* 願叶祈願 *












「受験シーズンですな」


硬い口調で喋る英二。

何を言い出すのかと思ってそっちを見ると、
その口調らしく、眉を顰めていた。


「どうしたんだ、一体」

「だって、思わないの!?」


思わないの、って…。
確かに、ニュースで聞いたり世間の雰囲気とか、
それとなくそういう雰囲気を感じ取ってはいるけれど。
うちの学校は私立だからエスカレーター式で
高校に自動的に上がれるわけだし、
特に今身に染みて感じるような必要性はない、はず。


「世間は受験モード。オレたちこんな遊んでていいのかな。あーあ」


驚いた。
英二の口からその言葉が聞けるとは思っていなかった。


「なんで突然そんなことを言い出したんだ?」

「んー…?」


曖昧な返事をしながら顔を逸らしたから、
そのまま話もうやむやにされるのかな、
と思ったらそうして視線を合わさないままに
ぼそりと英二は呟いた。


「小学校の友達たちがさ、みんな今受験してんだよねー…」


ああ…なるほど。
小学校の友達といえば、特に仲良かった奴らとは
年賀状のやり取り程度ならしているけど、
会うことは滅多にないし、そんなこと考えていなかった。

それに比べて英二は、同窓会も頻繁にやっているみたいだし、
相当仲の良いクラスだったんだろうな、と感じる。


だけど…そうか。
自分と同じ年の人たちは勉強に励んでいるのか。

英二の気持ちも、分からないでもないような。


「じゃあ英二、これから勉強でもするか?」

「んー…」


また眉を顰めた英二は。


「やっぱいい」

「あ、そうなのか?」


なんていうふうに答えながら、
やっぱりそうだろうな、と心の中で笑う自分。

そして、ふと思う。


考えてみれば、俺は英二の小学校の知り合いのことなんて
何も知らないわけだし、向こうだって同じであろう。
3年間という時を共に過ごしてきたけど、
それ以前には6年間を共に過ごした仲間が居るわけで。

嫉妬、ってわけじゃないけど。
どことなく、侘しい気持ちになった。


「英二、神社に行こうか」

「へ、なんで?」

「合格祈願。友達のためにしたらどうだ?」


ぽかんとしていた英二は、
即座に懐っこい笑みに変わって。



「そうだね。よっしゃ、じゃ行こーぜ!」



そういうと先陣を切って走り出した。

俺は始めは歩いていたけど、
英二が止まる様子がないので自分も走って追いかけた。



3年前に、俺たちは受験したんだな、同じ学校を。
同じ試験会場に居たのかな。
なんとなくそんなことを考えてしまった。

3年後は、どうなっているだろう。
そのまま付属の大学へ進学するのだろうか。
それともまた別の大学へ行くのだろうか。
もしくはそのまま就職するとか。

分からない。
先のことはまだまだ分からない。
今のことだって、分かりきれていないというのに。


少し時期外れの神社には、誰も居なかった。

お賽銭箱には100円を投げ入れた。
横で、英二は10円玉を大量に投げ入れていた。

手をパンパンと叩くと、
誰と誰と誰が合格しますように、
とぶつぶつと沢山の名前を並べていた。

そして最後に、500円玉を投げ入れて、
今度は口には何も出さずに、手を合わせて目を瞑っていた。


俺も、一緒に手を合わせて祈った。
英二の願いが叶いますように、って。
そうすれば、二人分祈ったことになると思ったから。


「上手くいくといいな」と言った俺に、
英二は「ありがとう」と言った。

そのお礼は、自分の友達のために祈ってくれて、
という意味だと受け止めて、特に何も言わなかった。
なんとなく不自然に感じなくもなかったけど、
じゃあ不自然なのかというと違う気もしたから。
だけど意識してしまうということは不自然だったんだろうな、
と気付くのは後になってからのことだった。


願いが叶いますようにと、願った。






















日記に書き始めたけど、続編を思いついてしまい
そのままこっちに移行してきました。笑。
バレンタインデーと繋がる作戦。

もしかすると大石って切ない人かも。汗。
ホモとドリームが試行錯誤される世界。ふふふ。
いや、別にいいんだけどね。黄金が友情でも。
…大石どう考えても英二のことしか考えてないけど。爆。

題名の読み方不明。ガンキョウキガン?


2005/02/13