―――君が居た夏は遠い夢の中。





最近ハマってる、少し前に流行った歌。


別に遠い夢の中にしか君は居ないわけじゃない。

それでも、遠くに住む君と過ごした時は、

夢のようなひとときだったと。



そう思ってしまうんだ。











  * Summer 〜君と居た夏祭り〜 *












約一年ぶりにやってきた生まれ故郷。
湿度の高い暑さもそうだけど、
それ以上に排気ガスの匂いが気になって、
どれほど異国の地の環境に慣らされていたんだろう、と思う。

暫くは口で息して頑張っていたけれど、今度は喉にきて。
息を止めてみたけど、数秒で力尽きて。

慣れるしかない、と思った。


最悪な空気。
自分の育った地の一番の不満はこれかな、と思う。

それと同時。


…帰ってきたんだ。


その事実に気付いて、
これからの一ヶ月強の滞在に胸をときめかせた。




  ただいまっ!








   **







懐かしい家。
日本に住んでたおばあちゃんと、お姉ちゃんとの再会。

おぅおぅ、兄ちゃんめ、
見ないうちにカッコ良くなりやがって。

おばあちゃん、少し背が縮んだかな?
それとも、私がおっきくなったのかな。
(…後者であることを願う。切に)



夕ご飯は回転寿司。
だけど全然食べれなかった。


時差のせいかな。
機内食が残ってるのかな。
暑さでバテてるのかな。

…胸一杯なのかな、なんてねっ!


らしくもないこと考えて、
一人で心の中で笑った。





   **




家に帰って、一番に連絡する先は決まってる。
さぁ。レッツダイヤル!


「……あれ?」


番号忘れてる。オイっ!
去年の8月は覚えてたのに。
完全に記憶に残ってくれるものだと信じてたのに。
…いつの間に忘れちゃったんだろ。

ちょっと寂しさ感じながら、仕方無しにメールを送った。


 > 帰ってきたよ。明日、一緒にあそぼ♪


そしたら。


 > お帰りなさい。そして長旅お疲れ様。
 > 明日のことだけど、やっぱり平日は無理かな。
 > 今日は一日空けてあったんだけど。ごめんな。
 >
 > 今ここに英二がいるんだけど、英二がに会いたがってるぞ。
 > 英二は、午後なら空いてるみたいだから、
 > 会う気があったらメールしてくれ、だそうだ。
 >
 > それじゃあ。今度会える機会を作っておくから。
 > 疲れも溜まってるだろうし、環境の変化もあるし、ゆっくり休めよ。



「何をぅ…」


シュウの阿呆!!
超遠距離恋愛の超々可愛い(…くないかもしれないけど)
彼女がはるばる11時間半上空に漂ってきたっていうのに
すぐに会うことが出来ないっていうの!?

…飛行機に乗り損ねて1日帰国が遅れた私も悪いケド…。
(でも不可抗力だって!)(くそぅ、ネタだよこんなの!!)


まあいいや。
英二も久しぶりに会いたいしね!
一年ぶりかぁ…変わってるのかな、やっぱ。
年頃の男の子ってやつだしねぇ。
ん、もしかして私も年頃の女の子やつ??
(変わった…のか?)(…自覚なし)



メール。


 > 英二はろりんっ。でする。
 > 明日、何時から平気?
 > 私は一日中おヒマしてます(^^)
 > ミスドとか行きたい〜。
 > ホントはシュウと行こうと思ってたのに、ミスド。
 > くそぅ。日本のドーナツおいしいよなぁ。(関係ない?)
 >
 > んじゃ、バイバイキ――ン☆



一分足らずで返事は来た。

 
 > 了解リョーカイっ☆
 > ドーナツいきましょたべましょう〜♪
 > 1時頃に駅前集合ってことで!



うし、明日の予定は決定、と。
あー。シュウに会えないのか。くそぅー。
(どうせまた高校でも重役回されてるに違いない)
(そして英二はまたジャンケンに勝ったに違いない…)


いつ会えるんだろっ。
椅子の上に体育座りとかしてみた。

…ま、いっか。そのうちそのうち!


そう思いながら、今日は寝ることにした。
押入れから布団を引っ張り出して、狭い空間に布団を敷いて。

これから1ヶ月と1週間宜しく、そんな心構えで。






  **






翌日。
部屋の掃除をしたりぐうたらしたりして過ごした私は、
正午の30分過ぎ、家を出発。

ちょっと早過ぎたかなー、とか思いながら。
シュウとの待ち合わせの場合、
向こうが必ず先に居るから早過ぎるってことはありえないんだけど…。


遅刻はしないでよねー、英二。
そう思いながら待ち合わせ先へ向かった。





思ったとおり、待ち合わせ場所には誰も居なかった。
居るといえば居るんだけど、目的の人にあらず。

くそぅ…どこだ、英二。

きょろきょろと見回してみたけど、居ないものは居ない。
壁に寄りかかって、その位置で定着することにした。
ぼーっと空を見上げる。

いい天気だな。
明日も晴れるといいな。
そのまた明日も晴れるといいな。

そうさ私は晴れ女。
冬より夏が好き。
どうせならもっとガンガンに暑くなってしまえ!

3日前まで居た地とは気温が20度近く違うこの地でそう思った。



そして待つこと約5分。
遠くの方に、はるか遠くに赤っぽい茶毛の男を発見。

あ、英二かも。
英二だ。
英二に違いない。

思いっきり手を振ってみようかな。
でも、もしも違った時に痛すぎる…。
というか、本物だったとしても会うのは1年半ぶりなわけで。
なんだか気恥ずかしいぞ?どうしよう。

そんなことを考えてウロウロとしていた。
物陰に隠れてみたり、表れてみたり。
眉を顰めて凝視してみて、本物だと確認して。
それでも向こうはゆっくり歩いてくるものだから、
空いた間がなんだか落ち着かなくてまた隠れてみたり。

