* 楽しいね。 *
「ま〜た菊丸のこと見てる」
「―――」
にそう言われて、はっと横を向いた。
目が合った先。
不敵な笑みの親友。
「図星?」
「…だね」
私はふうを溜息を吐く。
は私の前の席の椅子を引くと勝手に座った。
椅子をまたぐようにして座って、こっちを向いている。
(女の子としてその座り方どうなの)(まあいいけど)
足をぶらぶらと揺らしながら、言ってくる。
「しぶといねーアンタも。沈んでないと思ったら諦めてなかっただけなんだ?」
「そんなことないよ」
ブーと口を突き出す。
私ってそういうキャラに見えてるのかね…。
まあ、実際そういうキャラなんだけどさ。
最近はたまに、作ってる感じが我ながらするけど。
「じゃあなんで見てるの!?」
「えー…」
確かに。
私もそれが疑問なの。
もう好きじゃないはずなのに。
本当はまだ好きなの?
きっと違う。
じゃあどうして見てしまうの?
「癖?」
「…クセ?」
「うん、クセ」
「………」
私は短く答える。
は黙ってた。
で。
パコーン!
「そんな理由で納得するかい」
「酷い!殴ることないでしょ!!」
の凶暴女。阿呆ー!
本当のこと言ったのに殴るなんて…。
(しかも結構痛かったし)(怪力め)
「でも、本当なんだって」
「意味が分からない」
「だからね、ずっと背中を目で追ってた名残なの!」
クセ。
そう、これは一種の習癖。
もう好きじゃない、はずなのに。
目で追ってしまう。
気にしてしまう。
胸が痛む。
…最後の一つは、違うかな。
「てっきり、アンタは大石に心変わりしたと思ってた」
――――……。
の突然の言葉。
私は固まる。
「へ……」
「違うの?」
………。
「違う」
「あそ。お似合いだと思うけど」
はつまんなそうに下唇を突き出した。
だけど…大石?
そんなこと、考えたこと全く……ちょっとだけあったけど。
でも、まさか恋なんて。
あの時感じたヤキモチは、ただの独占欲の塊のはずだった。
でも、本当にそう言い切れるの?
「少なくとも、大石はのこと好きだと思う」
「……マジで?」
「うん」
清々しく即答された。
言葉を鵜呑みにするつもりはないけど。
それでも。
こう言われてから意識するなんて、ずるいかな?
ううん。
この鼓動は、
少し前から。
速度を上げていた。
「とりあえずー、菊丸なんて綺麗に忘れな」
「ありがと。そうする」
とはいえ。
綺麗に忘れるなんて、無理だけど。
綺麗な思い出として残すのは、いいでしょう?
過去に縛られるのとは違う。
思い出として残しておくだけ。
それが、直接未来への足掛けとなったら。
「で、大石狙うの?」
「考え中」
「おっ、ちょっとだけ乗り気だね?」
―――私の心は、希望の光で満ち溢れていた。
やーっと進展してきた。遅。
両想いなんだよてめぇら。早ぅくっ付いちめぇ。(ぁ
でも、まだまだ躊躇しますよ。けけけ。
どうせ私は気の多い娘。
2日連続で違う相手にプチ失恋してみたり、
その日には既に新しい人に目をつけてみたり、
2日後に友人の勧めでターゲットロックオンしたり。
好きでもないはずなのに背中を追ってしまうのはきっとクセ。
夢に勝手に出てくるのは過去の名残。
今のワタシじゃないはず。
リハビリ作です。
2004/05/23