* ヒトツ減って タクサン増えた *












最近、人生とかよくワカンナイ。

将来の夢とかないし、
このまま進んでどうなるのか分からないし。


そんなことを考えてうじうじしてる自分にも嫌気がさしてる。
だけど、だからといって思考を変えることもできない。


ため息、いつから癖になったっけな。




……ハァ。





「あああああ〜!!」

「!?」



遠くから聞こえた声。

私は不意にびくっと肩を震わして顔を上げる。


「ダメ、ダメ、何やってるの!早く吸って!」

「え、えぇっ!?」

「早く!ほら!押さえとくから早く!!」


突然現れて大騒ぎしだしたのは、
クラスメイトの菊丸英二くん。15歳。男。


「吸うって、何を…」

「今この辺にシアワセが居るんだって!早く、逃げるって!!」



…はぁ???

多分、漫画で描いたなら私の周りにはハテナが3つぐらい浮かんでる。



「どういうこと?」

「だって、ため息つくと幸せが逃げるんでしょ?
 今、吐いちゃった分がこの辺に浮かんでるって!早く吸って!!」


…納得。

それで、菊丸くんはさっきから私の前で手をお椀形にしてたらしい。


理屈は分かったけど、そ、それって……。



「ぷっ。あはははは!」

「にゃっ!?笑うことないじゃんかっっ!」

「だって、おか、可笑し…!」

「あーあーあーもうきっとシアワセ全部逃げちゃったよー!!」



そう言って菊丸くんはジタバタしてる。

周りでクラスメイトが目を点にしてる。


いつもの私だったら、こんなに注目浴びたらきっと気後れしてた。

だけどなんだろ。不思議。

そんなのどうでもいいぐらい、楽しくて、
気持ちの昂ぶりが収まるまでずっと笑ってた。



「あはは、あはははは!」

「にゃんだよー…オレは真剣だぞー?」



おっかーしーの!


ははっ、あははははっ!


ははは……。






……ハァ。








「あーまた逃げたー!早く、吸って、吸って!!」


「だーかーらー!」



またゲラゲラと笑う。

もうみんなの視線を気にする余裕すらなくなった。

ずっと笑って、笑って、笑って。

本当に空気が吸えないくらい笑った。



「どうして吸わないの!ほら、こうやって、スーって!スーって!!」


そういいながら菊丸くんはデモンストレーションしてくれた。
それがやっぱり面白くって、私はまた更に笑ってしまう。


「菊丸くん、笑っちゃって本当に吸えないよ」

「え、あ…そっか。ごめんにゃ」


あーもう。

…おっかしー。



「だいじょうぶ。きっと悪いの出てったから」

「へ?」

「笑う角には福来るって言うでしょ、
 たくさん笑ったから嫌な気持ちも吹っ飛んだよ」



だからきっと平気。

…しあわせ、逃げてないんじゃないかな。




新しくたくさん生まれたから。

きっと減ってないと思うよ。



ふふっ…。



「ハァ…」

「げ、またー!?」

「あっ、ごめん!話がひと段落したらつい!!」



そうしてまた、笑った。


ため息が癖になるだなんて、
いったいどんな卑屈な性格をしているんだろう、
といつもなら落ち込んでいた自分が、
今はそんな自分を嘲る意味も含めて大爆笑している。


なんだ。

笑うことってこんなに楽しいことだったんだ。



ため息をついて。

嫌な気持ちが一つ消えて、

幸せも一つ逃げる。


笑って。

嫌な気持ちが全部消し飛んで、

幸せがたくさん増えた。



だけどね。

自分からは笑えないんだ。


笑顔のきっかけを作ってくれた菊丸くんへ。ありがとう。





 シアワセ ヒトツ ニゲタ。


 シアワセ タクサン フエタ。






















結構実話。
実際は主人公役が友人で英二の立場が私ですが。
あー笑った。楽しかった。幸せ一杯だよホント。

始まりは、溜息を吐いた父を見て
「あ、幸せ一つ逃げた」と言ったら、
急いで吸い直していたのを見て笑えたから、です。
今日溜息吐いてる友人を見て、「早く吸い戻して!」と…。

溜息吐いたから幸せは一つ逃げてるんですよ。
だけどそれは笑顔の元になったから、最終的には幸せ増えてる。


2005/04/14