せめて渡した上で粉砕とかなら良かったんだけどな。

良くはないケド、諦めがつくというか。


だけど。



「…明日なのに」



2月13日、私の恋は粉々に散った。











  * 当たって砕けず受け止めて *












「こんなバレンタインって有りー!?」


チョコを食らう我。
食べるっていうより食らうって感じ。
寧ろ貪る。
てか口に詰め込む。
焼却にあらず消化処分。


あーあ。

サ イ ア ク 。



本当に…こんなバレンタインがあったものですか。
だけどあってしまったのだから仕方がない。


バレンタイン前日に 粉 砕 。



…時は24時間前に遡る。






  **






「あー、ついに明日かー」
「うんうん。頑張ろうね、!」
「勿論よ。片方だけ逃げるのは無しだからね」
「分かってるって!」

私と親友のは、キャッキャ喜んでた。
翌日――バレンタインのためのチョコを
家庭科室で終えたところだった。

私たちの他にも、沢山お菓子作りをしている人がいる。
この日の家庭科室は女子で埋め尽くされている。
みんな、甘い材料を沢山持ち込んでいる。

私も、さっきチョコレートを作り終えて、
後は固まるのを待って、包んで渡す、と。


さあ、固まるまで待機だ。
冷蔵庫の中にそれを入れた。
そう思って、エプロンを取ってその場を離れた。

一時間ぐらいすれば固まってるのかな?
そんなことを話しながら、中庭で散歩。

と。
突然が声を張り上げる。
張り上げるというか、掠れた声の叫び。
大声を出したい、だけどこしょこしょ話の声で。


、不二くん不二くん!」
「え、どこどこ!?」


足を止めて、校舎に張り付く。
そして、物陰から観察する。

そうです。
不二裕太は私の好きな人。
明日のアタックの的です。

ちょっと素っ気無いところもあるけど、
ひたむきで、少し意地っ張りで、でも優しい人。


その不二とクラスメイトが繰り広げていた会話、は…。



「なあ、明日アレだろ?」
「あれってなんだよ」
「決まってるだろ、バレンタインデーだよ!」


そんな会話に、私もも身を強張らせる。

そうですよ明日は乙女が一大決心をする日。
紛れもない聖バレンタインズデーです。

さあ、不二はどんな反応を示すのか…?


「なあ、裕太はどれくらい貰う気だ」
「ああ?なんのことだよ」
「しらばっくれんなって!チョコレート、何個ぐらいが予想?」

別に。
鼻に掛かった声で嘲るようにして。



「欲しくねーし、チョコなんか。ウザイだけだ」



・・・。


え?




「えー勿体ねー。お前なんてモテんだろ?」
「何言ってんだよ」
「俺なんて義理チョコすら貰えないぜ。
 あー!本命チョコなんて夢の夢かな」

「………」

「……」

「…」




会話が遠ざかっていった。

がこっちを見てきているのが視界の端に移る。
私の焦点は、愛しの人の背中を追っていたけど。


しかし…なんですとな?



嘲笑して。

チョコ欲しくない。


ウザイだけ。




…」
「………」



も対応に困っているけど、
それのフォローをする間もない私。

そうか。
戸惑っている私をがフォローしようとしてるのか。

どちらにしろ無理なことには変わりはないわけで。






北風が 冷たい。



落ち葉と一緒に散った。




サラバ、私の恋心。




 サ ラ  バ  。






  **






こうして、私の恋は見事に崩れ去ったのです。

固まったチョコはラッピングされることなく、
冷蔵庫から取り出されると同時に
そのまま口の中。

そして、もうお腹の中です。


今の段階で冷蔵庫にまだチョコレートが入ってたのは、
私のだけでした。
そりゃそうだよね…。
みんなはもう渡した後か、
少なくとも、もう包んであるんだよね。

…最悪、こんなバレンタインデー。



ラッピングも考えてあった。
包装紙も準備した。
カードも書いた。

…全部無駄になった。





せめて、渡して散りたかったな。

なのに、当たる前から砕けちゃった。



…あれ?

どうして私、渡さなかったの?


当たって砕けることも出来た。

どうせ砕けるって分かってても当たることは出来た。



負けると分かっている勝負に挑まないのは
傷付かないための最善の方であり賢い選択ではあるけれど
負け犬といわれたらそれまでの気もする。


ねぇ、何やってるの、私?

