* 心の特効薬 *












 別に、それほど傷付いてるわけじゃない。

 寧ろ傷付いているのは向こう。

 傷付けてしまったのは、私の方なんだ。


 だから声を出してなくことなんてありえない。





「かおるー」


公園で愛しき人を見つける。
私は手を振りながら近寄っていく。

向こうは私の姿を確認すると、
手に掴んでいたタオルを首に掛け
こっちを向き直った。

「自主トレ?頑張ってるじゃん」

横に並んで上を見上げる。
薫は顔を背けて「これからだ」と言った。
そういう謙虚な態度も好き。

偶然立ち寄った、
わけじゃない。
その姿が見たくなった。
この時間はここに居るだろうと思ってきた。

そんなこと本人には伝えないけど。
余計な負担は掛けたくないし。

だけど。


「…何しにきた」
「え?ただ通りかかっただけだけど」


平静を装って返事。
だけど内心ドキドキしてる。

気付かれた、かな。


「…元気がナイ」
「へ?そんな、ことないよっ!」


ほらほら、とガッツポーズ。
薫の表情は和らがない。

元々鋭い目付きをしている人だけど
その視線は更に細く長く。

だけど直後にか細く弱く。


「嘘言ってんじゃねぇ」


キツイ言葉。
これは心配の表れ。

薫は不器用だから
気持ちを伝えるのが下手。
私はずるいから
嘘のことを伝えたりする。

お互い様だけど
私は薫には勝てない。

「何もないっていったら、嘘だけど」

この言葉も真実じゃない。
本当は心がちくちくしてる。

「凄く凄く大切な人と…ケンカ、かな」

正確にいうと違う。
ケンカなんかじゃない。
私が一方的に傷付けただけ。


「あーあ。バカみたいー…」


苦笑い。
ちょっとだけ涙を隠してる。
だって私が泣くなんて宛違い。


薫の視線が刺さる。
たまにこの人の目はイタイ。

敢えて視界が重ならないようにしていたけど。


「……泣け」
「は?」
「いいから黙って泣け」


………え。


泣けって言われると、
泣き辛いんですけど…。
出かけた涙も引っ込んだよ。

そっか。
薫なりの慰め方…なのかな?


「…涙を流すのは」
「え?」
「心の傷を癒す一番の薬、だそうだ」


普段は静かな薫が、今日は沢山喋る。
珍しいなーと思ってたけど、違って。

そっか。
薫なりの慰め方、なんだ。



「だから泣け」



ぼふっと。
引き付けられて、私は薫の胸に飛び込んだ。

そうしたら
さっき引っ込んだ涙も
溶かされたみたいに出てきちゃって。



「…薫……っ」
「………」



何も言わず、
ぎゅっと更に引き付けられた。

締め付けられるような苦しさの中で
私は何度も肩を振るわせた。

だけど声は一度も出さなかった。



ポロポロ。

ポロポロ。


服を汚しちゃ悪いと思って
顔を斜めに傾けていたけれど
最後には思い切り押し付けて
そのままポロポロと泣いてしまいました。





涙が収まる頃
私の気持ちは落ち着いていた。

薫が全部吸い取ってくれたみたいだ。



「…ありがと」


そっと体を離す私。
薫は顔を背けていたけど
ちらっと一瞥してきた。

目は赤いだろうけど。
腫れてるかもしれないけど。
私はにこっと笑顔を見せた。

薫の心配そうな顔も
一瞬にして解けた。




涙は心の特効薬。

心の特効薬は笑顔。


素直な気持ちがココロの癒し。






















メルマガ以外で大石以外の小説は久こいのぅ…。

心の傷を癒すには涙を流すのが一番だそうですよ。
だから悲しいとき人は自然と泣きたくなるのだそうよ。

素直すぎる自分に少し反省しつつ
素直にならなきゃという結論に達する。
それでいいんだと思います。


2005/01/08