オレのこと

好きって言ってくれた

あの子は




オレのこと


どう思ってるんだろう


どこに居るんだろう



どうしているんだろう?










  * 君の笑顔の支えになれたら *












「大石ぃー、相談に乗って!」

突然3年2組の教室に飛び込むと、
背中に抱き付きつつオレはそう言った。

「英二…分かったから離れろ」
「ふにゃ〜ん」

大石が腕を突っ張るから、オレは仕方なく体を離す。
今度は机の正面に回り込んで、机に顎を乗せる。

「……」
「で、相談ってなんだ?」

じーっと無言で見つめていると、
大石の方から話を切り出してきた。

オレはハァと溜息を吐いてから、呟いた。


「恋の悩みデス」

「へぇ」


……。
にゃんだよその薄い反応は。


「もっと言うことにゃいのかよ」
「だって…はいそうですか、としか言い様がないだろう?」
「…イジワル!」

べーっと舌を突き出した。
大石はカチッとシャーペンの先を押すと芯をしまって、
それを机に置くと漸く真面目に聞く体勢に入った。


「で、その“恋の悩み”ってのは具体的には何なんだ?」


む…。

そうか。
それを説明しなきゃ向こうも
「はいそうですか」としか言い様もないよにゃ。

……。


とりあえず説明しよう。



「オレ、前とある子に告白されてさぁ」
「うん」
「…っていうか、って子なんだけど」
「え、さん!?」


はた。

なんだ、この反応???


