誰でも知ってる大予言。


1999年の7月に、空から恐怖の大魔王がやってくるって。


全てを破滅へ導く、恐ろしい存在。





しかし今、既に先刻の日から5年程が過ぎ去っている。











  * 破滅の大魔王 *












地震、雷、火事、親父。
人が恐れるものを表したそんな言葉はあるけれど。

今の私にとって、今一番怖いのは、
目の前にある一枚の紙なんです……。

「どう、
「待ってね、今封印を解き放つ瞬間よ…!」

そんな大袈裟なことをいいつつ。(半分本気だけど)


そうです。
今の私にとって一番怖いのは…



 返された英語のテストの答案っ!!



鬼門だ…今回はいつもより更に分からなかったし。
なんまいだぶなんまいだぶ…。


ついに半分に折られたその紙を、開いた。
中には……。


「さ、さんじゅうさんてん……っ!」
「おぉ、最低新記録達成おめでとう!!」

横で親友であるに拍手された。
しかし、これって…これって……!


「どうしよう!こんな答案家に持って帰れない!」
「じゃあ焼却炉で燃やしてしまえ」

はカラカラと笑った。
私はぷくーと頬を膨らます。

「いいよね、は頭良くて…どうせ今回も90点以上でしょ」
「まあね。努力の人と呼びなさい」

はあ、凄いなぁ……。
私なんて、努力したってそうはなれないよ。

「くっそー…。みたいのが居るからまた平均点が上がるんだ!このヤロー!!」
「ははっ。そちらこそいつも平均点下げてくれてありがとう」

……もう。
こっちは結構本気で悩んでるのに。

「まあ、30点越えれば補習は逃れたよね、うん」
「ギリギリの綱渡りだねー…」

逆に感心した様子の
あーあ。
そっちは追試どころか平均点も無縁の世界なんだろな。
学年一位とかを争ってるタイプだ。


「ほらみんな、席戻れー」

先生の言葉で、散らばっていたみんなも各々の席に戻る。
友達の次は席が近所の人と点数の見せ合いっ子が始まったりする。

「はい、そこ静かにー!」

先生が声を掛けていくうちに、五月蝿かった話し声も
だんだんと小さくなっていって最後には零になった。

完全に沈黙になると、先生は突然笑顔になった。


「みんな、先生は嬉しいぞ。I'm really glad!」

ああ先生、今日も美しい発音で…。
それに対して私は…ああ、涙が出るよ……。

「今回はみんなが頑張ったから、平均点は高かったぞ!」


    え。


ちょ、ちょっと待って……。
それって先生は嬉しくても、私は……。

「今回の平均点はぁ、78点だ」

えぇー、高ーい!!
などと言う声が教室のあちらこちらから聞こえてくる。
しかし平均が高いってことはみんなもそれだけ高い点を取ってるはずで……。

「平均高かったから、そうだなぁ。いつもなら30点以下が補習なんだけどな」



    え。



それって、なんだか嫌な予感が…。


「今回の補習は、35点以下にするぞ」
「「「えー!?」」」


・・・。

私含むクラスの3名だけが声を上げた。


ああ、バレた。みんなにバレた…。
ってそんなことはどうでもいい。

ついに初の補習、補習……がくぅ↓。


ちゃんついにやっちゃったのー、
などと声が掛かってくる。
ああ、放っておいて……。


すると斜め後ろの席から声が。
桃城くんだ。
あれ、もしかしてお仲間…?

「ちょっと待ってよ先生!」
「In English?」
「えー…プリーズ、えーっと…プリーズ!!」
「はい、桃城は予定通り補習な」
「だから待ってって!!」

クラス中から笑いが巻き起こる。
桃城くんはばつが悪そうに固まっていた。
今度は嘆き始める。

「くっそー。今回はギリギリセーフかと思ったのに!」
「お前何点だったわけ」

後ろの席から池田くんがちょっかいを出した。
桃城くんはいつもの元気をなくした小声で言った。

「…29点」
「全然ダメじゃねぇかよ!!」

また笑いの嵐が巻き起こる。
先生は帳簿をバンバンと教卓に叩きつけた。

「はい、静かになー。今回は満点が三人居たぞ!確かこのクラスにも一人」

ちゃんだ、という声があちらこちらから聞こえる。
否定していないところを見ると本当らしい。

本気ですか、さん……。

それに比べて私は…嗚呼。
ついに補習組の仲間入り……。

「ちなみに学年の最低点…聞きたいか?」
「「聞きたーい」」

クラス中の声が上がる。
先生は咳払いをすると何やら紙を見ながら。

「誰とは言わないけどなー、今回の最低点は………twenty-nine、だ」

数名から笑いが上がった。
少し遅れて大勢が笑い始めた。

え?なんで面白いの?
トゥエンティ、ナイン……。
にじゅう、えっと…ああ!