そんなことをしているうちに英二参上。


「なーにやってんだよっ」
「あいちゃ」


自販機の後ろに隠れていた私を、英二は見つけた。
私はばつが悪そうに姿を現す。

前は20cm丁度違った身長。
今は、どう?
ちょっと、遠ざかった気がする。
だけどあんまり変わってない気もする。

…久しぶりっ。


「英二、全然変わってない!」
「うるさい、そっちこそ人のこと言えないくせに!」
「変わってなーい変わってなーい!」


ケラケラと笑い合った。
昨日美容院に言ったんだぞーと前髪を引っ張る英二を見て、
ああ、変わってないや、と更に思った。

「ま、いいや。ドーナツ行こー」
「おぅ」

歩き出して、5歩目ぐらいで私は後ろを振り返った。
だって、英二がついてこな…来てた。

「…なに?」
「ごめん、なんでもない」

また正面を向いて歩き出す。
英二の足音は斜め後ろからずっち聞こえていた。

真横を歩こうとしない英二は、
ポケットに手を入れて歩いている。

外見とか、そういう問題じゃなくて。
…表面的なことはそんなじゃなくとも、
ちょっとずつ変わってきてるのかな、なんて。

自分も変わったつもりもないけど、
実は、気付かないほどちょっとずつで。
自分でも。自分だから?気付かない。
そんな微かな変化を遂げているのかもしれない。

そういえば英二、猫語消えたよね。笑。
なんだか中学校の頃が懐かしくなった。
こんな大の男がにゃんにゃん言ってたと思うと
面白いを通り越して気持ち悪い気さえする。
だけどそれを許せたのも英二の性格ゆえだったのかなー、なんて。


駅から徒歩30秒のドーナツショップに到着。
直訳:「ドーナツさん。」と、店名はどうでもいい。

やっぱり品揃えが違う!!
一人で大興奮しながら、私は食べきれもしないような量のドーナツを買った。
、太るぞー?って言われたから、もう太ってるから大丈夫、って返した。
なるほどって言って英二は笑ってた。私たちってそんな関係。

結局食べきれなくてお持ち帰り決定したんだけど、それは別の話。


フルーツで出来た期間限定のドーナツを食べながら、私はぽつりと呟く。

「はー…シュウと来るはずだったのに」

水を飲んでいた英二は、一気にゴクリゴクリと飲み干すと、
カンとプラスチックで出来たコップを机に強めに置いた。

「オレじゃ役不足ってことかよ!」
「そういうことだけどー」

はぁ、とあからさまに溜息を吐いてやった。
英二は何も言い返せずに黙ってた。
顰めている眉が虚しいですよ、キミ。

「まあ、それは冗談だけどさ、シュウってどうしてああも忙しいのかねー」
「あー、アイツ今年も学級委員やってるぞ。
 しかも来年度の生徒会も先生にメッチャ勧められてる」
「やっぱりねー…」

シュウ、胃痛で死んだりしないでよ?
イッツ胃痛なんていうつまらんギャグを言っても許されるのは私だけよ?

「そういえばさ、オレたち5年目にして初めて同じクラスになったんだぜー」
「え、ホント?」
「そーそー。部活では相変わらず黄金ペアやってるし」

今は先輩たち優先だけどもうすぐD1だ!
そういって英二は楽しそうに笑った。

他にも、相も変わらずシュウは成績がいいだとか、
最近になって塾にも行き始めただとか、
勉強の時だけ眼鏡掛けるかもって言ってるってこととか、
ついこの間よそ見してて電柱に思いっきりぶつかったことだとか。

色々聞いた。
私が知らないようなこと、沢山。
ホントに微かなことだったりするんだけど、
その微かな違いが、私には、とっても悔しかったりしたわけです。

「あー、それからねー…と、これは黙っておくか」
「ん?なにそれ」
「まーまー。会ってみてのお楽しみ。って、大石と
 去年の春以来会ってないんだろ?写真とかは?」
「いや、なんにも…」
「そっか。じゃあ驚くぜー」

にしし、と英二は悪戯に笑った。
なんだ…気になるではないか。

もしかして、身長2m!?
そんなまさかまさか…。
ピアス?なんかやだ!
だけどそれほど驚くことじゃないよねぇ…。
あ、金髪に染めたとか!
あのカリスマカットでまさかねぇ…。

まあいいや。会ってみてのお楽しみだ。

「楽しみにしておく」
「うん。あー、がどんな反応するか楽しみ!」

そういって英二はやっぱり笑ってた。
なんだか腑に落ちなかったけど、
シュウとは二人きりで会うから英二は反応見れないよー、
とか、妙な独占欲で独り占めしてみたりとか。

良くわかんない。


ドーナツを食べるのはオマケという感じで、
御冷を何倍もお代わりするという図々しさを見せ付けつつ
私たちはひたすらに話し続けていた。
お水を無料で飲むことが出来るという、
昔だったら凄く当たり前だったことに感動しつつ、
些細なことで盛り上がりつつ話してた。
思い出話に花が咲いて、近況報告に身を乗り出して。
ああ、私は、どれくらいココを離れていたんだろうって思った。


「…さぁて、そろそろ出るか」
「そうだね。凄ぉい。うちら、水だけで3時間も粘ったよ」

そんなことを話しながら、お店を後にする。
お店側にしてみればさぞかし迷惑な客だっただろうけど。まあいい。

帰り道も同じように会話は大盛り上がりだった。
別れ道で曲がる時は、ちょっと寂しい感じもしたけど、また会えるし。


「それじゃーね。また遊ぼうね!」
「ガッテンでぃ!」


私は手を振って、向こうはガッツポーズを振りかざして。
残りの帰り道、私は軽い足取りで家まで走って帰った。







その後の毎日は、カルチャーショックを受けまくりの日々。

スーパーに買い物に行くだけでも、
物が珍しくて妙なほどキョロキョロしてみたり。
新発売でもないお菓子を手にとっては
「今時はこんなものもあるんだねぇ〜…」とか
老人のような独り言を呟いてみたり。(変な人だ)

洋服を見てみようものならば、
サイズが合うことに驚いてみる始末。
そうか、これが、普通だったんだ、って何度も感じた。

ただし、飲食店では、ちょっぴりケチられた気になる。笑。
(量が少ないよ!高いくせに!!)(お水がタダだから許す)






そうこうしているうちに、日本に来て二回目の日曜日がやってこようとしていた。
といっても、前は到着したのがその日だったから、
ちゃんとした休日としては初めてだ。

その前日、土曜日の夕方に、メールが迷い込んできた。


 > 、もう日本の生活には慣れたかな。
 > 全然連絡出来なくてごめん。
 > 明日は部活が午前中で終わるんだけど、
 > そっちは午後空いてるか?
 > もしできたらどこかで会いたいと思ってる。
 > どうかな?



 キ タ ――――――――― !


