* 他人想いは自分勝手 *












学校の帰り道に気が付いた。

「あ!大変!!」
「ん、どうした?」
「今日、日直だった…」

引き返そうか、気付かなかったことにするか。
……。

後者に決定。

「気付かなかったことにしよう。
 もう一人居るし。なんとかなる!」

楽観的にケラケラ笑う私に対し、
秀はムッと眉を顰めた。
地が真面目なやつだから無理もない。

、それは自分勝手過ぎだぞ」
「仕方ないじゃん。B型自己中なんですー」

開き直ってる自分は、
まさに最悪な人間だと思う。

自覚はあるんです。
だからこそ厄介。
でもやっぱり自覚ない方がマズイと思う。


だって、考えてご覧よ。
自覚がなかった人に
アナタ自己中ですよって教えて、
果たして直ると思いますか。無理でしょう。
現に私だって自分で気付いてますが
直す気なんてさらさら有りません。

そりゃ、たまには、
もう少し周りのことを考えてやるべきかな…
とか思わないこともないけどさ。

だけど本当の本当のことを言うと、
自由奔放に生きて何が悪いの、って思ってる。
偽善でその場を取り繕って胸の内に抱えるより、
よっぽどすっきりするしずっと道理に適ってると思う。

そんな私の彼氏は、
どこまで自分を犠牲にすれば済むのかってぐらいお人好しで、
凄く、他人想いだ。


「サボったついでだ!教師に激しく止められてるけどさ、
 幽霊が出るって噂の廃ビルに行ってみない?」
「どうしてそうなるんだ!」

確かに疑問。
だけど行きたくなったんだもん突然。

私はにやりと笑って応戦。


「なに、秀怖いの?」
「そ、そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ決定ね!」


強引です。
自分勝手です。

アナタは私の希望は
何でも聞いてくれるから。
だから私も求めるの。

分かっててやってます。ごめんね。


だけど、こんな感じの方が
アナタも楽しいでしょ。ね?





  **





「うわー。いかにもって感じー!」


カツン、カツンと
私達の足音だけが響く。


、やめないか…こんなの」
「男らしくないぞー。もっとシャキッとせーい!」


そう言って喝を入れたけど、
いかんせん、秀は肩を縮こまらせたままだ。

そんな姿を振り返っていたら、
なんだかここに来たことが凄く無意味に思えてきた。
私はすぐに気が変わるタイプなんだ。
やっぱりB型は自己中マイペースに加えて飽き性だ。

まあ、一人だったらもうちょっと進んでたかもしれない。
だけどちょっとした申し訳なさが、
やる気を持続させる力を奪ってる。
結果、同情が好奇心を上回る。


「…やっぱり、帰ろっか」
「ああ、それがいい」


途端に元気になったその背中を見て、
本気で自分が何してたのか分からなくなった。

自分っていうのは一番近くなはずだけど一番理解しがたい。
近くも何も、基点なのだから相対的に比べられないけれど。

一番遠くには決してなれないけど、一番近くもありえない。
それが実質だと思った。




そんなことを考えながら、
元来た道を戻る。はずが。


「あれ、こんなところ通ったっけ?」
「さあ、見覚えがないな…」


どうやら、迷った。


「方向的には間違ってないはずなんだけどな…」
「んーだけど通ってないよここ…あ、アレ?あそこ入り口じゃない?」


私が指差した先には、壊れかかった非常口の標識が。
(表の入り口は封鎖されてるから非常口が正式な門の変わりだ)

ここは二階で、床の壊れた隙間から一階が見える。
さすがはボロイ廃ビルだなと思った。

「やっぱりこっちの方向で良かったんだ!」
「あ、待て!!!」

走り出そうとする私を、秀は呼び止める。
私ははたと足を止める。


「なに、秀?」
「そこ通らない方が良いんじゃないのか?」


そこ。
とはつまり、私が向かっている方向のことで。

確かに、切れたビニールテープが壁の片方側に結び付いてぶら下がってる。
だけどこれは本当は、両方側とも括り付けられて
私が進もうとしている先を塞いでいるはずなのだろう。

