いつでもハッピーエンドなのは気にくわない。


 最後は必ず王子様が現れて、

 二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。終わり。


 繰り返される、ワンパターンな結末。



 童話やおとぎ話だって、

 たまにはバッドエンドを迎えてもいい。



 私はそう思うんだけど、違う?



…と、これは私の友人の言葉。






ごめんなさい。アタシはそうは思いません。


いつだってハッピーで居られたら、それが一番幸せだもん!











  * ハッピーエンド万歳 *












―――アナタは今、幸せですか?




「しゅういちろ〜クーン」

「ああ、今行く」


ぴょこんと3年2組の教室に顔を覗かせた私。
私の彼氏である秀ちゃんは鞄の荷物を纏めながら返事をした。

私は扉に手を掛けて、頭だけを教室に入れている。
秀ちゃんが帰りの準備を終えるのを待っているのだ。

気分は、ご主人様を待ちます忠犬。


「バイバーイ♪」

「ん、またねーさん」


教室から出て帰っていく人に声を掛けた。
と、顔は知ってるけどこの人の名前なんだっけ。

面識はないのに何故向こうは私の名前を知っているのだろう。

理由は簡単。


アタシと秀ちゃんは、学年でも有名なラブラブバカップル。



ー」

「はい〜?」


後ろから声を掛けられた。
私の親友、だった。

は私の後ろで足を止めると、
苦笑いのようで楽しそうに笑った。


「…尻尾揺れてるよ」

「え、うそっ!」

「ウソウソ。決まってるでしょーが」


アンタのどこに尻尾が付いてるのよ、と。

こつんとおでこにゲンコツを当てられた。
頬を膨らまして、そこを撫でた。


ちゃん、お待たせ」

「あ、秀ちゃん!全然平気だよ〜v」


「……」


は、「揺れてる揺れてる」と一言残して去った。
アタシは咄嗟にスカートのお尻の位置を押さえた。


「揺れてるって何が?」

「な〜んでもないってば!」

「そうか、ならいいや」


私たちはお互いに笑いを飛ばし合い、
手を繋ぐと廊下を優雅に渡り歩く。

途中で「熱っ!」「寧ろ寒っ!!」などと声が掛かる。
私たちは一旦足を止めて、お互いの顔を見合わせて。
相手の顔がちょっぴり赤いことを確認して、
また笑い合うと手を握り直して歩き出す。




  アタシは今、とっても幸せです。














 「不安にならないの!?」

 「は?」



体を乗り出して訊いてくる
私は頭の周りに?マークを沢山浮かべた。

チューといちごミルクをストローで飲む私。
さっさと食べ終えてしまったは私に突っ掛かってくる。


アタシたち、ただいま屋上で優雅に昼食中。


そういう態度のアタシに対して、はハァと深く溜息を吐くと、
私がおやつ用に持ってきたポッキーに手を伸ばした。

同時に3本を頬張りながらは喋る。
(後で秀ちゃんと食べるんだから!取っといてよ!)


「アンタってどうしてそう幸せなの?」

「行儀悪いよ、ちゃんと呑み込まなきゃ」

「………」


はまだ半分残っていた(といっても1.5本分)ポッキーを
全て口に押し込むと、凄い勢いで噛み砕いて飲み込んだ。


「誓う。アンタ絶対そのうち痛い目見るよ」

「え〜…」

「何事も上手く行きっぱなしなんてありえないってこと!」


そういうとは立ち上がった。

「…ヒガミ?」と私が小さく呟くと、
回し蹴りが飛んできた。(寸止めされたけど)



痛い目…。
落とし穴があるってこと?