勿論ですよモチのロンですよ!
私をなんだと思ってるのかねキミ!?
そう思いながら、凄い勢いでキーボードを叩いてメールを送信した。

帰国一週間にして漸く念願の大石秀一郎様々とのご対面ですよ。
ああ、なんか、嫌かも、なんつって。
なんていうか、ここまで会わないと、
会うのが楽しみすぎて勿体無い…。


無事、明日会えることが正式に決定いたした。
ああ、どうしよう。
楽しみすぎてそわそわしちゃう。
何着てこー何着てこー。
この前買った服着てっちゃおうか。
ちょっと露出度高め?いや、普通か。
普段の私が着込みすぎなんだ、それだ。
気張ってスカートも穿いちゃおうか?
ドイツで買いましたミニのミニよ。
絶対階段上るときパンツ見える。注意せよ。

つまり、あれだ。


  会えますよー!!!






   **






待ち合わせ時間場所に到着。
約束の時刻まであと20分。

何やってるんだろう、自分。
というのはきっと虚しい心配。
だって、目的地に向かえば、
その人は、当然のようにそこに居……?


「ありゃぁ…?」


 居 な い 。


な、なんだこれは!?
21世紀最大の奇跡!
シュウが待ち合わせ時刻の20分前にまだ来ていない!?
ありえん!ありえんありえーん!!

まあ、まだ時間になってないんだから当たり前か。は、ははは…。
それとも、私が時間間違えてるとかないよね。
ていうか場所が違ったらどうしよう…。
シュウが20分前に来てないよりそっちの方が寧ろ可能性高…。


とほ。
なんか、英二が待ち合わせ場所に居なかった時の
30倍以上のダメージが圧し掛かってきたよ…とほほ。


「…なにやってるんだ」
「ふぇ?だって……」


おぁ、なんだこれは。
ついにちょっと離れた位置に立ってたお兄さんが声掛けてきたよ。
ナンパじゃねぇよなナンパじゃないよねお兄さ……が?


「お兄さんっっ?!?!」
「はぁ?」


そこに、居たのは。



 ホンモノ(と書いてシュウと読む)ー!?!?




「うわ、嘘だ、嘘だ、ききき気付かなかったぁ…」
「そこまで言うことないだろう」

眉を顰めるその仕種とか。
上から降り注いでくる声とか。
確かに本物だ。
本物だ。
本物だ…けど。


 反則だー!!!


つまりは、髪型が。変わってて。
イメージ、違う。けど。なんか。
いや、前も、かなり好きだった、けど。
自分の彼氏に今更こんなこと言うのもなんだけど、
カ ッ コ よ す ぎ る ん だ よ !

そうか、英二が言ってたのって、これのことか!
そうだよ、なんで思いつかなかったんだ!
金髪になってるとかありえんようなこと思いついてたくせに!
なんでこんな普通なこと気付かなかったんだ!


「何その髪型!カッチョ!ヤバイ、抱き付きたい!!」
「ちょ、ちょっと!人前でそんな…っ」


そんな私はセリフだけにあらず、そのまま本当に抱き付いていたり。
温かい。…本物だ。

泣きそうになった。
そのまましがみ付いてた。
シュウは離そうとしなかった。
そっとそのまま引き寄せてくれた。


丸々1分ぐらい経ってから、漸く体を離した。
0.5秒ほど見詰め合うと、えへへと表情を崩した。

「驚いたー。ごめん、一瞬気付かなかったよホント…」
「いや、それはもういいけど」
「あたしは?エヘヘ、あたしは全然変わってないでしょー」

もうちょっと髪伸びてたんだけどねー。
つい3日前ぐらいに切っちゃって
中学の頃と同じぐらいの長さになっちゃったし。

「変わったような、変わってないような…」
「もう、はっきり変わってないっていえばいいのに」
「いや、そうじゃなくて、なんていうか」

シュウは、真っ直ぐと私を見てくる。
それはもう、視線がちょっと痛いくらいに。
だけど逸らすことは許されないような、
奥を覗き込んでくるような澄んだ瞳。

目を合わせたままで居ると、
左側から手が伸びてきて、私の頬に触れた。
そのまま、10秒間停止。


―――――……。


な、なんですか、この沈黙は。
オマケに、中途半端にそっと触れたこの手が、
なんていうか、なんといいますか…。


「―――…っ!ごめん!!」
「え?いやいやいやいや…」

我に返ったらしいシュウは、バッと手を離した。
同じく現実に引き戻された私も凄い勢いで意味も分からずに否定しちゃうし。


てか、なんだ?今のわ。わわわ。…何今の!?
頬に手なんて当てちゃったりして!?恥ず、ハズ!!
てか、何?今、チューする気だった?うわっ!そりゃあさ、
一年半以上ぶりの再開だったりするわけだけど、てか、ん?
うちらってキスしたことってほんの2回くらいしかなかったり?
パインアイスとその直後とあとイチゴ、ん、シュウって間接キス好き!?
いや、これは直接…。てかてか、そういう問題じゃなくて、なんか照れるー!!


「…どっか入ろうか」
「へぃ」


私が脳内で葛藤していることも知らずに、
シュウはあっさりとそんなことを言った。
といっても、向こうも内心随分焦ってる様子だった。
私も、かなり緊張してたりして。





入った喫茶店は、2年前に入ったあのお店と同じで。
相変わらずのオシャレな雰囲気と可愛らしさの中に、
懐かしさを感じて胸が一杯になった。

メニューに目を落としたら、
相変わらずピーチパイが当店のお勧めで、
半年前のことをふと思い出しつつ、私は、それを頼んだ。

「それから、アイスココア一つ」
「かしこまりました」

ほら、夏だし。
そうしたらシュウもアイスコーヒーを頼んでて。
営業スマイルだとは思うんだケド、店員さんも笑顔で。

そんな些細なことが、嬉しかった。



「「……」」



しかしなんだ、この沈黙は!?
念願のシュウじゃねぇのか、えぇ!?
向こうも念願のちゃんじゃないの、え、違うって?

まあさておき。
な、ななななんか、言葉が出てこないっ!


一言喋り始めれば多分マシンガンを通り越して
バズーカ砲並に喋りつづけると思うんだけど!
一言目が、一言目がないよ!プリーズ!ビッテ!!