「ひぃふぅにとお、…それに初めの9足して、ってオレっスか先生!!」

指折り数えていた
桃城くんも漸く気付いたようで凄い顔して立ち上がった。
みんなは更に笑った。

ああ、いいよな、桃城くんって。
面白いし、気さくな感じで。


「はい、静かにー!それじゃあ答え合わせはじめるからなー」


ああ、補習…憂鬱……。でも、
桃城くんと一緒だったら…楽しいかも、なんてね。








終業式も終え、いつの間にやら夏休み。
素敵に夏を満喫するぞー!!

…と思った途端にやってくる補習。


まあ、いいんだ。
今回は桃城くんが一緒だし!

…って、私って桃城くんのこと好きなのかな?


……そうかも。
はっきりとはしないけど。

あんまり話したことは無いけど、見てるだけで楽しいし。
一緒に居たいと思う。
…これって恋なのかなぁ?


「あーあ、マジやってらんねぇ!」

不機嫌そうに桃城くんご来場。
補習開始まであと1分。ぎりぎりセーフです。

「おはよう、桃城くん」
「お、。お前も補習組か!」

…放っておいて。

「お前なんて勉強できそうに見えるのに」
「頑張ったってわかんないものはわかんないの!」

思わず怒った口調。
本気で怒ってるわけじゃないけど。
それは分かっているのか、桃城くんは軽く笑った。

ガラガラと戸が空く。
先生が入ってまいった。

「それじゃー始めるぞー」
「あれ?二人だけ?」

きょろきょろと教室を見回す。
うちのクラスの補習は3人だったはずだけれど…。

桃城くんは不機嫌そうに言った。

「昨日電話が入ったよ。家族旅行でどうしても抜けられないから補習はパス」
「えー!?そんな!!」

ずるいよ!
というよりかはぁ…。


私たち二人だけ?


「とにかく始めるぞ。このプリント3枚、一時間以内に終わらせること」
「げっ、鬼ぃ!」
「どうした桃城、5枚に増やされたいか?」
「いえ、3枚で充分ありがたいっス」

態度がころころと変わる。
なんだか面白くってくすっと笑ってしまった。

紙を配られる。
うへぇ、アイ キャント アンダースタン…。

「相談は有りだけど写すのはなしな。それじゃあ、頑張れよ」

先生は教室から消えた。
うわぁ、本当に二人っきりですが…。

…しかも問題は意味が分からないし。
前途多難……。


「はぁ?意味が分からねぇ」
「だよね…」

まず、問題の意味が分かりませんが先生。
問題文ぐらい日本語で書いて……。

「もう、適当に埋めればいいだろ。な?」
「えー、そんな…」
「俺はとっとと終わらせて部活に行きてぇんだよ」

あー…そっか。
確か桃城くん、テニス部だったよね。
今日もテニス部は活動中なんだ。


「このままじゃどうしようもねぇ…別のクラスの奴に聞きに行こうぜ!」

「っダメ!!」



あ。

凄い勢いで拒否しちゃった!


どうして止めたの?
なんか、折角二人きりなのに…って。思っちゃって…。

目をパチクリしてる桃城くんに、言った。


「…ちゃんと、自分たちだけでやろ?」
「真面目なのなー、お前」


立ち上がりかけた桃城くんはまた腰を椅子に下ろした。

そっちこそ、私よりよっぽど真面目だよ。
だって、私の本当の理由なんてこんな理不尽な…。


「よし、じゃあやるぞ!お、ちゃんと解説が載ってるじゃねぇか」
「ほんとだ」

なになに、現在完了というのは
過去分詞と補助動詞があって…はへぇ??

