* 抱き締めていいですか? *












 向こうは絶対 そんなこと感じていない。

 だけど俺の心はいつでもそう


  君を 抱き締めたいと 思うんだ 。




「石田、はよー」

「おはよう、桜井」



無表情で挨拶しながら部室に入ってくる。

俺はいつも通りに笑顔で対応。


だけど、何故だろう。

いつも以上に、この衝動が大きいのは。



 君 を 抱き締めたい と。


それは、今日の日付がそうさせるのだろうか。



「…桜井」

「ん?」





「お誕生日おめでとう」






 ……ああ。




感動するほどに素っ気無い返事が帰ってきた。


でも、長年の経験で分かってる。

これは、照れ隠しなんだって。


小さく「サンキュ」と聞こえたから、俺は微笑み返した。

向こうはこっちを見ていなかったけど。



ほら。

桜井って、こういうやつなんだ。



黙々と着替えている。

俺は一足先に着替え終えて、部室を出ようとする。


だけど。


ちらりと、後ろを振り返ってしまった。

背中の、露になっている肌を、目にしてしまった。



体が、勝手に、動く。


君を 抱き締めたいと 疼く。




そろり、そろりと。

背後に忍び寄っている自分が居た。

思わず腕を伸ばした、その時。




「あー、石田いけねーんだ!」


「っ!!!」




部室に誰かが入ってきて、突然後ろから声を掛けられた。

俺は驚いてその体勢のまま固まってしまった。


桜井も振り返った。マズイ。


この体制は……。




と、思ったら。

後ろから入ってきた人物――神尾は、こんなことを言う。



「今時、目隠しして「だーれだ!」なんて古いんだよ」

「あ……悪い」



何故か神尾に謝ってしまった。

俺は萎えた感じで腕を下ろした。


桜井には「何やってんだよ」と言われた。

「驚かそうと思って…」とわけの分からない誤魔化し方をした。


反応がなかったので、まずったかな、と思ったけど。


「なんだそれ、お前」

桜井は笑った。


…とりあえず作戦は成功みたいだ。
(本来の目的からはかなり掛け離れているけど、ともかく)



まだまだ前途多難、だ。





 俺の心が いくら君を呼んでも

 君はそれに答えるどころか


 その声が 聞こえても 居ないのだから。






















桜井君って基本的にあんまり笑わない人だと思うんですが。
だけど素っ気無いながらの滲み出る優しさがMO・E☆なのだよ!!
そんでもって照れ屋さん。だけど照れ隠しは上手。

某所で石桜読みまくってたら苗字で呼び合うこいつらが不自然に見える…!
ああもう、心の中では雅也とか呼んでてくれて構わんと思う。
次に石桜を書くとしたら、心の中だけ名前呼びにしようか(←)


2004/07/01