うちのクラスには変な人が居る。
「さん、ご機嫌麗しゅう…」
「 お は よ う 観 月 ク ン 。」
さらりと交わして通り過ぎたけど。
……あの人は、一体 何?
* 違わないとも言い切れない *
朝から眉を顰めまくる私。
親友であるが駆け寄ってきた。
「、おはよーさん!」
「おっはよん」
あ、それってシャレ?と訊いてくる。
は?と答えるとやっぱ何でもない、と言った。
(意味は後から分かった)(3と4ですか…ハイ)
鞄を机に下ろす私。
は楽しそうに机の正面に回り込む。
「観月くんも毎度お疲れだよね〜毎朝お勤めご苦労さん!」
「ご苦労なのはこっちよ!向こうは好きでやってるんだから…」
ぶつぶつと愚痴を零す。
ちらりと視線を斜め後ろにやると、また例の人物と目が合った。
(ああ…薔薇とか持ってるし)(どうしろっていうの!?)
はクククと笑った。
「あーあ。おっかしいの!」
「笑わないでよ!こっちは本気で困ってるんだから…」
そう。
思えば、こんなことが始まったのは2週間ほど前。
全ては観月はじめの一言から。
「んー、さん。実は僕、数日前から貴女の虜なんですけれども」
……は?
と、間の抜けた返事を返したくなる気持ちも分かるであろう。
何しろ、突然。突然なのだ。
前日までは普通のクラスメイトで、
寧ろ関わりがないぐらいで。
数日前に何があった!?
と考えてみるものの、何も浮かばない。
まだクラスに慣れたばかりって感じで、
一人一人のキャラクターは完全には掴まれていない状況だけど…。
結論:観月はじめは変な人だ。
「でもさ、観月くんはそれだけに夢中ってことでしょ?やるー!」
「あのね…そうやって面白がってるけどね、こっちは結構必死よ?」
言っても、は一人で楽しそうにはしゃいでる。
…全く。
まあ、人に好かれるっていうのは悪い気はしないけど。
だけど、せめてそれがまともな人間であったら…。
(と、これはあまりに失礼か)(失言許されよ)
「今好きな人居ないんでしょ?OKしちゃえばいーじゃんっ!」
「えー、でもそれってなんか…」
別に、観月が変な人だから係わり合いになりたいわけじゃなくて。
普通に考えて…そういう考え方って、なんかイヤ。
付き合うとしたら、本当に好きな相手がいい。
そうしないと絶対続かないと思うし。
それがあるべき形だと私は思うのよね。
「第一、OKも何も…私告白されたことないよ!」
「そうなのー?」
そう…そうなのですよ。
「ご機嫌麗しゅう」とか普通に挨拶で使ってて、
「貴女の笑顔は薔薇の様…」とか唐突に言ってきたり、
「んふっ。すみませんつい見とれてしまい…」とか目が合うと言ってくるくせに、
好き、だとか。付き合ってください、だとか。
その手の言葉は一度も出てきたことがない。
……つまりさ。
「観月が私のことを好きとは限らないわけだ」
「え〜、100%そうだと思うけどなぁ…」
真実は、今のところ不明です。
「なんか言いたげにしてるから、私は撤退するよ」
「チャイムすぐ鳴るよー?」
「鳴ったらダッシュで帰ってくるって」
そう残して、私は教室を後にする。
一段飛ばしで階段を駆け上って、
自分たちの教室が位置する最上階のそのまた上、
屋上へ、歩を進めるのだった。
『観月が私のことを好きとは限らないわけだ』
自分が先ほど発した、説得力のある言葉に感心する。
確かに、最近の観月の態度はおかしい。
私だって、もしかしたら好意を持たれてる?
とか考えたりもしたさ!
(っていうか今も少し思ってるよ)
(誰だって思うよ毎日あんなだと…)
でも。
裏を返せば、証拠はないわけだ。
貴女の虜。
一番近い言葉は、それだけれど…。
だけど、100%じゃない。
『キーンコーンカーンコーン』
「……早」
ホントにすぐにチャイムは鳴った。
屋上に踏み入れてから、ほんの数秒のことだった。
私は渋々元来た道を戻ることとなる。
だけど、あまりにもマヌケ。
もう少しここに居座ろうか。
と。
「貴女はいつになったら下りてくるんですか」
……は?