こうなったら…向こうが喋り出すまでダンマリを決め込んでやる。よし。
変なところで意地っ張りっぷり発動。
いや、私意地っ張りじゃないけど。と認めない辺りが意地っ張り。


と、私が頑張っているとシュウが一言。



「…久しぶりだな」



な、なななな!

……なんだよ今更…。カッコ沈み。



でも、きっとシュウも、今、私と同じぐらい緊張してて、
それでも気まずさを作っちゃいけないって思って、
必死に色々考えた末に辿り着いた一言なんだと思う。
…必死に考えてそれかよ、って気もしないでもないけど。


「そんなところがスキ」
「…は?」
「なーんでもないっ!ね、ところでさ…」



  バ ズ ー カ 砲  発 射 ! !



それ以降、私は留まることなく喋り続けた。
店員さんがドリンクとパイを持ってきたことも構わず、
シュウの背中の後ろに見えた他のお客さんが
こっちを振り返ったことも素晴らしく黙殺して、
何があったとかそっちはどうだとか、
今度は相手が止めに入るまで喋くり咬ますぞって勢いで。


「…で、さ」
「ん?」


話が一段落ついたところで。
(少なくとも私の中では)



「…久しぶりだねっ!」



シュウは口を開けて固まってた。
暫くすると、くくっと笑って、
「そんなところがいいよな、は」と言った。

私も笑った。





腹ごしらえもすまし、人見知りも解け、私たちはお店を出た。
(2年半付き合ってる恋人に人見知りはないだろ…)

クーラーの冷気から外に出ると、一気に世間は暑い。
良くこんな猛暑の中やってられるな、と思うと、
斜め後ろぐらいから多分同い年ぐらいの女子高生二人が
「暑いしー。マジやってらんなーい」と愚痴を零しているのが聞こえて
ああ、やっぱり暑いんだな、と思った。

しかし、やってらんないといいつつ人間は生きているのだ。そんなもんだ。
私はというと、夏、好きですけどね。
寒いのよりは暑いの好きヨ。(明日もきっとアツイかな〜♪)


「どこいこっか。ね、プリクラ撮りたい!」
「うん、それじゃあ行こうか」
「あれ?もしかして初プリ?もしかしなくても初プリ?
 キャーぷりっきゅあぷりっきゅあ!!」
「(……?)」


そうか。そういえば初めてだった!!
私ってば今時の若いオナゴとは思えぬほどに
プリクラって撮ったこと少ないんだけど。
(枠付きのなんて結局一回しか撮らなかった!記録!)
それでも女子の友達とは何回も撮りにいったわけよ。
だけど、シュウとは、一回もない!ない!ない!!

だけど、シュウのプリクラは持ってる。
英二とツーショット。この前英二に会ったとき貰った。
シュウのほっぺに渦巻きが書かれてる。ダサさが可愛ぃ。
(とか言っちゃいけないんだろうか…/褒めてるのよ)


ぶらついてたらゲーセン発見。突入。
プリクラコーナーはそれなりに込み合ってて、
だけどその空間一体だけは女性の人口密度高し。
そういえば、入り口に「女性限定コーナー」とか書いてあったことを思い出す。
女性同伴ならば男性も可、とか。そうか。
そう思うと、なんか自分が凄いことしてる気がしてくる。
別に、全然凄くないんだけど。だけど、ちょっとだけ特殊な気分。

しかし、と、あれ……?

「シュウ…?」
「ん?」

シュウは平然を装って振り返ったけど。
ちょっと動揺しているように見える。気のせい?
もしかして、私に気付かれたくないこと気付かれたのではと思って
心の中は右往左往なhin und her gehenなんじゃないですか…?


「ねぇ…なんで英二と二人きりのプリクラがあるワケ?」


見上げる。向こうは視線を逸らす。
おい。ちょっと待たれよその反応!

「なに、何事何事!?君たち何をしたの」
「え、いや、別に…」
「曖昧にはぐらかそうったって騙されない!吐け!さては女装でもしたな!?」

そこまで問い詰めると、周りの人たちがこっちを見てきた。
しまった。やりすぎだ。
これではシュウも言い出しにくいってもんだろう。

「…言うから、静かにしてくれ、な?」
「はい…ゴメンナサイ」

思わず謝る声まで小さくなって、何やってるんだろ自分っていうそんな気分。

だけど、こんなこと言われたら、
大きな声出さずにはいられないってもんでしょ?

すると、シュウは小声で言う。

「近くに居た女の子捕まえて…」
「ナンパかー!!!」

シュウめ、ちょっとカッチョな髪型になったからって、
そんな軟派な男になってしまっただなんて、
お母さんは許しませんよ!(←誰?)

「いや、そうじゃなくて…ってそうなんだけど」
「うわー!やっぱそうなんだ!最悪!」
「本当になんでもないんだよ…。俺も嫌だって言ったんだけど、
 英二が、「入り口を通るまで一緒に居てもらうだけだから!」って…」

…なるほど。
英二…やるねぇ、アイツも。

「まあ、マジモンの彼女と入るのは初ってわけだ」
「そういうこと」

満足。
…単純だな、私。

「それじゃあ撮ろう。うわー、新機種多過ぎ!何がなんだか分からんー」
「俺も全然分からないよ」
「じゃあ、一番空いてるのでいいや。ここ!」

空いてるってことは、人気ないってことで
即ち機能低いってことじゃないですか…?
と、まあそれはさておこう。撮れればどうでもいい。

ボタン連打。
もういいよ、全部機械のオススメで。
それぼっちんぼっちんぼっちん。
そりゃ、自動で連続撮影だ!どんとこい!


