* 平心低頭 *
『ごめん』
その一言がいえない。
たった一言が。
重みを増して増して、口から出ようとしてくれない。
ほら、向こうも怒って。
眉を顰めて。
だけど完全に釣り上がってはおらず。
哀れみさえ交じるような、怒りの表情で。
一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
身を縮める私は、逃げ場もなく。
私も今、同じように眉を顰めているだろうか。
だけどそれは怒りは交じっていない。
ただ、恐怖と、悲しみだけで潜まって。
今すぐにでも、謝りたい、のに。
目の前に立たれる。
顔一つ分違う身長。
見下ろしてくる貴方が、余りにも大きい。
その貴方が、今、口を開いて。
「(来る!)」
ぎゅっと目を瞑って身構えた、その時。
「ごめん!」
「………え?」
そっと目を開けると、そこには頭を下げた貴方が。
背の低い私よりも、小さくなって。
そのまま十秒ほど固まっていた。
「ちょ、ちょっと秀、顔上げて!」
「ごめん…俺が悪かったよ」
そんなそんな!
これ以上謝られても!
だって、悪かったのは私のはず。
そうだよ、悪いのは私なんだ。秀じゃない。
「秀は悪くない!私の方こそ謝らなきゃ…ホントごめん!」
ガバッと頭を下げた。
元々背の低い私は、貴方より小さくなる。
向こうは対抗するかのように、更に腰を曲げる。
「いや、あれは俺が間違ってた!」
「違うの私がワガママだったの!」
「そんなことない、俺が!」
「私だってば!」
ぺこぺこ頭を下げ合いながら、そんなことをしてた。
…私たち、何やってるんだ。
っていうか、何やってたんだっけ?
「…喧嘩の理由忘れちゃった」
「……だな」
虚しくなった私たちは、顔を上げて。
目が合った瞬間、二人で笑った。
…なんだ。
こんな簡単なことだったんだ。
謝るまでは「うぉ〜どないせう〜!」とか思ってても、
いざ謝ってみるとあっさり終わって、
さて、なんで喧嘩してたんだっけ?っていうそんな話。
ありがちですまそ。
ぺこぺこし合いながら謝ってるのって可愛くないですか?
私はというと、平和大好き人間なもんで
今まで人生において数々の喧嘩になりそうな場面は
自ら身を引いて回避or気付かない、だからなぁ。(ぇ
こういう経験って、あんまりないです。
もっと全身でぶつかるべきですか。
(短気にあらず長気/何ソレ)(ていうか、鈍感すぎ)
題名の漢字は嘘です。正しい四字熟語は平身低頭なので注意。
2004/10/20