「かーっ、分かんねぇ!!」
「だね…」

桃城くんは頭を掻き毟った。
私もシャーペンを手から離した。

「こうなったらよ、散々悩んだけどわかんなかったってことにして
 このまま白紙で放置しちまおうぜ」
「そうしよっか」

私もだんだんいい加減になってきました。
だって、説明すらせずに行っちゃう先生が悪いんだよ!?
お蔭で…二人っきりだし。


「お前さー、今年の夏どっか行ったりすんの?」
「んー、多分行かないと思う。そっちは?」
「オレは部活漬けだな」


そう言って頭の後ろに手を組んだ。
椅子を傾けて足をブラブラとさせている。

すると何かに気付いたらしく、「あ」と声を上げた。

「そういえばさ、23日だけどよ」
「それって…明後日?補習の最終日じゃない」

そういえばそうだったっけな、と軽く流しつつ。

「オレの誕生日なんだぜ!」
「そうなんだ、おめでとーってまだだけど」

私が小さく拍手すると、桃城くんは
「プレゼント受け付けてるぜ」と笑って言った。



その日は、本当に雑談だけで終わってしまった。
こんなんでいいのかな、と思いつつ1日目の補習終了。

先生はプリントを集めようとはしなかった。なんていい加減な…。
きっと、他のクラスのみんなもやっていないと思う。
やっていたとしても、明日からはやらないと思う…。



案の定。

翌日、私たちは何もやらなかった。
やってきた3人目の補習の子は、ちゃんとやってたみたい。
その横で、私と桃城くんは喋ってた。


途中からちょっとはやることにして、
相談しながらやってみた。

そしたら、苦手な分野が正反対みたいで、
二人で相談したらそれなりに(とりあえず半分ぐらい…)は解けた。


足して2で割れば丁度いいのにね、って言ったら、
何言ってんだよ。足して2倍しなきゃ足りねぇよ!と返された。


笑い合った。






そして。





ついに23日、桃城くんの誕生日、補習の最終日。

先生が入ってくるまでの数分に、ちょっとした話をする。


「あーあ、今日で補習も終わりか」
「やっと解放されるぜ」

そうだね、とクスクスと笑った。

だけど、二人でお話するの、結構楽しかったよ…なんてね。
そんなことを思っているのは私だけ?


「こんなものとっとと抜け出して、早く部活に行きたいぜ。ったく…」


…だよね。やっぱり、ね。



私の方だけなんだ。
この補習を、こんなに楽しんでるのは。

ううん。補習なんて楽しくない。
桃城くんと一緒に居られるのが、こんなにも楽しくて、大切な時間になるだなんて。



…どうしよう。

やっぱり私、桃城くんのこと…好き、だよ。



もっと一緒に居たい。
そう思ってるのは私だけ?

これを終えたら、夏休みがあって。
新学期には、また普通のただのクラスメイト?



「よーし、じゃあ最終日の補習を始めるぞー」


そう言いながら先生が教室に入ってきた。
私は微かに体制を整える。
桃城くんはそのままのびーとした態度だった。


いつも通り紙を配りながら、先生が言う。


「これは、この前のテストと全く同じ内容だからな。
 この補習を真面目にやってれば、ちゃんと解けるはずだ」



 え。



私は咄嗟に、桃城くんの方を見た。
ぽかんとして、瞬きを繰り返してた。
すると向こうをこっちを見てきた。
目が合うと、開き直ったんだかなんなんだか笑ってしまった。




  マ ズ イ 。




「それじゃあ始める。いつも通り、1時間後に来るからな。
 今日は相談とかもなしだからな!」



うわ。
どうしよう…!

だから先生、わざと答え合わせとかしなかったのね!?
私たちが言われなくてもちゃんとやるか試すために!


作戦に見事にかかってしまった。

分からない。全く分からない。
相談すればなんとかなるのかもしれないけど。


1日目に私が真面目っぷりを発揮したからなのか、
桃城くんは先生の言いつけどおり、相談してこようとしなかった。




一人で、解くと。

やっぱり、半分にすら届かないぐらいで。


ぽつり、ぽつりと。





テストが分からない。
それもそうだけど。

それ以上に、今日が終わったら特別じゃなくなる、とか。
一緒に居たいと思ってるのは、私だけなんだ、とか。

余計な思いがぐるぐるとしちゃって、余計に分からない。





この問題、前なら分かってた気がするのに。

この文法、昨日話してたときに教えあったのに。



ダメだ…分からない。分からない。どうして?





目から。

伝っていったのは。


何?



暑いから、汗?



だけど。目から。流れてきて。






…もうヤダ。

私はペンを放り捨てた。


後ろに寄りかかる体勢で、腕を抱えるようにした。






時間があまってるだけなのに空欄だらけの答案用紙を見て、

溜息を、何回吐いたことだろう。


ちらりと窓の外を見ては、何度。



後ろの席の人は今、どれくらいの問題を解き終えている?





