* 正しいね。 *
「大石って凄いね」
私の突然の呟きに、大石は随分驚いた様子だった。
しきりに瞬きを繰り返して、
ちょっとだけ困った風な微笑と同時に天井を見上げて、
最終的にはこっちを向いた「どうしてそう思うんだ?」って。
だから私は答える。
「まずあのテニス部内でレギュラーってのが凄いよ。副部長だし」
それから…。
「クラスでは学級委員もやってるでしょ」
しかも…。
「テストではこの前もトップ10入りしてたじゃん」
そのくせ、性格には嫌味なところはないし、
凄く優しくて気配りで…。
そう思っていたら、大石は額に手を当てた。
「あんまり褒めないでくれるかな」
「なんで。照れるから?」
照れるから、って…。
そう小さく言って、大石はそっぽを向いた。
実際照れているらしい。
軽くからかっただけなんだけど。
…ううん。
違うよね。
それも一つかもしれないけど。
本当の理由は、きっと別にある。
褒めてほしくないと思う、理由が。
「どうしたらそんなに両立できるの?」
じっと目を見る。
ぱっと逸らされた。
自信がないことを褒められると余計に自信がなくなるんだ。
人に期待されている場合は、尚更。
だけど私は大石から目を逸らす気はなかった。
返事をされるまで、ずっと見つめるつもり。
大石は、珍しく自信のない小さな声で、
教室の隅の方を見ながら呟いた。
「ひとつのために、他のことを諦めるのが嫌だったから」
なるほど。
大石らしい意見だ。
「それが凄いよ」
「そうか…?」
「私は、何かを得るためには何かを諦めなきゃいけないかな、とか思ってるから」
だから、全部頑張れる大石は凄い。
そう伝えた。
「大石には、これからもその調子で頑張ってほしいと思う」
そう加えた。
でも大石は、やっぱり目を合わさないままで。
「だけど最近、不安になるんだ…」
さっきより更に自信がなさそうで、
声の大きさは変わっていないのに、
掠れているような、そんな声で。
「全てが中途半端になってるんじゃないかって」
心臓痛くて泣くかと思った。
「大丈夫…だよ。大丈夫だよ大石は」
「…そうかな」
「うん。私は保証する」
根拠はないけど、何故か自信があった。
だって、こんなにもたくさん考えてて、頑張ってる人が、
中途半端だなんて、そんな。
この人はどうして、こんなにも大きな力があって、
あんなにもたくさんのことができて、それなのに、
こんなにたくさん不安を抱えないといけないんだろう。
不安を抱える力も、他より多いのかな。
少しでも元気付けられたらいいなって思ったんだ。
いつも支えてもらってばっかりだったから。
もしかして余計追い詰めていやしないかってふと不安になったけど、
笑顔が少し和らいだから平気だと思った。
目を合わせて、穏やかに笑ってくれたから。
まさかそれが作り笑顔だなんて、
思えもしなかったから。
目の前にあるものが本当だと思って信じるしかないんだって。
別の小説になる予定だったのに
あまりに主人公と大石が語りやだったもんで
「…これって『〜ね。』シリーズじゃんっ!(喝っ)」と。
そんなわけで、矛盾する部分を切り取ってこの形に。
その残りは、また別の小説として書きます。
題名にちょっと無理矢理感を感じますが。(微笑)
言い聞かせてるイメージでヨロ。
大石の言動は嘘じゃないだろうなってのと、
それで間違ってないんだよなって意味の、正しい。
だから、大石の学年トップって絶対テニス部内のことだって。。
2005/04/13