今日は勇気を奮うって、約束したでしょ。

決心したでしょ!?





走る。

走る。

テニスコート…居ない。
今日はクラブに行ってる日かな。

だけど時間的にはまだのはず。
それとも丁度出かける頃?


……あ、居た!



「……え?」



不二の手、見た。
手に掴んでいる小包は、どう見ても…。



「…チョコレート?」

「わ、!」



途端に不二はどぎまぎとした表情を見せる。
そんな不二を見て私もどきどきする。

あれ、なに。
ちゃっかりと受け取ってるよ。

どういうこと!?



「チョコは受け取らないのでは!?」

「はぁ?!」

「ウザイのではないのですか!!」



思わず言葉がカタコトだヨ!
だけど気にする余裕もない。
口もパクパクしちゃうよ。


あー…と、不二は頭を抱えた。
「もしかして、昨日の話聞いてたのか?」と。

力一杯頷く。
だって聞いてたんだもん。


そうしたら、不二、は。



「だって…お返しとか、メンドクセー…」



え。

なに。

何ですと!?



「…それだけの理由…?」

「う、うるせぇな!」



ちょっと顔が赤い。
…さすが、照れ屋代表。意地っ張り選抜。



そうだよ。
甘い物が好き(チェック済み)な不二が
チョコを欲しがらないだなんて、普通に考えたらありえない。

面倒くさいのと、照れくさいっていう、きっとそんな二つの理由。
だけど他人の行為を邪険することも出来ず、
甘い物好きだし(繰り返し)、結局は受け取っているわけだ。


「じゃあ、私も渡せば良かった…」
「え?」
「あれ、口に出てた…?」


表情を見るからに、出していたみたい。

ここまで来たら引き返せないや。

そうだね。


当たって砕ければ良いじゃん。



「私も、渡そうと思って作ったんだ。チョコレートを。
 だけど昨日の話を聞いて…」


言葉は一応選んだつもり。


「処分しちゃった。本当は、渡したかったの」



さあ、ぶつけよう。

散るならば粉々になれば良いさ。




「私、不二のこと……スキ」




言 っ た 。




言ってしまった。
ついにやってしまった。
後はさあ返事を待つのみです。


イエスですかノーですか?
笑顔ですか顰め面ですか涙ですか?

見えたのは…照れた顔。


さすが、と思うのも束の間、
不二はガシガシと短い髪の頭を掻いた。
そして聞いてくる。


「今週の金曜日、何の日か知ってるか?」

「今週の、金曜日…?」


月曜日の今日が14日だから、
金曜日といったら…18日。



「モチロン。…誕生日でしょ」

「知ってるんだな」



参った、というような苦笑いに近い微笑を浮かべた不二は、
ギリギリ視界に入る程度に視線を逸らす。

その状態で、言う。


「…返事はそのときする」

「へ?」


くるりと背中を見せると不二は去っていく。

やけに速歩きなのは、
早く距離を置きたかったから?
赤くなった頬を見られたくなかったから?



「素直じゃないね、アイツ」



余裕綽々になった私はぽつんと一人呟く。


そして直後 笑顔 。




これはつまり、成功と取っていいの?



分かってるよ。
もし、私の予想が正しかったら、
アナタの誕生日にアナタが求めている物は、
今日アナタの手に渡っていたはずの物。







もう一回頑張ろう。

砕け散らないと知った心は

もっと強く当たることができるから。


粉々にならなくても良い。

優しく受け止めてもらえるから。







そして一週間が終わる頃には、
肩を寄せて笑顔を交わし合う私たちが居たとさ。


そこで不二は
バレンタインチョコを貰いたくない理由の一つに、

「本命以外は貰っても嬉しくないから」

と付け加えた。


甘さたっぷり篭めたミルクチョコレートを齧った不二は嬉しそうに笑った。

白いチョコレートソースに書いた「大好き」の文字も笑っているように見えた。






















バレンタインネタで書き始めていたのに、
アップできなかったので、裕太BDと併せて。(せこ)

寮の調理室より学校の家庭科室の方が融通が利きそうだな、と。
そんなわけでVD前日に終結する女生徒たち。笑。
楽しそうだよね、ルドルフ。特殊設定万歳。

敢えてハピバは入れない。バレンタイン交じりですから。


2005/02/18