まだ夕方だから 気にしないで

そんなこと半分忘れてたのに。


そうだ。

誕生日だ。


私、もう、こどもじゃないのかな?











  * 最後のこども心の日 *












最近のドイツは日が長い。
日に日に夏に近付いているのが分かる。

ドイツに春らしい陽気っていうのはなくて、
春っていうのは、夏と冬が混ぜこぜになってる、そんな期間。
タンクトップで過ごした翌日には
コートを着て出掛けることもあるような、そんな環境。

それでも、毎日着実に変わっていくのは、日の長さ。

真冬には4時半に夕日が落ちてたのにね。
真夏は11時近くまで薄明るいんだぞ。

今、は…夕方だけど、まるでお昼過ぎみたいな、そんな気分。




太陽が高い位置にあって。

世界は橙じゃない黄色で。


まさかそれが次の世界へ飛び込むために廻っているだなんて。




すっかり忘れて。

届いたメールに、はっと息を飲んだ。




なぎからだった。

 > お誕生日オメデト!!(^3^)/√☆
 > なんだかんだであんたも18歳なのね〜。
 > 18禁解禁ぢゃんっっ 笑。
 > あと24日の間年下ですけど4649!!←《爆》

とのこと。



そうか。

なんだかんだで私も18歳なんだ。

生々しい話ですが。
…18禁解禁という文字を見て急に実感が湧いた。爆。


いやホントに。

…18歳?




ぼーっとしたまま、メールソフトを見ると、
もう一通、日本時間で6日になった瞬間に送られていたメールがあった。


送信者名: 大石 秀一郎 。


…開封。





 、18歳の誕生日おめでとう。
 これでまた、同い年だな。
 お互い忙しい一年になりそうだけど、
 共に励ましあって頑張っていこう。

 今日と、そして今年一年が
 にとって素敵な時間になるといいな。
 うまく言葉では言い表せないけど…
 幸せを祈ってるよ。

 秀一郎』



些細な言葉でも、凄く嬉しいんだ。
上手く言い表せないとかいってるけど、
私には、しっかりと伝わってきてて、
言葉の一つ一つが嬉しかった。


忙しいけど、素敵な一年になるといいね。

私は学校でIB(国際バカロレア)をやってるし、
シュウは日本できっかり受験生だし。


受験生?

そっか。シュウ受験するんだ。

今度会う頃、もう大学に入ってるのかな?


アレ?



そっか。

次シュウに会うとき、

私は19歳なんだ……。




シュウ。

シュウ。

イヤだ、そんなの。


でも、放っておいても時は流れる。

人は年を重ねていく。


怖い、よ。





明日はゴールデンウィークの中で小島みたいに浮いてる
たった一日の登校日。

私の誕生日。


メールが届いてから30分ぐらい経ってる。

シュウはきっと明日に備えてもう寝てる。


それでも。

我慢できなくて。

不安で不安で仕方がなくて。


気を遣う余裕がなかったわけじゃない。

「ゴメンゴメン」って震える声で呟きながら
不安定な指の動きでダイアルをした。



早く。

早く出て。


早く……っ!!



「…もしもし?」



少し眠そうな、掠れた声で出たアナタ。


シュウ。

シュウ。

助けてよ。



「助けて…」

「その声、か?どうした!?」



途端に、耳元でシュウの声が張り上がる。
だけど私は、何も出来ずに。
かたかたと震える手から受話器を落とさないことに必死で
何度も何度も持ち替えた。



「やだよ…やだよやだよ!」


、落ち着け…っ」


「怖い!あたし怖いんだよ…!!」



顎がガクガクする。

受話器を持つ手もありえないくらい震えてる。

このままどうにかなっちゃうんじゃないかってもっと怖い。



「助けて…助けて助けて助けて!!」



死んじゃう…。

このままじゃ死んじゃうよ…。

助けて助けて。

タスケテ。



どうして助けてくれないの。

どうしてそこに居てくれないの。

どうしてどうして?