「ほら、シュウもっと真ん中寄って!」
「え、こっち?」
「ぎゃーくだよ!カメラなんだから左右対称なの!」
「苦手なんだよ…」

パシャ。


「ちょっとシュウ、今画面見てたでしょ!」
「え、違うのか?」
「違うよ!カメラ、ほらここ…うわぁあ!」

パシャ。


「しまった、顔を作る余裕が無かった!次どうしよう!」
「普通でいいんじゃないのか?」
「なんか、なんか面白いこと…変顔!アイ〜ン」
「えっ…」

パシャ。


「げっ、なんでシュウ真顔なの!反則!!」
「そうは言われても…」
「ああうわあ時間がないぃ!」



とか言ってるうちに。



撮影終了。
…楽しかったからいいや。

ラクガキも一人で4枚負担したり。
もう、色々とイッパイイッパイ。


…シュウってば全部同じ顔してる事実に気付いた。マヌケだ。
あーあ、面白いなぁ…。


「そういえばさぁ、一昨年の春、公園で一緒に写真撮ったの憶えてる?」
「ああ、自分達で撮ったやつか?」
「そーそー。あれピンぼけしてるし枠から顔出てるしで最高だったよ」

ケラケラと笑ってみせる。
シュウも、なんとなく嬉しそうだった。

この、“なんとなく”加減が好き。
自然な感じが、大好きなの。


含み笑いをしつつ、ふと通りかかったのはクレーンゲーム。
(って言い方古いの!?UFOキャッチャーの時代なの!?)
といっても、普通に吊り上げる形ではなくて、
挟んで下に引っ張り下ろすという。私は初めて見た。

「あ、プーさんだ。かわいー」
「おっ、実はこれ得意なんだよな」
「シュウが?」
「うん。これだけは、何故かできるんだ…やってみようか」

珍しい。
あのシュウが自ら得意だと言い出した…。
きっと、相当自信があるに違いない。

観察。


まず、100円投入。

…おぉ。

本気で取りやがった!


「はい」
「わー、凄い!100円だよ!わお!!」


プーさん可愛いぬいぐるみ。
シュウに取ってもらえた。
…嬉しい。
早速鞄に付けてみたりして。




その後は、もう少しそこで遊んでた。
私が掬う形のキャッチャーに挑戦して、
400円使ってたった2匹のスライム君しか取れなかったこととか。
(この差は何…100円でぬいぐるみと400円でビー玉もどき2個…)


楽しかったからいいや。そんなひと時。




「あ、おいしそう」


自動販売機でアイスを売ってた。
へー凄い。って普通か。だけどなんとなく凄い。

「食べたいのか?」
「んー…いいや」

多分、シュウは食べないし。
私だけ食べるってのも、なんかねぇ。

うん、いいや。


「で、何味がいいんだ?」


財布を構えたシュウが、笑顔だったもんだから。
「…ワッフルコーン」と思わず答えてしまった。

食べないどころか奢らせてしまった。何故。

「おいしい?」と訊かれて、
「おいしい。」と答えたら、
「それは良かった」って言ってたから。

良いや。




ゲーセンを後にする。
夏の日差しが眩しい。


「ほか、どこ行こうか」
「んー…あ、本屋行きたい」


メッチャ私情だ。笑。
…これってデート?
まあ、いいじゃん。

二人で居るだけで、なんとなく、楽しいんだよ。
ぼーっと立ち読みしてるのでも。
隣に立つこの人は、真面目な顔して読んでるんだろうってチラ見するのも。
その横で私は漫画を立ち読みして笑いを堪えてることも。

全部全部楽しい。なんでだろ。



好き。だから。だよね。




、何か買うのか?」
「いや、ごめん立ち読み目当て」
「そろそろ出ないか、もう結構な時間だぞ」
「あ、そうですね」


時計を見ると、6時を回ってた。
一体どれくらいここに居たんだろうと思いつつ。

げ、届かねぇ。
ギリギリで取り出した本が棚に戻らないことに苦悩していると、
後ろから、ひょいと、助けてくれちゃったりして。

この嬉しい身長差がズルイ。


「帰ろう」
「うん」


本屋デートをするカップルなんて普通は居ないわけで、
手を繋いで、何も買わずにお店を出て行く私たちは
相当浮いた存在だったと思う。
だけどレジの店員さんも含め、誰も注目してなかった。

太陽がだんだん低くなってきてる。日本の夏は短い。
それでも、冬に比べれば、日は延びているはず。
冬の一番星が、春の夕陽と比例しているように。


「シュウ、そういえばさ、あたし身長伸びたんだよ」

さっき届かなくって苦労してた人間のセリフじゃないけどさ。
それでも、前よりは伸びたんだって。1cmだけど。

「へぇ、実は俺もこの前測ったら中学の頃から比べて3cm伸びてて…」
「げ、さんせんちっ!?」

何それ!
私は、ちょっとでも近付きたくて。
155cmになってもまだ20cm差だけどねアハハとか言ってて。
あの、やっと、153cmになったんですけど…。

「で、はどれくらい伸びたんだ?」
「きかないで…」

デリカシーのない輩め。くそぅ。

…いいなぁ。まだ伸びてるんだ。
ちょっとは分けてくれ。無理をいえ。笑。



そんなわけの分からない話をしているうちに、家に着いた。
また会えるって嬉しいなぁと同時に、
別れるのが寂しくって寂しくって。
早く明日にならないかなぁと早くも思った。
日が経てば経つほど、次に会えるチャンスに繋がるから。

「それじゃあな」
「うん、またね」

私は手を振って、微笑む。
シュウはまた微笑み返してきて歩き出す。

その背中を暫く見送ってから、私は家の中に入る。


あと何回、会えるだろう。

突然心配になってしまった。






   **






友達と遊んだり。
友達と遊んだり。
友達と遊んだり。


そんなことをしているうちに、
月日というのはあっという間に過ぎてしまうものだ。
この前、あと何回会えるかなんて心配していた私が、
今度はいつ会える?という質問に対して、
スケジュール詰まり過ぎで暫くはムリ、とか言い出す始末。

シュウは、大事だし、大きい存在だけど、
それ一つに捕らわれてるわけにも、いかないんだって。


友達にも会いたいもん。

だけど。


やっぱ会いたい。



こういうの、わがままって言うんだね。








そうこうしているうちに、この日がやってくる。
私が、日本を飛び立った日。


その日は私も予定が空けてあって、
だけど何故かシュウに訊けなくて、
そしたら向こうから電話が来て、
私はシュウの家に泊まることになって。


色々とあった一日だった。
沢山考えた一晩だった。

とりあえず、今日も私はアタシのままで居る。





その日の午後はと遊んだ。
大好きで大切な友達。

久しぶりに会って、お互い緊張しているようで、
不自然な感じはどこにもなかった。

中学校2年生以来…つまり3年ぶりに行ったの家は、
自分の家より広いとはいえ前に行った時より小さく感じた。
大きくなっていないようで、あの頃より自分は成長してるって話だ。

大荷物な私に疑問を持っていた様子なので、
シュウの家から直接来た、ということを説明してやった。

もしかしてやっちゃった!?とかカタカナ変換で訊いてくるもんだから、
ううん、処女を失うどころか乙女になって帰ってきた、と言ってやった。
私は何も悪くない(多分)のに、怒られてしまった。(なんで…)


