌え要素を盛り込めたのでいいや。

誕生日迎えちゃったよ。
これからは大石とともに二人三脚同い年ライフさっ。(←?)

ちょっと隙間を空けながらも満たされてる。といいな。


2005/05/07