* 今ここで見えるオレンジ *












「 く や し い ! 」

「分かったから、暴れるのはやめろ」
「ゼーンゼン暴れてないし!!」


言いながら、オレはボコボコとコンテナを殴っていたことに気付いた。
拳の先が、薄汚れてて、ここに来たのはいつ以来だろうと思った。

溜息ついた。幸せ一つ逃げた。


「ばかぁ〜…」
「バカはないだろう、バカは」
「違うの、オレ自身に言ってんの!」

噛み付いた先に見えた表情は、微笑。


「…らしいな」


指についたススとか、遠くに見える夕陽とか、そんな言葉とか。



悔しかった。





ちっくしょ〜…。

ここに座っている自分の存在自体、憎らしくって。
だけど居心地が良いっていうのが、また、悔しくて。



ぽつりと洩らす。


「もうちょっと頑張れたと思わない?」
「……」


返事はない、けど、聞こえた…よな。


「なんで黙ってるのさ」
「…だって」


大石は間を置いて、溜息交じりに言う。


「あれで、精一杯だよ」
「…オーレもっ」


開き直り。
だけど、そういうことなんだ。



あれで精一杯。
手を抜いたつもりはないし、
失敗があったんだったら、
その分だけ実力が足りてなかったってことなんだ。

あそこでああしてたら勝てたのに、じゃなくて、
あそこでああしなかったから、負けたんだ。

選択権はあったんだから。



「それじゃあ、どうすればいいと思う?」



まるで学校の先生が生徒に向けて
無理難題を気軽に投げ掛けてくるような、
そんな口調で大石は訊いてくる。

それぐらい自分で考えろよ、
とは思いつつも口には出さなかった。
だって、絶対大石も考えてるもん。



んー…どうすればいいんだろうな。

考えた末、出した結論。




「もっと頑張らなくちゃ」




これが、オレの答えで、全て。




「でも精一杯だったんだろ?」
「だから、もっと頑張らなくちゃ!」




微妙に矛盾しているような、正当なコタエ。


足りないんだったら、届くように努力しなくちゃ。

今までも頑張ってた。精一杯だった。

だけど、もっと頑張らなくちゃ。


それでダメなら、もっともっと頑張らなくちゃ。




だろ?




「…それでこそって、感じだな」




大石はふっと笑った。
その笑顔を見て、俺も、それでこそだな、って思った。


オレたち、もっと頑張らなくちゃ。



「そのためにはさ、このままじゃいけないと思うんだよ」
「じゃあ、どうしたいんだ」


オレは立ち上がる。

視界には、広い空と高い雲だけ。
割り込んでくる鳥は、翼を伸ばして、遠く、遠く。





「もっと、大きくならなきゃ」





思いっきり両手を広げた。


まるで、蛾が羽の模様で自分を大きく見せてるみたいに。

まるで、小学校の頃教科書で読んだ小さな魚たちのように。




見せ掛けでもいい。もっと大きくならなくちゃ。


いつか、それが本当の強さに変わるから。






もっと頑張って、もっと大きくなって。


出来る限りの精一杯を、もっともっと増やさなきゃ。







「…都大会の後にここで誓ったこと、憶えてる?」
「……もちろん」
「ここにはもう来ないって、そう言ったんだよな」


座りながら、自分で戒めるように復唱する。
大石は何も言わずに、ただ、身動きも取らずに、そこに居る。


「早速約束破っちゃったね」


やっぱり、大石は何も言わなかった。
言葉を捜しているのかもしれない。
だけど、困っている感じはなくて、
笑顔でオレの言葉に耳を傾けている。


「そこでさ、オレ、新しい誓いを立てることに決めた!」
「ん、なんだ」


再び、立ち上がる。

さっきは空に向けて広げていた両手、口元に持ってきて。



遠く遠くの真正面に見える太陽に向けて、でっかい声で叫んだ。












  「全国で優勝したら、また来るぞー!!」













その声が、どこまで届いたか分からない。
あそこに見える高速道路の騒音に掻き消されたかもしれない。
そこまで辿り着いたかも分からない。

だけど、8分前に光っていた太陽が、
今オレの目にオレンジ色を写しているみたいに。
時間がいくらかかったっていいからさ、
今したこの誓いが、太陽に、届いて欲しいんだ。




また、来るからな。




「その方が希望持てると思わない?」
「確かに、そうかもな」


たん、とコンテナから飛び降りたオレ。
大石も後に続いた。


「ここ、居心地良いもんな」



また来よう。

大石はそう言った。



「もちっ!」

「それじゃあ、その日まではお別れだな」




オレ達は、手を大きく振って、その場所を後にした。


今、ここで見える、オレンジ色を目に焼き付けて。






















大菊とコンテナとオレンジ色は切り離せないですよ。
試合も終わったし。負けたし。大石は泣いたし。
というわけで書いてみました。
(泣いたの関係ないけど)(書き始めたの泣く前だし)

テニミュの影響で大菊熱が復活したのも関係する。笑。

原作でも触れるのか、反省会…。
先を越されると気まずいので、あえて挑む形で先に。(笑)
原作でやられると本物とのギャップに衝撃だけど、
やらなかったらそれはそれでショックかも…。
(あの誓いを忘れてるとかないよね、コノミン…!)


2004/08/31