だけど、あんたたちらしいわ、だって。
そんなもんかねぇ、と思いつつ。

ノリで、そのままの家に泊まった。
色んなことを話した。楽しかった。



人って、友達より彼氏を優先しちゃうようになるのかな、
って、向こうの学校の友達がぽつりと呟いてたけど。
みんなみんな大切で、誰が一番とか、やっぱり決めたくないと思った。

大好き。



翌日帰るとき、変な気持ちだった。
スケジュールとか見て、会うのは最後だって分かってた。

手を振ったよ。向こうも振り返してくれた。
私は暫く歩いて、もうは家の中に入っただろう頃に振り向いたよ。
やっぱり、もうそこにはいなかった。安心して私は歩いた。
だけどやっぱり涙はまだ出そうだった。


また絶対に会おうね。約束だよ。






そのまた次の日は、長野から来た友達に会ったりして。
ひょんなことから知り合った私たちだけど、
かなり話が合うし、とってもとっても楽しかった!


そういえばね、二人でアイスを食べたの。
某アイスクリームショップで、
ダブルの値段でトリプルアイスになるというキャンペーンをやってて。
安いっていうのもそうだけど、
日本でトリプルなんて結構珍しい!?ってことで挑戦!
(ドイツでは最高5段まで見たことあるなんて言えませ…)
(アメリカでも普通だったよなあ、3段なんて…)

…シュウだったら、絶対3段重ねなんてしないんだろうな。
どうせ1段なんだ。あんにゃろう。笑。
しかも、折角色々なフレイバーがあるのに、バニラととか頼むんだ。
だけど、普通過ぎてここのお店にはバニラがなかったりする。爆笑。
そうしたらシュウは何を頼むだろう。チョコミント辺りが妥当かな。
そもそも、コーンじゃなくてカップとかで食べてそうだよ。うわー。
てかてか、シュウはアイスなんて滅多に食べないよねぇ…。
そのくせ私が食べるところを見ては、楽しそうにしてるんだ。変なの。

だけど……これって愛?(輝き)


そのあと私たちは、カラオケでは8時間近く歌うという暴挙も成し遂げた。
なんか、自分凄いことしてるよ!と思った。
ドイツじゃこんなことできないよな、って、
当たり前のことなんだけど、重く感じてしまった。



ところで、その夜。

プーさんが消えた!


ほら、あれよ!シュウが取ってくれたアレよ!
可愛くて…何より取ってもらえたことが嬉しくて。
大切にするって決めたのに!
なのに行方不明!捜索願いだよ!!!

友達を見送った後、私は夜の町に逆戻りした。
一人で歩いているとなんか不安で、
きょろきょろしながらもと来た道を戻った。

夕食を食べたときはまだ持ってた。
だから、有るとしたら、範囲は限られてる。


でも……見つからなかった。


ちょっと悲しかったけど、諦めて帰るしかない。
私は3度目となるその道を進んでいく。

と。



「あれ……?」
「ん、シュウ!?」


なんと。
駅でシュウに遭遇。
どんなタイミングだ…。


「偶然だな。一人か?」
「ん、さっきまでもう一人居たんだけど」
「そうか。一緒に帰るか?」
「うんっ…」


元気よく答えたつもりだけど、自分の声に切れが無い。
シュウは、鋭くもそれを察してきた。

「どうした、元気無いな」
「うん。あのね……実はね」

ダメ。
ダメよ
ここで負けてはダメなのよ…!

と思うのに涙滲んだ。


「シュウに取ってもらったプーさん落としちゃったぁ…」


言葉に出すと、余計鮮明になってきて。
更に涙が零れそうになる。
だけど頑張って耐えた。

シュウは、「ああ、この前のあれのことか…」とか言って、
あんまり重要視していない様子。

そっちにとっては大したことじゃないのかもしれない。
だけどね、今の私に取ってはね、
失くしてしまったことが悲しい、というより、怖くて。



「居なくなっちゃヤダ…」



後から考えると、そのときの私は相当パニクっていただけなんだけど。
誰に宛てているのかも分からないその言葉は、
なくしてしまったぬいぐるみと、
それをくれた存在とを、きっと掛けていて。

混乱により吐き出された言葉も、向こうは理解してくれる。
肩を引き寄せると、

「俺はここに居るからな」

と言った。

そんなの分かってるよ、と突っ込みたいところだけど、
その言葉こそ、そのときの私には一番掛けて欲しい言葉で。
安心して。だけどどこか心配で。

肩を掴む大きな手の感触を常に意識しながら、
ずっと傍に居てね。ずっと傍に居てねって。心の中で繰り返してた。


さようなら、プーさん。







その後は、家族での用事とかも多くて、
会える回数も限られてきた。


あと、2回か3回。
それで、今年の夏も終わり。





そんな時、とある物を発見。

盆踊り大会。

街のいたるところに張り紙が出されている。
ここまで宣伝されると、行かないわけにはいかない。
(というか、ただ単に行きたいだけ)


