* 幸やこんこ *












「桜にしては早すぎるしぃ…」



霜が降りた道をサクサクと歩く。



「雪にしてはちょっと遅すぎる、よね?」




ユキは、何も言わずに空を見上げた。




吐く息が白い。

一昨日に雛祭りを越えたっていうのに、まだこんなにも寒い。

まだ黄緑色や桃色は希薄で、
世界はまだ仄かに白っぽい印象。


空は灰色。



「曇ってるね、あーあ。晴れの方が好きなのに」



雨でも降り出しそう。

そう思って下を向いた。



と。




……アレ?




空を見上げる。

ユキは私の顔を見る。



「あれ…ウソ、なんでっ…?」



両手のひらを上に向ける。




「ほらほら見て…雪だよっ!」




両手を上に伸ばした。

首が痛くなるくらい大袈裟に空を仰いで。


ちらちら。ゆらゆら。




さっきまで晴れを望んでいたことなんて、忘れて。

純粋に、降り注いでくるものを受け止めた。




横で白い息を吐いたユキ。

斜め上を見上げているその様子は、
まるでその光景と同化してるみたい。


背景の一部のようになっている彼の横に立って、
私は笑顔で語りかける。

そうすれば、向こうはこっちを見てくれるから。



「ユキの名前と同じだね」



軽く降り注いでくるよ。




雪が。



ユキが。



幸が。






「これはきっと、プレゼントだね」






おや、という表情をするユキ。


そんな顔しないの。

私が忘れてるわけ、ないでしょ?





「お誕生日おめでとう!」





そこに見えたのは、太陽のような笑顔
ではなくて、儚く優しい微笑。


柔らかに笑うの。

軽く舞い散る雪のように。





  幸 が アナタの元へ 降り注がんことを … *






















言葉はなくても態度で示す、漢幸村(15)♂。
台詞が一個もないよー。
「オレ」って言わせようと思ってたのに、
気付いたら全然喋ってないからそのまま皆無で終わらせた。
これもある種の文体かなーとか勝手に。儚く優しく散れ。

幸村のことを昔サチムラと読んでました。謝罪。
幸と書いてユキかよやられたよーネタだよーってわけで。(何)
ちなみに題名は某歌より。こんこんじゃないんだよねー。

お誕生日おめでとう。そういえば初書き。
台詞が無いので間違ってる心配がなくてよいわ。ぁ。


2005/03/05