だけど面倒くさがりやの実力発揮。


「ここの床に穴が空いてるからでしょ。
 そんなに大きい穴じゃないし、避けて通れば大丈夫!」


ほらほら、と私は先行して歩いていく。
危険じゃないと証明するために。

根拠もないのに証明することは、
要するに行き当たりばったりの実証なわけで
正しく道理に適って進むとも限らないわけで。




「……え?…っ!!」




息を吸う間もなく。

私の足は宙に一瞬浮いていた。




だけど体に衝撃が走って。
前のめりに膝を突いて転んだ私は、
誰かに後ろから背を押されていたと知った。

膝の痛みに顔を顰めながら、後ろを見る。

ガラガラと崩れる床と、
舞い立つ砂埃と、
手。



「……秀!?」




認識するのに時間が掛かった。

私を安全な床へと突き飛ばして、
変わりに秀は穴へと体を沈めている。
残っているのは、辛うじてしがみ付いた手だけ。
他は宙でぶらぶらと揺れている。


「そんな…ウソ、やだ!」
「くっ……!」


アナタは言わない。

お前が俺の忠告を聞かないからだ、とか。
もう少し物事に対して危機感を持て、とか。
自分勝手な行動の所為で振り回されているこっちの身になれ、とか。

言わない。

私は、
頭では分かってる癖に
アナタが言わないのをいいことにやらなかった。

どうして。



「うわっ!?」

「秀ーっ!!」



また更に崩れる床の端。
一瞬宙に浮いた秀の手を私は掴んだ。
がくんと重みが加わって
私も一緒に頭から落ちそうになった。
ギリギリのところで耐えた。


重い。
痛い。
肩が千切れそう…。

だけど離すわけには、いかない。



、手を離すんだ…!」
「イヤ!」



顰められた眉が見える。
だけどそれ以上に私も眉間に皺が寄っているのが分かる。

だって。
そんなの受け入れられるわけが、ない。


望んでないよ、そんなこと。



私は言わない。

私の所為でアナタが危険な目に遭ってしまった、とか。
もう少し気を付けて行動してれば良かった、とか。
いつも自分勝手な行動ばかりしてごめんね、とか。

言わない。

私も言わなければ
アナタも言わない。


どうして?


…このままでは二人とも落ちる…。
 俺のことは良いから、手を…っ」


苦しそうな口振りでそう話してくる。
だけどそれに従うことはしない。

何故か、にやりと不敵に笑う自分が居た。
まるで嘲るかのように。
批判的になることを楽しむように。


「なに、ここまできて良い人のつもり?」
「そんなわけじゃ…俺はただ…!」


分かってるよ。
こんな状況になりながらも皮肉を飛ばすような
私こそ相当悪人なんだから。自覚はあるよ。

だけど。だからこそアナタのその意見は受け付けられない。


「じゃあ何なの?自分が最悪な人間だって気付いてるの!?」


残された私はどうすれば。

アナタを失った悲しみに
アナタを見殺しにした苦しみに
それをずっと感じて耐えて耐えて生きなきゃいけないの?


「今、自分が何言ってるか分かってる?」
「……」


足場は今にも崩れそう。
もう少しだけ、頑張って。




「凄く自分勝手だよ、しゅーうっ」




にこっと微笑んでやった。
一瞬、空気が柔らかくなった気がした。

その間にも汗が滴り落ちて
もしかして涙と勘違いされてないかなとか
余分な意地を今も張ってる。

手が滑る。
力を篭める。
表情が乱れる。

お願い。離れないで。


「本当に私のことを想ってるんだったら…
 そんなこと言わないでよぉ…」


だけど遮られた。



「…自分勝手でも構わない。
 世界で一番の悪人でも構わない」






  世界で一番他人想いなアナタは

  世界で一番自分勝手な人だと思う。






『 ―――それでも俺は、お前に生きてほしかった。 』






そう言って秀はにこっと微笑んだ。

秀に手を放す気はさらさらないことも、
だからといって引き上げる力がないことも、
両方理解していたと思う。

だから私も微笑んだ。



だって気付いてる、秀。
無意識なのか意図的なのか分からないけど。

過去形だったよね、今の言葉。




「私も自分勝手なんだ。
 だから秀に死んでほしくなかった」

「お互い自分勝手だな」

「人間、結局は自分が好きなんだよ」




自分が好きだから、自分の欲求を叶えたい。

その欲って言うのは、例えば、

自分の一番愛している人を救ってやりたいという気持ち。

そのために自分が犠牲になったとしても。


愛している人のためじゃない。

蓋を開けてみれば自分のためなんだ。


自分勝手になっているだけなんだ。



だから、私たち二人とも、悪人。




「地獄かな」

「さあな」




もう一度にこっと笑みを交わして、

私の顔を滴が伝って、

手と手が摩擦を失う前に、

自ら崖を飛び降りた。

二人一緒に。



 全部 自己満足。






















結論からいって死にネタだし
ていうか全体的に暗いし
そもそも展開が無理矢理だし。(起承転結カモン…!)
そんなわけで裏に連れてきましたヨ。

自分の性格を批評しつつ非難。クリティサイズ。
反省の意味も篭めまして。
それと同時に社会も風刺してみる。
状況によっては自分勝手ににならないと
その心遣いこそが自己中の極みですよ。

好きな人の幸せは自分の幸せ、
自分の不幸は好く人の不幸。
皮肉なものですねぃ…。


2005/03/09