* 知愛通知 *












「今度の週末遊ばない?」

そうメールをしたオレに返ってきた返事は、

「何言ってるの。私受験で忙しいよ!」

だった。


確かにそうだけど。

そうだけど…返事が冷たい!

でも悪いのはオレだったんだろうな…。


そんなことを考えてるうちにこの日が来てしまった。

「ハッピーバレンタインデー…」

呟く。

周りには誰も居ない。

誰も居ないのに言った、というよりかは、
誰も居ないから言った、という方が正しい。


あーあ…。

全然ハッピーじゃないや。

3年前のことを思い出す。

「そうか、お前受験勉強で忙しいもんな」って言って
別々に帰ってた友達は、遠い存在に感じていた気がする。あの頃。

今はお前らが、受験で忙しいんだろ。ちくしょ。どうだ。
だけど今は全員がそうだからつまらなくないんだろな。ちぇっ。
別にいいけどさ。オレ、受験して良かったと思ってるし。


だけど、友達とは全然遊べないし、
そりゃ、たまには遊んだけど、
やっぱり毎日ってわけにはいかなかったし、
遊び盛りの身としてはなかなかに辛かったわけだ。

荒れてる…ってほどではなかったと自分では信じたいけど、
なんとなーく、毎日イライラしてた気がする。
オレって元々気分屋かもしんないけど、
あの頃は、それ以上に、精神不安定だったと思う。

受験で忙しいから、っていって離れてた友達は、
もしかしてオレのことが嫌で仲間外れにしてたんじゃん?
とか思ったこともあったよ。
今では向こうの気持ちも分かるけど。


オイ。一緒に遊ぼうぜ。

なに勉強なんかしてんだよ。

オレより勉強の方が大事なわけ?

なんか…寂しーじゃん。


あーあ。

ポケットを探る。
昨日、大石と神社に行った時に買った
合格祈願のお守りが手に当たった。
少し時期外れかなと思ったけど、
受験直前に来る人も居るらしくて、
絵馬とかも売れてる、って境内の人が言ってた。

もしかしてアイツのがないかな、
って吊るしてあるのを探したけど、
それらしい名前は見つからなかった。

アイツは、絵馬より、お守り派だったしな。
そう思って、ポケットに入ってるこれを買ったんだ。

3年前のことを思い出す。

あと、卒業まで1ヶ月ってところだったんだぜ?
オレは2日後に受験を控えてるっていう大事な時期に、
だけど勉強から逃げ出したくなって、
学校帰りに公園に寄ったんだ。

そうしたら、アイツはそこに現れてさ。


『いいの、こんなところで油売ってて』

『誰も買わないのになんで売らなきゃいけないの』


返事がちょっとおかしかったらしくて、笑われた。
ちょっと腑に落ちなかった。
ほら、ちょっとイライラしてた、時期だったからさ。

オレは眉を顰めたと思う。
茶化しに来たんなら帰れ、
みたいなことを言ってた気もする。
ホント、精神状態最悪でさ。


それなのにアイツは動こうとしなくて。
それどころか、鞄から何かを取り出して。


『はい!』

『…え、ナニコレ』


オレの目前にぶら下がった物。
それは、合格祈願のお守り、だった。

そいつは、ちょっと照れた風に笑って。


『それ、チョコレートの代わり』

『へ?』

『…分かってないの、今日バレンタインでしょ?』


本当にオレ、とぼけたやつだったなー…。

まあ、今でこそチョコは沢山貰えるようになったけど、
小学校の頃は結構みんな決まりを守って
学校にお菓子とか持ってきてる人少なかったし、
それにさっきも言ったとおりオレってば気分屋で、
おまけにチビで悪ガキだったし、
オレにチョコなんてくれるような人なんて居なかったってわけ。

だから分かってなかったよ、バレンタインなんて。


『ほら、ちゃんと合格してよね!』

『え、あ…うん』

『そうしないと、同じ中学になっちゃうじゃない』


なんだってー!?って、
オレは怒った態度を見せたけど、
向こうは動じなかった。
怒る気も失せた憶えがある。

向こうは笑ってたけど、
一瞬、ほんのちょっとだけ悲しそうな顔をした。


結果、オレは無事青学に合格を決めて、
みんなとは違う中学へ行くこととなった。

寂しかったけど、それ以上に、
アイツと別れるのが一番悲しくって。

卒業式の別れ際に挨拶するとき、
一瞬、ほんのちょっとだけ笑顔を作るのが精一杯だった。


オレたちは度々遊んだりして、
はっきりいって付き合ってるような状況だった。
向こうもそう思ってたんじゃないかと思う。

だけどそれを言葉で確認したことはないし、
本当だという確証もない。

だから、今年、3年前と同じ日に、ここで…言おうと思って。
でも忙しいだろうと思って休みの日を選んだら尚更悪かったみたいで。

…会えなかった。


いや、本当は、今日なんだけどね。会いたかったのは。
まだ過去形じゃないけどね。
そのうちどうせなるだろうけ、ど――…。


「……?」

居た。

そこに、立っていた。

3年前と同じように。


オレはベンチに座っていて。
そこの前にオマエは立って。
見下ろしてくる角度で。
だけど顔は笑顔で。
後ろには太陽が見えて。
雲に見え隠れしていて。
ちょっと眩しくて。

だけどそこには合格祈願のお守りはぶら下がってこなくて。
代わりにじゃあ、何が目の前に出されたのかというと。

「ハッピーバレンタインデー」


チョコレート。


そうだよ。
元々は、あれが代わりだったんじゃん。

でも、バレンタインデーにチョコレート、ってことは。

「…付き合う?」

「なにその唐突な言葉!」

あ。しまった。

頭の中で構成されていた会話を丸々スキップしてしまった。

どうやってフォローしよう、とか思ってる間に。


「でも正解。私も、そう聞こうと思ってた」


そう言って笑った。

「…受験は?」

「昨日で最後だった。まあ、関係ないけど」


「関係ない?」

「うん。今日うちに通知が来た。本命受かったよ」


「やったじゃん。それってどこ?」

坦々と進む会話。
オレが聞いて向こうが答えて、の繰り返し。
さっきからずっとそうだ。

で、その質問の答え、は。


「青春学園高等部」


……そっか。

そうなんだ。


「同じ高校になっちったじゃん。あーあサイアク」

「お、言ったわね!?」


オレは立ち上がって、走って逃げた。
そうしたら向こうは追いかけてきた。

そういえば小学校は教室中で追っ掛けっこしたな。
本気でもない悪口のような冗談並べて。

アイツってあの頃からオレのこと好きだったの?
オレって、いつからコイツのこと好きだっけ。

忘れちゃった。


手に掴んでると邪魔だから、
貰ったチョコレートはポケットに入れた。
それはそれで走りにくかったけど、
ポケットの中で揺れる感触が嬉しくて。


そして、今こうしてオレたちがこうしているのも、
奥底に仕舞われた、合格祈願のお守りの効果かな、と思った。























『願叶祈願』の続編ですよ。一応。

英二ってそんなに必死に勉強する人かな。(←失礼)
スポーツ推薦とかだったらどうしよう。まあいいや。
いいよ。私の中では英二は切な系キャラだから。

私立って試験日早いとかあったっけ?
あーでも結果が出るのは遅いとか?アーン?
本当に受験のことは何もわからん。プーです。

大石が思ってる以上に英二は複雑な人間だと思うよ。


2005/02/13