するとシュウは。




「…ごめん」




一言謝った。



え…?

どうしてシュウが謝るんだっけ。

わかんない。忘れちゃった。



シュウは申し訳なさそうに話す。



「電話だと長引くと思って…。
 7日は休日だから、夜にしようと思ったんだ。
 そんなに淋しがると思わなくて…ごめんな」



え?

何言ってるの。

違う。

そんなことじゃないのに。



「なんで、そんなことまで…考える、のっ…」

「え、違うのか」

「違うよ。違うよぉ…」


涙のせいで言葉が詰まる。

横隔膜が言うこと利かなくて思いっきり吸い込んだら
過呼吸みたいになってうまくいかない。


落ち着け。落ち着かなきゃダメだ。



「…ごめん」


また謝ってる。

違うって言ってるのに。








「―――傍に居られなくて、ゴメン」









違うって、言ってたのに。




「ばかぁ…」

「…ごめん」

「ばかぁ!」

「ごめんって」

「バカァー!!!」




シュウが謝れば謝るほど大きい声で罵った。

こっちはまだ夕方だ。
大声を張り上げてご近所さんの目を覚ますことは無い。


おっきい声だして。

駄々こねて。


まだこんなに、コドモなのに。




「怖いよ。イヤだよ。誕生日やだよ」

「え…?」

「オトナになるの、怖い…」



ぽつりと呟く。

シュウは、電話の向こう側で。


「あんまり変わらないぞ」

って、溜息混じりに言った。


そうか。シュウはもう18歳なんだっけ。



「今までどおりで居ればいいんだ」

「でも…」

「大丈夫」



シュウは強く言う。



「今までどおりのつもりでも、結局は変わっていってるんだから」



って。

それじゃあなんの解決にもなってないじゃない…。



「…小学生に戻りたい」

「無理いうな」

「ゴメン…」

「……うん」



静か。


ちょっぴり切ないネ。





「起こしてごめん」

「いや…」

「ううん、ごめん」



もう落ち着いた。アリガト。

そう小さく伝えた。




なんでこんな日に生まれたんだろう。

毎年誕生日の前日になるたびに、

また一つ、こどもから遠ざかるんだって思う。


後ろを振り返ったって、もう残っちゃいないのに。





「…良かったよ。自分の誕生日があの日で」

「どう、して?」

「先に行ってのことを待ってることができるだろ?」


を先に行かせたんじゃ、心配だからな。って。

シュウはそう言った。



そっか。

前に居るんだ。

後ろは振り返らなくていいんだ。


だから先に生まれてきてくれたの?

待っててくれたの?


私は人生この方18年、シュウが居ない世界には居たことがないんだ。



「だからといって、これ以上早いと別の学年になっちゃうしな」


シュウは軽く笑ってそう言った。

私も、笑顔。


「そうしたら…会えなかったかもね」

「ああ、そうだな。そうだな」


二回繰り返した。

多分、そこまでは考えてなかったんだと思う。




「…あたしも、自分の誕生日好き」

「へえ」



理由を説明しようと思ったけど、やめた。

心の中にそっとしまっておこう。



「それじゃあお休み」

「ああ、お休み」

「また明日の夜ね!」

「ああ」



そこで、電話は切れた。





今日の日付を確認。

05.05.05。

どこの国でも同じ表記だ。


年月日の日本も、
日月年のドイツも、
月日年のアメリカも。

私の人生の全てを抱えているよ。



毎年遠ざかっているはずが、
毎年同じ位置にあるこの日。
何年経っても隣同士なんだ。



こどもの日が終わるまで、あと6時間。

だけど私は、この心を失わないつもり。






















大稲設定炸裂。誕生日は譲れねぇ。
普通のドリームだと誕生日ネタは読み手を限定しちゃうから
出来る限り避けてるんだけど、だってこれは大稲。

世界の中心以下略、と被った。なろぅ…。
これは前から考えてたんだよこっちも!(ふん=3)

あーあ。解禁だよー。。


2005/05/05