んー、今はそうは思えないな。
だってアタシ、幸せの絶頂だもん。
下り坂なんて、当分見えてきそうにない。


ちゃん、居る?」

「あ、秀ちゃぁん!」

「やっぱり居た。声が聞こえたからさ」


声が聞こえた…って言っても、
まさか下の階まで聞こえたとは思わないし。
ってことは、探して来てくれたんだよね!
やさし〜vv


秀ちゃんはアタシの横に座ると、肩に腕を回してきた。
軽く弾かれたので、アタシは甘えるようにして
そのまま胸の中に転がり込んでみた。

横で、はお弁当箱を持って立ち上がった。
そうすると、見下ろすようにして言ってくる。


「大石にも宣告!命には気を付けな」

「え、命?」

「…ってのは嘘だけどー…。とにかく、気を付けなよ!」


叫び散らすと、は屋上から出て行った。
邪魔者は退散、ってか?そんな気を使わなくていいのにな〜。
(※余談:実際は「あんなのに付き合っちゃおれん」と思っているのである)



「…気を付けなって、何がか分かるか?」

「さ〜ぁ。さっきからってばおかしいの〜」


ごろにゃん、と上目遣いでそう答える。
(犬の次は猫ですかって?まあまあ)


「あ、そだ。ポッキー食べる?食べて。ほら、ア〜ン」

「アーン」


屋上のドアの方から、「死ネッ!」と叫ばれ、
バン!!!と凄い勢いで扉が閉じられた。
(あ、まだ居たんだね)



「それとも折角だからポッキーゲームでもやってみる〜、なんちゃって!」

「こらこら」



そして、決行されたのは言うまでもない。








   **








そのときは、まだ大事になるだなんて思ってなかった。



「秀ちゃん、今日はクラスメイトとご飯食べる約束しちゃった」



休み時間、2組にやってきている私はそう言った。


「あ、そうなのか?」

「うん。ごめんね〜」


軽く謝った。

だって、普段私たちは大抵一緒に食べるから。

秀ちゃんが委員会とか部活の昼練とかの時はと食べるけど、
その他は二人っきりで食べることが多い。


そのときはは別のクラスメイトと食べてるみたい。

今日は、ただ単にその人たちとお食事するだけ。


秀ちゃんと一緒に食べれないのは寂しいけど、クラスとの交流も大事。でしょ?



「楽しんでこいよ」

「うん。ありがと〜」



休み時間は普通に終わって、私は手を振ってその場を去った。






そのときは、まだあんな大事になるだなんて思ってなかったんだって。










「「いただきます」」



手を合わせて食べ始める私たち。


しかし。


「(なんで二人っきりなんだ!?)」


最大のサプライズである。


しかも。
そこに居るのは。


「…あの、桑原くん?」

「ん?」

「……どうして私たち二人っきりなの?」


周りを見回した桑原くんは、とぼけた風に「さあ?」と言った。


何故にして、仮にも彼氏持ちである私が
クラスメイトの男子と二人きりでお弁当食べてるんでしょう。


は?」
「突然用事が出来たって」

「…他に食べてる人は居ないの?」
「いや、それが今日に限ってみんな忙しいみたいでよ」


…がくぅ。

私は首をうな垂れた。


「(こんなんだったら秀ちゃんと食べればよかったぁー!)」


涙が出そうになった。
だけど、負けないもん!