シュウをメールで誘って、一緒に行くことになった。




「なにこれ、出店少ない」
「盆踊り大会だからな。そっちがメインなんだよ」
「えーヒドイヒドイー。磯辺焼食べたかったのにぃ」

無論金魚掬いも無いよ。くそぅ。
わたあめは長蛇の列だし。並ぶ気にもならん。

つまり、することなし!がいん。

「何しにきたんだろ…」
「踊らないのか?」
「だってわからないもん」

そんなことを話している、と。


「あ、先輩!」
「およ?」


おぉ。
そこに居たのはバレー部後輩。

「ああ、懐かしいね。久しぶり!」
「もしかして2年ぶりってやつですか?」
「そーそー」

後輩に見下げられる悲しいサガ。
だけど、嬉しいなぁ。久しぶり!
お祭りも来てみる物だね。

今度は反対側から。

「あ、ちゃん。大石くんも一緒〜!」
「わああ、凄い!3年2組オールスターズ!!」

といっても4人だけですが。笑。
懐かしのクラスメイトが終結した。
嬉しいなー楽しいなー。

「凄いねー。遠距離で続いてるんだ」
「ふふん、まあね」
「ねえねえドイツってどんな感じ?」

久しぶりにあったメンバーで、会話に華が咲く。
女子の会話には加われず、シュウは一歩後ろで話を聞いてた。

「ね、折角会ったんだから一緒に回らない?」
「あー、そうだね。んー…」

久しぶり。
滅多に会えない。
そんな友達と会ったのだ。

だけど。

こっちも同じだ。


「ごめん。今日は二人で回るわ」
「そう?ラブラブだもんねー。分かった。バイバーイ」
「また遊ぼうねー」


手を振って、別れた。
シュウは、「いいのか?」と訊いてきた。
本当に心配性の気配りさんだよね、シュウって。

「全然いいの。こっちの方が大切。今日は二人で来たんだもん!」
「……そうか」

シュウは、苦笑いのようで、
だけどちょっとだけ嬉しそうに、笑った。

なんだかんだいって寂しいんだよネ。私も、きっと向こうも。


「ところでさ、好みの出店がない。そしてドーナツ食べたい」
「え、じゃあ…食べに行くか?」
「そう来なくっちゃね!」


いざさらば日本の風物詩。
やぐらの上で太鼓が鳴り響いているのをBGMに
(ちなみに、太鼓を叩いていたのはバレー部の先輩だった!)、
私たちはそこから徒歩1分のドーナツショップへ向かうわけです。

そういえば。ずっと来たかったんだよね。


「やっと念願だよ。シュウと一緒にドーナツ〜♪」
「そういえば、帰ってきた翌日に来ようとか行ってたよな」
「そうそう。その日までセールやってたの。
 だけど飛行機乗り損ねるなんてギャグだよーもう」

そんなことを話しながらの偏った夕食は、
色々なことを話して楽しくって、
お祭りの存在なんて忘れてて。



だけどふと、とある歌を思い出した。

はしゃいで金魚掬いをやったり。
綿菓子を買って食べたり。
いつの間にか別々に行動してたり。

ドーナツやでお腹を満たしている自分たちを見て、
一体何をやってるんだろうと思ったけど。


これが現実なんです。


「それじゃあ、またね」
「ああ、またな」


一言、付け加えたくなって

「シュウ…好きだよ」

って言った。

向こうは驚いた表情になって、
だけどすぐに柔らかい笑みに変えて、

「俺もだよ」

って言った。



満足。

これが私流、サマーフェスティバル。






  **






時はまた流れて、気付けば渡独前日。
毎回この日は、ドタバタしていて。
その都度、淋しさと、愛しさを、体感する。


自分の荷造りを追えた私は、
安らぎを求めてふらりと立ち寄る。
大石家。

ドアチャイムを鳴らすと、出てきたのはシュウだった。
別段驚いた様子はなくて、にこっと笑うと
「いらっしゃい」と言った。
だから私もにこりと笑顔を返した。
どれほど上手くいっていたかは、分からないけど。

「…訊かないの?」
「え、何をだ」
「どうして突然やってきたか」

こっちから逆に訊いてみると、
シュウは一瞬天井を仰いでから、
「何か特別な理由があるのか?」と。

私は首を横に振る。
だって、なんとなく一緒に居たかっただけだから。

の突拍子な行動には慣れたよ」

そういってシュウはハハハと笑った。
いつもならそれを見て私は、
一緒に笑うとか、怒るとか。
…どんな反応してたっけ?

「予定、空いてたの?」
「ん、前日だし、空けておいたほうがいいかなって」

…優しい。
それなのに、向こうから連絡してこない辺りが、
私がもしかしたら荷造りで忙しいかもとか考えて、
もっと構ってよとかも思うんだけど、ダイスキ。


「シュウ、行こ」


私は立ち上がる。
シュウは一瞬返事をしない。
だけどすぐに「ああ、分かった」とついてきた。

どこに行くつもりか分かってたのか、
ただ単についてきただけか、知らない。
だけど財布も持たずに出てきたその様子を見ると、
きっと分かっていたんだと思う。

心配性で神経質で用心深いシュウが、珍しいね。
あそこの場所は、きっと、数少ない安らぎの場所なんだ。


「ねぇ、ここに来るの何回目か憶えてる?」
「んー…さあ?」


夢で見たのとは少し違う反応。
だけど、こんなのもたまにはいいよね。


「二人一緒に来たのは、これで9回目」


一言短く「へぇ」と返してきて、
ただ単にそれだけだった。
予想外に素っ気無い感じもしたけど、
そんなに沢山来たんだ、とも、
それしか来てないんだ、とも、
つまりは適度ってそういう話なのかもしれない。

満足。


だけどヤダ。


「ここに来ると、お別れって感じする」


シュウがこっちを見てきたのが分かった。
別に視線を感じたとかじゃなくて、
いつもそうだから、きっとそうかなって。
保証は無い。私も下を向いたままで確証も無い。

なんでだろうね。
過去に、お別れの前日に来たのは、たったの2回なのに。
あとの6回は、楽しい思い出作りなだけだったのに。


高く高くに見える太陽が
向こうの世界では地平線より下にあるのかと思うと
同じ世界なのに遠くて遠くて

どうしようもないよ。


私、ここに居たい。
ここが好きなんだ。
“アナタが居る”ここがスキ。


「私、やっぱり日本が好き」
…」


日本が好きなの?

それともここが好きなの?



「離れたく、ない…っ!」




思いっきり抱き締められて。
好きなのは、やっぱりココなのかもしれないと思った。


アナタの近くに居られて
アナタとたまにでも会えて
アナタともしかしたら毎日話せて
アナタに抱き締めてもらえて
アナタが。

好きです。



「早く…早くドイツに帰らなきゃ」

上から降ってくる声は無い。


そうだよ。
私って、そういう人間だからさ。
自分が居る環境を一番愛せるっていう、
そんな得した性格を持つ人間。

ドイツに居る時は、ドイツの方が好きで。
日本に帰りたいなって、たまーに、ホントにたまに、
例えば淋しい時とかに、思うけど。
だけどそれはほんの極稀で。

それでもやっぱり私、日本の方が好きなんだ。
向こうに比べたら、空気が悪かったり
切羽詰ったような雰囲気漂ってたり
物価が高かったり環境に優しくなかったり
野生の動物にも滅多に遇えなかったりするけど。
アナタに逢えたりするけど?