開きっぱなしの屋上のドアから声が漏れてきた。
しかも、今の声。
そして口調。
どう考えたって……。
「まさに、高嶺の花という言葉がピッタリといえばそれもそれでしょう…んふっ」
ぎゃー!!!
怖っ!
下睫毛長っ!
私より美人っ!!(チクショウ)
っていうか…キ××(ピー)(美しくない言葉なのでお見せできません)。
いや、キモイとかそういうことは置いといて。
(あ、モロに出しちゃった)(※観月ファンな方すみません)
正直好きじゃないんだよね。ごめん。
ギャグ抜きで。真面目モードで。
…合わないと思うんだ、私たち。
「そっちこそ。教室わざわざ抜け出してきて何?」
「貴女を迎えに来たのですよ、マドモアゼル」
ぞぞぞー!
寒気!寒気がしましたよ今!?
っていうか血の気が引く音が私には聞こえましたが!?
お願いです。
一生のお願いです。
私のことが好きでありませんように。
そうだとしても告白してきませんように。
何故か一部には人気があったりする観月。
これで告白されて断りでもしたら
私は親衛隊にリンチよ!?
(承諾しても半殺し/どっちに転んでも痛い)
(つまりは告白してこないで)
リンチもそうだけど。
告白って。
結果はどうであれ。
それまでの関係が崩れてしまうから、イヤ。
好きな人が恋人になったり。
どうでも良かった人を意識するようになったり。
散った片想いの相手は前より遠くなったり。
告白してきたその人は二度と笑いかけてくれなかったり。
するにしても、されるにしても。
良いにしても、悪いにしても。
それまでの関係が崩れてしまうのが、イヤ。
……ん?
つまり、なんだ?
私は、今の観月との関係が、好きなの…?
そんなバカな。(きっぱり)
だけど。
結構楽しいっていったら、それもホントかもね?
迷惑だけど。
適度なスリルがあって。
結構好きかもしんない。
「そうだ、いいものあげるわ。はいっ」
「これは…?」
小さく折り畳まれた紙。
ぽいっと上から投げた。
受け取った観月は不敵な笑みに変え、髪の毛をまた弄る。(キ/強制終了)
「今時ラブレターですか…んふっ。そもそもラブレターというのは中世のころ…」
「ホームルームに遅れないようにねー」
ひらひらと私は手を振りながら、横を通り過ぎる。
背中を越したら…ダッシュ!
変な人。
変な人。
やっぱり観月は変な人。
係わり合いになんてなりたくない!!
もう開いたかな?
つまり、そろそろ気付いた頃かな?
実はさっきの紙、先生の似顔絵をラクガキして、
授業中に笑いながら回してた物だってこと。
ごめんなさいねっ。
大体、誰もラブレターだなんて言ってないし!
つまり、そうだということも否定できないけど、
そうであるとも言い切れないってわけ。
その前に、そっちこそ本当に私のこと好きなんですか?
もうわけわからんから知らん。
その後。
滑り込みでホームルームに間に合った私と、
ホームルームが終わった頃になって漸く
デッサンの狂った凄い形相でやってくる観月が居た。
なんですかこれは?
と訊かれたら、
さあなんでしょうね?
と返してやろう。
そうだとは言ってないけど、
そうじゃないとも言ってないんだから。
意味不明すぎ。ギャグだか青春ラブだか。
あーあ。こんなの表に置けない…。
ゴミ箱作ろうかな。参ったぜ。
でもそうすると基準が難しくなるからやめる。
(全部がゴミ行きだったりして/痛すぎ)
観月が主人公のことを好きだという保証はない。
だから主人公もそれに応対するつもりはないけれど。
ラブレターだと言ってないとは言え、違うとも言ってない。
つまりはそのラクガキがアナタを受け入れるサインな可能性もあるわけ。
……実際、本当に違うんですけどね。(笑)
Jは謎だと思う。本当に。謎。
2004/05/26