 「なぁ、ところで聞いたんだけどってこの歌手好きなんだっけ?」


これもクラスの交流を図るためと思ってさ。


 「わっ、大好きー!そのCD貸して!」


楽しく…


 「いいぜ」

 「やったー!!」


やりましょう…


 「新曲マジいいぜ」

 「ホント?嬉し〜v」


よ。




…気付けば和気藹々。

差し出されたCDを手にとって私は飛び跳ねている。


これほどまでに気の合う人だなんて。

恋愛感情は全くないけど、良い友達になれそう♪


「歌詞もいいけどさ、曲が本当に…」

、後ろ」

「う?」


顎でしゃくられて。

振り返った先には。




「…秀ちゃんっ!?」




驚いた私は咄嗟に立ち上がった。





ちゃん、これって…」

「待って!落ち着いて事情を聞いて…っ!」



絶対に誤解された。

落ち着かせようとするけど。


焦った私の口調は逆効果。

必死に言い訳しているようにしか見えない。



秀ちゃんは背を向けて歩き出す。




私はそこを追う。


「待って!秀ちゃん、事情を聞い…」

「もういいよ」


そう言われちゃうと。

私はそれ以上何も言えない。



「クラスメイトと食べるって言うから、信じてたのに」

「しゅうちゃ…」

「まさか、男と二人っきりだったなんてな」



嘲るような、口調。

私は否定しようと口を開くけど、喉から上手く声が出てくれない。



「そういうわけじゃ、ない…」

「じゃあ何だって言うんだ」



俺は信じてたのに、と。





「それって…要するに俺への裏切りだろ?」


「―――」





言い返せなかった。


だって、

だって。



…その通りだよね。




「秀ちゃん、あた、アタシ……っ!」




言葉を終える時、既に目の前に秀ちゃんの姿はなかった。



向こうが去ったんじゃない。

アタシが逃げたんだ。



背を向けて、

走って走って走って。



代わりに、目の前に居たのは…



「………」

「ほらね、私の言った通り」



何も言い返せない。

腕で鼻をこすって鼻水拭いた。



今のアタシ、すっごく情けない。




ぽり、とは頭を掻いた。



「なにベソかいてんの」

「だって…」

「言い訳禁止!」


強く言われて、私は口を噤む。

だけど涙はどこまでも流れてくる。


「ホントに、の言う通りになっちゃった」


へへっ、と笑って見せたけど、涙はそのまま。



「何でもハッピーエンドにいくわけなんて、ないんだね…」



は私の顔を睨むようにしてみてくる。


「…喧嘩?」
「うん」

「…どっちが悪かったの?」
「…アタシ」

「謝った?」
「……ううん」


ほれ見なさい。

はそう突っ込んできた。
チョップのフリをされた。

私は咄嗟に首を縮めたけど、
は溜息を吐くと手を下ろした。


「だーから、いつまでも上手くいくわけがないんだって」

「………」


悔しかったけど、言い返せなかった。



「でもね…アンタの言うことも一理あるよ」

「え?」



足して2で割ると丁度いいのかな、っては苦笑した。


「私さ、前付き合ってた人が居たんだけど、喧嘩してそれ以来」

「………」

「だから、ハッピーエンドなんて信じなくなった」



なんだろ。

、寂しそう。



「自分がそうなれなかったヒガミかもね。嫌らしー…」



随分と自虐的になっているだったけど。

それは溢れてきそうな寂しさ押し込めるためだって。
今の私には、分かる。


少し前のアタシだったら、分からなかったかな?



「だけどね、今はこう思うんだ」

「…なに?」



聞きたい?とは笑顔を向けてきたので、

聞きたい!とアタシも真っ直ぐな瞳を見せた。


は微笑して。



「辛いことが色々あってこそ、ハッピーエンドってのはもっと幸せなものになれるんだ」



途中で辛いことがあったって。

そこで逃げたら、本当の幸せは手に入らないよ。


…そう言った。




もし、の言葉が本当だとしたら。

今のアタシは、どこに居る?


まだ、やっと中継地点に来ただけ?

それとも、まだスタートラインにも立っていない?



「このまま終わらせちゃうつもり?」

「……絶対ヤダ!」

「ほーら。いってきな」



背中をトンと押された。


後ろを振り返った。

は優しい笑顔で手を振ってる。



優しい笑顔だったけど。

なんかやっぱり、寂しそうで。



「…は?」

「えっ?」

は…いいの?その昔の人のこと!」


だって…喧嘩してそれ以来、なんて。

まだ、本当の幸せ見えないままなんて。


淋しすぎるじゃん。




は、「あー…」と思い出した風に。


「あれはいいの。ずっと前に終わったことだから」

「…本当に?」

「うん」



そっか。

私は納得した、けど。

表を向き直すのに苦労が要った。


漸く待つ人に向けて走り出そうとすると。



「でも!」

「?」


振り返った。


、ちょっと眉を顰めたけど、明るい笑顔。




「次は絶対幸せになってやるから」




加えて、「アンタ、羨ましいわ」って。

それは、つまり今の私には幸せになる資格があると?



