―――本当はね、一年前からこの日を待ち侘びてたんだよ。











  * 一年越しのI love you. *












去年 伝えられなかった この想い。

今年は 伝えることが できるかな?



いつもより人々がそわそわしている朝。
大きな袋を抱えていたり、
小さな包みを隠していたり、色々。

本命であろうとなかろうと、
多くの人がお菓子やプレゼントで持ってきているであろう、

今日は、バレンタインズデー。



人が死んだ日にハッピーも何もないと思いつつも、
世間の流れと企業の罠に便乗して、
チョコレートなんて買ってみた。

それもこれも、とある人に渡したいから、なんだけど。



本命も本命も、大本命。
今までの人生の中で一番気合入ってる。
どれぐらい本気って、友達にも明かしてないくらい本気。
一年以上前からもずっと続いているぐらい、本気。

そう、一年以上も前から。



思えば、私は初めてあの人を意識したのは、
去年の今よりもうちょっと前のこと、だったかな。

なんだろう。一昨年のうちは、そんなことなかったと思う。
それとも無意識にそうだったのかな?
とりあえず、好きと認識したのは、去年の今頃で。


バレンタインデーがやってきた。
私、何も言えなかったし言わなかった。
確信もないのに言うのは失礼かなって。

だけど後悔したのは、その日のうち。
プレゼントを貰っているその姿を見て、嫉妬した。
自分もあげれば良かった、って。そう思った。
やっぱり好きなんだ、って。確信した。少し遅いね。

だけど物も心も何も準備できていなくて。
結局、言葉すら伝えることも出来ずに。


その日のうちから思ってた。

「早く来年のバレンタインデーよやってこい」って。


時が流れるのは意外と速くて、
いつの間にか、今日はその一年後の日。



今日こそ、伝えよう。
一年以上の思いを込めて。


だけど、あの人は朝から忙しそう。
さっさと早く登校したと思ったら、
そのまま朝練で時間ギリギリまで教室に来ない。
教室に漸くやってきたと思っても
授業中は席も遠いし渡す隙なし。
休み時間は周りの目が痛い。
わざわざ呼び出す自信もなし。

ふむ…参った。


考えた結果、帰りに待ち伏せすることにした。





  **





そんなこんなで放課後。
掃除も終わって、私は帰る気満々。

さあ、あとはタイミングを見計らうだけ…ん?


ふと気付いた。
あの人は、放課後も部活がある。

…参った。





  **





時は放っておいても流れる。

今は、何時?

時計を見ていないから分からない。



もしこの世が“時間を進めないと進んでいかない世界”だったとしたら、

どれだけ大変なんだろう、と思った。


だけど、この世では放っておいても時間は進む。

そんなうちに、数時間ぐらい過ぎ去ってしまう。


一年間ぐらい、振り返ってみれば簡単なんだ。



それでも、やっぱり思うんだ。

後悔の念が強い分、この一年は長かった、長かった、って。




少しだけ先回りをする。
帰り道のルートは調べてある。
どこから一人になるのかも分かる。

そこで、スタンバイ。



更に待つこと30分弱。
ついに、そこに現れた。



「大石!」

「ん?」



ついに。
声を掛けてしまった。


さあ、ここまで来たら逃げられないわよ。

ぶつけなさい。

一年間分の想い。





 「好きです……っ」






結局、並なことしか言えないような自分に、
ちゃんと言葉も考えておけばよかった、と後悔。

だけど伝えたよ。
想いだけは、たっぷり乗せたよ。


「……そうだ。これ、貰ってください」

「あ、ありがとう」


チョコレートを渡す手、ちょっと震えてた。
自分では分かったけど、相手にも気付かれかな。



「えっと…ずっと待っててくれたのかい?」

「――――」



はい。

そう答えた自分の声は、力が抜けていた。
頭の中を、ぐるりと思考が巡ったから。


一瞬、思ってしまった。
もしかして、考えを読まれてるのか、って。
こっちの想いは前から気付かれたのか、って。

だけど違うね。
今の話だよね。
部活が終わるの待っててくれたのか、って。

そういうことだよね。



だけど、勝手に深読みしてるのは、ずるくないよネ?



いいじゃん。

一年に一度、乙女が告白するのが許されている日なんだからさ。






















別に一年に一度とか関係無い時代ですけどね。
まあ、この主人公の心境的にそうなのよ。
実際、本当に深読みなのかどうかはご想像にお任せ。
上手く行くのかどうかもご想像にお任せ。

風刺小説っていえるのかな。楽しー。

過ぎた瞬間に後悔することないですか。
それで、次はいつだーって思うの。当分後なのに。


2005/02/14