「知ってんの?」
「いや…去年同じクラスだったんだ」
「へぇ」


坦々と会話が進む。
相談って言っても、結局はこんな感じ。

ちょっと焦った様子だった大石は、
いつも通りの平静を取り戻して訊ねてくる。


「で、さんが告白してきて…付き合うか否かで悩んでるのか?」


訊かれて、オレは首を横に振った。
だって、本当に違うんだもん。

「じゃあどういう悩みだ?」
「…あんね」


話は、一ヶ月前へと遡る。




  ***




「好きです」


ふらりとやってきた校舎の裏。
突然受けた告白。

実はちょっと離れたところに不二が居るはず。
呼び出されたのが気になって、
こっそり後をつけてきたらこの様。

そのまた後をつけられていたらしく、告白。

不二につけてきたことがバレませんよーに。
そう心の中で小さく祈りながら、話を聞く。

「私ブスだし、告白されても困るだろうけど…」
「いや、そんな…」

……告白される時の空間って、
なんかギスギスしちゃって、居辛い。
早く切り上げたいな。

だけどこの人、誰だっけ。

「えっと…」
「私、9組のです」

9組…。
ん〜、知り合いが居ないからいくこともないし。
名前にも聞き覚えがないにゃぁ…。

今までにもう何回も告白を受けた。
その度ずっと断った。断り疲れた。
だからといって受け入れるわけにもいかず。


何回も使った決まり文句。


「悪いけど…オレ、今はテニスのことで頭いっぱいだにゃ」


そうしたら。
告白してきた女の子は。



「今はってことは、いつかはこっちを向いてくれる?」

「―――」



…そこまで考えてなかった。
ただ単に、少なくとも今は付き合う気はないから…って。

しかし…どうなんだろ。オレ。



「私なんて…全然可愛くないし。スポーツも出来ないし。
 特別頭良いわけでもないし。地味で目立たないし…」


ずっと自分を卑下してた。

だけど。



「それでも、菊丸くんのことは、一番に想ってるから」



そう残して、その場を走り去っていった。


確かに。

正直言って、今まで告白してきた中には
もっと可愛い子は沢山居た。

明るくてハツラツとしてていかにも目立つ感じの、
係わり合いを持ったこともないのに知ってるような子もいた。


だけど。



「……なんだこれぇ〜…」


「あ、英二!付いてきてたの!?」

「げっ、にゃはは〜…」



一瞬の心の疼きを理解する間も無く。

不二に見つかった。

笑って誤魔化した。


不二の横に立っていた子が笑顔だったところを見ると…
もしかしたら上手くいったのかな?と思った。


その子は、6組に通ってくるようになった。
不二と話していることが多くなった。

オレは一人身になることが多くなった。


現在に至る。




「ぬぁ〜不二めー!!一人でヌケヌケと幸せになりやがって!」

「こら英二、落ち着け」


ハイ。

止められて、オレは暴れていた自分の足を大人しくさせた。


大石はふぅと溜息を吐く。


「不二に先に彼女が出来て悔しい…っていうのが相談か?」
「ちーがーうーよ!オレの話のどこを聞いてたんだっ」


指をビシッと突き出して指摘する。
すると大石は「英二の話し方じゃあそうとしか聞こえないぞ」と。


…まあ。
それもちょっとはあるんだけどさ。

でもそれだけじゃない。



「オレさ、今はテニスで頭いっぱいって言っちゃったけど」

「うん」

「……いつまで待っててくれるんだろ」



そう呟くと。
大石は笑った。

柔らかな笑みじゃなくて。

大爆笑。


「英二。それ…なにか重要なこと忘れてないか?」
「にゃ、にゃんだよ〜…」


笑われるのってなんかシャクだ。
そういうオレもよく大石のこと馬鹿にして笑ってるけどぉ…。

俯かせた顔が少し赤い気がする。ちくしょう。



「英二、一度はさんのことフったわけだ」
「……うん」
「でも、向こうは待っててくれるって言ったわけだ」
「ん。でも、それがいつまでなんだか…」


そういうと、大石はまた笑う。


「何言ってるんだ。冷静になれ。どうして待ってもらう必要があるんだ?」

「……あ」

「ほら」


トン、と肩を叩かれた。




「待ってるんじゃないか、さん」




……そっか。

そうだよね。

オレ馬鹿みたい。

っていうかバカじゃん。



「……行ってくる」

「行ってこ……あっ」



そこまで言って、大石は固まった。
顎に手を当てて、考え込んでるポーズ。


「どったの、大石」
「いや、ちょっとしたことを…思い出してな」




――――。





…嘘だ。



何で。






オレは廊下を猛烈にダッシュした。

途中で手塚に会った。

「廊下は走るな」って叱られた。

「じゃあ罰としてグラウンド走るから。
 んで、グラウンドの代わりに廊下を走る」と言った。

手塚は首を傾げていた。

なんとかその場を切り抜けて、オレは廊下を只管に走った。



3組。


4組。


5組。


6組飛ばして。


7組。


8組。



…9組。




「―――」


教室を、覗いた。
楽しそうに笑う、笑顔があった。


良かった。
オレは心からそう思った。

すっと息を吸って、オレはその名を呼んだ。



さん」

「…え、菊丸くん!?」



そのまま廊下に連れ出して、共に屋上へ。

周りからの視線が気にならないことはなかったけど、
今は、それどころじゃないから。


周りなんかより。

今この目の前にある。

その子のことで。


頭いっぱい。




「あの、菊丸く…っ!?」




運の良いことに屋上にはオレたちだけだった。
それを知った瞬間、オレはさんのことをぐいと引いた。

胸の中にすっぽりと収まる。
女の子って、小さいんだな。



「なんでだろうな…こんな子が」

「あ、あの菊丸くん!?離し…っ」

「ダメ」



オレは更に強く体を抱き締めた。

本当に。

なんでだろう。

こんなにいい子が。



さっき、大石に伝えられた言葉が頭を巡る。






さん、去年…イジメ受けてたみたいなんだ』





『そのことで相談を受けたことがあってな』





『性格は凄くいい子なのに…なんでだろうな。オレにも分からない』






『その所為かな。自分のことを見下す癖がついてるみたいだ』






『たまに…無理したような笑いをしてた』






『辛かったんだと思う』






『だけど、一度も学校休んでなかった』






『支えてくれる友達が居たから。それと』









『―――好きな人を見るのが楽しみで…って言ってたぞ』













「オレ、ちゃんのこと好きになっちゃったみたい」


「―――」




自然と呼び方が変わっていたことに驚いた。

でも、別にいいよな?


だって、本当に…好きなんだもん。



「どうして…?私なんて、こんな…顔も可愛くもないし性格もっ…」

「それはもういいって」



また始まった癖であろう言葉。

オレはそれを即座に止めた。





『英二…支えになってやれよ』





分かってるよ、大石。

言われなくたって。




「オレと付き合ってください」





ほら。


ちゃんは


誰よりも


明るい笑顔を抱えてる。



それを隠してしまっているだけだよ。






「待っててくれてありがとう」






オレがそう言うと、


ちゃんは柔らかく笑って、


背中に腕を回してきてくれた。






 本当に心の底から思うよ。



 良かったと。




 そしてありがとう。
























前半と後半で英二のノリが違うでしょー?
自分より強い人の前では甘えん坊で、
自分より弱い人の前では優しくなる。
それが私の英二観です。世間帯は知らん。(ぁ

親愛なるKさんの誕生日に捧ぐ。
埋められたらなと思うのですが
抉っていたならごめんなさい。
でもこれが私の感じていたこと/いることです。

今、どうしてますカ?今でも英二好き?大菊好き?(笑)(ムードが…!)


2004/05/23