問題を解くのをやめると、恐ろしく暇。
数学とかならともかく、
英語なんて悩んだところで分かるものではない。
ぼーっと物思いにふけることにする。

あ、そういえば今日は誕生日だったね。
なのに…なんだろ、この気分。



これが終わったら

明るく笑顔で

「おめでとう」って


言えるかな。



バイバイだけで終わりかな。





「はい、テストそこまで」

「―――」




教室に入ってきた先生がそう言った。
ああ…そうか。いつの間に1時間か。
色々考え始めてからは、早かったな。


「カンニングなんてしないだろな?」という先生に、
「生徒を疑うなんて何事っスか!」と桃城くんは返した。

その姿を見て、いつもなら笑ってたのに。
今日は、笑うどころか、悲しい、とも違って、苦しくて。


怒りたくなるほどムシャクシャした。



「…さようなら」

「お疲れ、



背中にかけられた声は、先生のもの。
桃城くんは、こっちに目を向けていたかさえ、知らない。

ただ、遠くの方で、「やっと部活出れるぜー!」と耳にして、
ああ、こっちに向いていないな、と確証した。




さようなら。


さあ、夏休みだ。








下駄箱で靴を履き替えていると、桃城くんがやってきた。
大きな鞄を抱えている。テニスのラケットが入ってるみたい。
補習も終えたことで、部活に出ることを許可されたんだと思う。


さっさと靴を履き替えた。
いつもなら指でちゃんと直すのに、
革靴の踵を半分踏んづけながら、
コンコンとつま先つついて歩き出した。

すると。








「!」





間があって。






「また、来学期な」


「…うん」





私は小走りでその場を後にする。







そうだよ。
来学期、普通に会えるはずなのに。
なんでこんな気持ちになってるの。


“普通に”しか会えないから?
こんなことでしか、繋がりを持っていられないから?




…情けない。


おめでとう も言えないなんて。






  ワタシはハメツへのミチをアユんでいるのではとオモった。








夜。

ぼーっとしている私が居た。



テスト中もそうだったように。
机の前の椅子に腰掛けて。
特に何をするでもなく。
物思いにふける。


そのとき、ノック。

電話を持った母が現れる。




、電話。桃城くんから」
「桃城くん!?」


なんで、だろう。




ドキンドキン。

心臓を叩かれながら受話器に出る。



「…もしもし?」
「あ、?オレだけどよ」


うん。
分かってる。

用件は、なに?


「オレたちはカンニングがばれて追試だとよ」
「……は?」


何、それ。
私そんなことしてない。

第一私って一番前の列に居たじゃない!
あの状況でカンニングなんて…あ。
先生が居なかったから証明なんて出来ない。

もしかして、そっちが一方的に覗いてきてて…!


「なんて嘘。オレら真面目にやったもんな」


…驚かさないでよ。
私は思わず冷たい目。



「寧ろ反対。オレたち、出来てるところと出来てないところが反対だってさ」


足して2で掛けなきゃな、と笑っていた。


「…で、よ。ここからはマジなんだけどよ」
「うん」



今度こそちゃんと話してよ。

もしかして、何か、大事な……。



「オレたちだけ成績悪かったから補習の補習、だってさ」

「えぇぇぇ!?」



思い切り叫んだら、電話の向こうから「鼓膜破れる」の声が。
ごめんと謝ると、向こうはくすぐったそうに笑って。


「というわけだからよ、あと数日…宜しく頼むわ」
「あ、こちらこそ」

へへっと照れ笑い交じりに。


「お前と喋ってるの。結構楽しいんだ。また、
 気楽にくっちゃべりながらゆっくりとやろうぜ」

「…だね」



私もくすぐったくて、笑ってしまった。



「また部活お預けかよ、くっそ〜」
「一緒に頑張ろうよ!ほら、2日目はうちら結構出来てたし」
「だよな。うん、うん!」



ああ。

さっきまでの気持ちは、どこへやら。


破滅へ沈んでいた想いは、誰が持ってきて、誰が取り払って。



「…そうだ、一つ伝えたいことがある」

「ん?」



明るい笑顔、電話越しじゃきっと見えないよね。




「お誕生日おめでとう」




向こう側にあるもの、電話越しだと見えないね。




だから、また笑顔を交わし合おうよ。








  世紀末の夏に現れると言っていた大魔王。

  実際はそれは現れなくて。




  新世紀から数年。


  私の目の前に 現れたのは――――……。






















最低点数が高すぎると姐御から私的を受けた。
ごめんなさい、こちら側の住人になったことのない人間で…!(嫌味か)
いいんだ、簡単なテストだったんだよ!(ヤケ切れ)

最後の一行は、読者に考えさせるため…といいつつ、
実はいい言葉が思いつかなかったんだったり。(爆死)

去年の9月ぐらいに書き始めました。
浮かんでたはずのあらすじが消えま死た。
多分当初の予定とは随分違う話になってます…。
でも、誕生日に間に合ってよかった!おめでと桃ち☆


2004/07/23