…」

「ほら、いってこい!」



…ありがとう。


聞こえるか分からないぐらい小さく呟いて、走った。







 私は知らないんだけどね。


 後には、桑原くんに「協力ありがと」って言ったこととか。

 桑原くんが「迫真の演技だったな」って感心してたこととか。

 が「そぉ?」ってときの悪戯な表情とか。

 そこに「それとも過去に喧嘩別れしたってマジ?」って訊いたこととか。

 対して「どーでしょーね」って舌をぺろりと出した様子とか。

 眉を顰めて「どうでしょうねって…」と苦笑した桑原くんの悔しそうな顔とか。

 「だけどとにかく今は幸せだよ」と笑ったが桑原くんの腕に絡み付いたこととか。

 実は二人はちょっと前から付き合っていたこととか。

 お弁当の場に二人しか居なかったのはそれが実は理由だったとか。

 全てはの仕向けた作戦だったってこととか。


 周りが見えていなかった私は、何も知らなかったんだけどね。





今はそれどころじゃないし。






元来た道を戻る。


それは短いようで長くて。



アナタが既に通った後でなければ、擦れ違うはず。

遠いか近いか分からないけど、どこかで巡り合えるはず。



ねぇ、どこに居る?




廊下を駆けて。


階段を上って。


屋上の扉を開いて。




「……しゅういちろうっ!」




発見。


漸くその姿を、見つけた。




役者が揃ったぞ!
そんな空耳は私の耳まで届いておらず。




その人は、さっきの場所にまだ立っていた。

こっちに背を向けるように、空を見上げて。




「ごめん!アタシ、秀ちゃんのこと大好きだよ!」




だから…嫌いにならないで。


それは、胸と喉が詰まって言葉に出なかった。

自分の心の中に残ったまま、響いて、響いて。





その人は、空を見上げていて。

だけど、ゆっくりと顔を下に下ろして。

そして、少しずつこちらに体を向けてきて。


目が合って、驚いた。



ちゃん…」



泣いてた。




「秀ちゃん…?」

「ごめん、ちゃん、俺…」

「ううん。もう大丈夫だよ!アタシこそ本当にごめん!」




知らなかった。

男の人って、こんなに簡単に泣くものなんだ。



男の子だから泣くのは我慢!っていう印象があったけど、

そんなことないんだね。辛かったら泣きたいよね。涙も零れるよね。


幸せだったら、笑顔を自然と零すように。




その場で抱き合った。

外野から「おぉ、やるぅ!」と声が上がっていた気がする。
(そうです。実はさっきから周りは人だらけ)


体を離して、今度は目と目と見詰め合わす。



「俺、ちゃんがもし他の男に取られたらって心配で、つい…」

「アタシこそごめん!秀ちゃんという人がありながら…」



そして、再び抱擁。






 そっか。

 どんなお姫様だって、初めから幸せだったわけじゃない。

 苦労があって、悲劇があって。

 その先で漸く手に入るもの。


 最後が幸せだから、いいものなんだ。






「明日からまた、一緒にお弁当食べような」

「うんっ!」




あーあ、また戻っちまったよ。 面白くねー。

っていうか熱くない? 寧ろ寒気?


そんな会話を余所に、
私たちは甘い甘い蜜の味のキスを交わしていた。


、さっき弁当箱置きっぱなしだったぞ」

「あ、ありがとー」


秀ちゃんの肩越しに、私は桑原くんから普通にお弁当箱を受け取った。

その桑原くんはというと、他の外野に交じると
「お幸せにー!」「結婚式は呼んでくれよー」
などなどと叫びながら去っていった。


「最早あれ青学3年の風物詩だよな」と、
誰かが呟いた言葉が、幸せに私の耳に届いた。



こんな日常が、私の周りには取り巻いています。

これからも苦労は沢山あるかもしれないけど。




――――アタシは今、幸せです。





   ハッピーエンド万歳!






















260000HITのリクで甘々大石夢。
ラブラブバカップル。ここまでバカなのって始めてかも。
周りが見えていなさすぎる。笑。両方天然だよ。
参ったねこりゃー。爽やかさのカケラもない。

彼女設定だと大石にちゃん付で呼ばせたの初めて…!
というか、名前呼び捨てしかなかったんじゃない?

そして、3年6組と聞いて不二nor菊but桑原くん使用の私。笑。

瀬田江実哉さんにリク頂きました!
エミヤーン、こんな感じで宜しかったでしょうか?


2004/06/10