* 諦めないで、負けないから。 -part.1- *












「全員集合!」


部長である手塚のその声で、皆がその元へ走り寄った。

集合を掛けられる憶えはない、とでも言いたいかのように首をかしげるものも居る。
中には、「この前のテストで赤点が多すぎたんじゃないか」、
などと話して仲間の笑いを集めるものも居た。

しかし――事態はそれほど呑気なものではなかった。
手塚の表情はどんな時でも硬く、真剣だったため、その微かな違いには気付かなかった者も居る。
それでも、レギュラーを含めいくらかの割合の部員は、事の大きさを本能的に悟った。

内容まで分かった者は、一人も居なかったけれど。


「本日、我が青学テニス部員の一年生である加藤が休んでいることには、気付いている者も居るだろう」


その言葉に、加藤勝郎の親友である二人は、目を合わせた。

堀尾聡史に、水野カツオ。
三人はいつも一緒だったのだ。

比較的仲の良い方であり、本人としてもそれなりに勝郎のことを気にしていた越前リョーマは
(彼にしてみれば同学年の数少ない友人だ)、その二人の方をちらりと見やると、すぐに視線を手塚に戻した。
それを確認したかのようなタイミングで、手塚は低い声で話を再開させた。


「…いいか。これから報告することは、一部の…いや、全員にとって、大きな衝撃であるはずだ。
 だが、動揺せずに聞いて欲しい」


そこで一旦手塚は言葉を区切った。
辺りを沈黙が包む。
遠くのグラウンドからは野球部の掛け声などが轟いていたが、
あまりの張り詰めた空気に、それすら聞こえなかったものも居るだろう。

いつの間にか目を伏せていた手塚は、それを開くと強く言い放った。


「加藤は…昨日加藤は」


手塚は必要以上に躊躇っているようにさえ感じられたが、
もう一度深く息を飲み込み、今度こそ、言った。



「通り魔に刺されて、都内の病院に運び込まれた」




ざわっ、と空気が動いたかのようにざわめきが走る。
それを手塚が制す。


「静かに!」


一気に静まり返る一同。
ピリッとした緊張感は、どうしても抜けそうになかった。


「取り合えず、命に別状はないようだ」


安堵の息が洩れていったのを一瞬待った後、手塚は続けた。

「しかし、本人も体力的以上に精神的に傷付いているはずだ。
 彼が一刻も早く部活に…いや、学校へ出てこられるように。
 見舞いに行くなど、励ましの声を掛けてやってほしい。大事な部員だ」

皆、真っ直ぐに手塚を見ている。
手塚はその視線を遮るように目を閉じた。
言い終える時にはもう、目は開いていたが。


「気持ちを切り替えて練習だ!ランニング!!」


声に合わせて皆は走り出す。
戸惑いを隠せずその場に立ち尽くすものも数人居たが、
手塚は声を張り上げることもなければ咎めることもできなかった。


そしてその者たちもまた、すぐに集団の後を追い始めた。

























ナレーター式ですけど各話にビューポイントがあり。今回は手塚より。


2004/03/05