ドイツに居るときは、ドイツの方が好き。
日本に居るときは、日本の方が好き。

だから。


「早く帰らないと…嫌いになる。ドイツのこと嫌いになっちゃう」


涙が。



「嫌いになる前に、早くしなきゃ…向こうに戻ったら、きっと好きに…っ!」



あまりに悲しすぎて悔しすぎてやるせなくて。
何度もシュウの胸を殴りそうになった。
だけどそんなことしたら痛いだろうなって。
もっと、強く、強く、抱き締めた。

向こうは抱き返してこないで、
頬にそっと手を当ててきて、
もっと涙が出た。

涙を掬う人差し指が嬉しくて。


夏のアツさと、胸のアツさに、今の私がそのまま見える気がした。




「大丈夫。放っておいてもすぐに帰ることになるから」

だろ?と。


そう言われて、虚を突かれた気がして、
私はやっと安心できた。


帰ろう。
早く帰ろう。
アナタが居ない街へ。
きっとそこも好きになれるはず。

そうだね。きっと、大丈夫だね。



「うん。明日帰るよ」
「だよな」


あれ。
私たち何話してたんだっけ…笑。
どうでもよくなっちゃった!


「あのさ、シュウ…」
「ん、ちょっとごめん」




ああ、ケータイか…。
ポケットから取り出したそれは、
光を発しながらブルブルと震えていた。
さてはシュウめ、常にマナーモードで
着メロも何もなかったりするだろ。コノヤロウ。

…好き、だな。


「え、本当に!?分かった、すぐ帰るよ」


……お?

ピッと通話を終了させたシュウはこっちを見る。


「ごめん、。なんか突然うちに親戚が来たみたいで…」
「あら。それじゃあ帰らなきゃ」
「そういうことなんだ…ごめんな、本当に」
「だーいじょびだって」

機嫌の良い私はそう応えた。
だけど冷静に考えたら、次会えるのはいつ?


無言で歩く帰り道。
無言なのに、息苦しくないのも不思議。
前だったら、お話しようって一生懸命だったのに。


 コトバなんて要らないよ。

 ただ、その腕でダキシメテ。



それでもひとつだけ、確認したいこと。
これは、アナタに対しての、挑戦状。


「ところで突然だけどね」
「うん」

突然ってことが最早普通だよ、と自分で思いつつ。

「去年、最後に私たちが交わした言葉、何か覚えてる?」
「いや…さすがに憶えてないな」
「だろうね」

やっぱり、それほどまで意識してたのは私だけかな。
だけど逆に言えば、向こうは自然とその言葉を発してくれたってことで。
どちらにしろ嬉しいのかもしれない。

苦笑交じりの微笑。
あの時のシュウの笑顔は、もっと晴れやかだったかな。


「『また今度』って言ったんだよ」
「…そう、だったかな」
「うん」


知ってる、シュウ。
私がどれだけ、
アナタの一言一言に助けられてるか。
一つ一つの仕種に愛しさ感じてるか。

今もほら、そうだったかなって、
必死に思い起こそうとしながら、
照れてるような困ってるような、
口元に手を持っていくその癖とか、
顔は背けないけど視線だけ逸らしたり、

たった一言。たった一つの動作でも。


こんなにも、私は、今。



「何気ない一言だったけど、嬉しかったんだよ?」



シュウは、口元に当てていた手を外して、
ちょっと恥ずかしそうに目を合わせながら、
優しい笑顔で、「ありがとう」と言った。

それはこっちのセリフだよ、と思いつつも、
「どういたしまして」なんて返しちゃう私は、
どれだけこの人のことが好きなんだろう。


ありがとうありがとう。だいすき。





いつの間にやら別れ道へ辿り着く。


シュウは眉を顰めると、申し訳無さそうに言う。

「ごめんな、本当なら家まで送って行きたいんだけど…」
「ううん、全然平気だって」

シュウはもう一度眉を顰めた。
そんな顔、しないで、よ。
言い出しにくいじゃんか。

「でさ、最後に話があるんだけど…」
「うん…」

暗い雰囲気だ。どうしよう。
だけどこれを打破しなきゃいけない。

これからやってくる長い日々を思えば、こんな一瞬。


「多分ね、あたし…来年は日本に帰ってこない」
「そう…なのか?」
「うん。多分、次は本帰国の時。だから…」


二年後ってこと。

言おうと思って、喉が詰まった。



二年。あと二年も会えないんだ。
初めは半年、次は1年と3ヶ月、今度は2年。

だんだん遠ざかっていくよ。
もっと、会いたいのに。
もっと一緒に居たいのに。


ダメだ。
もう無理。

私は顔を下ろす。


「じゃあね」って言った声、しゃがれてるみたいな変な声。
手を弱々しく振って、私はその場を後にして走り出す。


だけどすぐに後ろから




っ!」


「!」




呼び止められた。



シュウは、居た堪れない表情をして、
一瞬顔を逸らして…。
こっちに視線を戻すと、



「…またな!」



って。


私はもう声が出せなくって。
首を縦に思いっきり振って、家まで走った。

急な坂道上って。
夕日が正面に見える十字路を左に曲がって。
見慣れたこの町の見慣れない姿の中を、
ずっと走って、走って、走って。
家に着く頃には、全てが涸れていた。



シュウのバカ。

無理していったでしょ、さっきの言葉。





 『――――何気ない一言だったけど、嬉しかったんだよ?』








「…ばーか」




なんとなくだけど、笑顔になっちゃった。



日本一バカだよ、シュウは。
ちなみに私は、世界一だから宜しく。

さあ、再び羽ばたくのだ!



「さあ、明日の朝は早いぞー」


独り言で気合を入れると、
手鏡で目と鼻がいつもの色なことを確認して、
玄関の扉を開け放った。
「ただいま!」って、いつもの声で言うために。






  君と居た日々は 今日もまた夢の中。






















大石は私を殺す気ですか!?(色んな意味で)
疲れた。死ぬ。どうして大稲ってこんなに精気を吸うの!?
楽しかったけどその分MPが大量に消費され…げふっ。

どうしてもカバーしきれない部分があった…。
親友さんの家でのお泊りと、旅立ち当日とその後。
ああ、まだまだ続くぜ大稲…!(笑)

色々と書ききれてない部分がありますし、
敢えて書かなかった部分もあります。
隙間を脳内で補充してこそ大稲!
(ってそれが通用するの自分だけじゃん)

文章になってないところ多数。日本語不自由っぷりもこれぞ大稲。


2004/09/28