明日。

明日には、私はここには居ないんだ。


切ないながらの、楽しい滞在最終日。




色々思い出すし、

色々懐かしい、ね?











  * Youre always my best! *












前と同じ。

一緒に街に出かけて、
ファーストフード屋でくっちゃべったり。
カラオケ行ったり、買い物したり。
ドーナツ食べたりクレープ食べたり。

だけど、今日はちょっと違う。





私たちは今。

小学校の校庭。


「結構大変だったわね、柵越えるの」

「ホントだよ」


ここまでして入ることか?
っていうか、入っていいのか?

という疑問はさておき。

鍵を掛けられた門を越えて、私たちは今、ここに。



校庭を横断する。
あの頃より大きくなったつもりなのに。

広いね。



「懐かしいなー…」



呟いたは。

パシッと。



「…?」

「いいでしょ、今日くらい」


「……うん」



私たちは。

久しぶりに

手を繋いだ。


払い取るように、後ろ側から掴まれた手。


温かい手。

懐かしいね。

そういえば、前は良くこうして歩いたっけ?


「3年前、私たちはここを卒業したわけだ」
「うん」

「そのまた3年前だっけ?が入ってきたの」
「ん〜…4年弱ってとこ」
「そっか」


そうそう。

私が日本を発ったのが、3歳。
帰ってきたのが、小学校3年生。
ドイツに旅立ったのが、中学校3年生。

時は、一定のリズムを築いているのかもしれない。


指折り数えていたがこっちを向く。


「私の方が大石より付き合い長いんだよ、アンタと」


はそう言った。笑顔だった。

それは勝ち誇った笑みだったのか、
そうすることで勝った気分を保っていたのか。

私には分からない。



朝礼台に肩を並べて座った。
身長差は10cm近くあったはずなのに。
こうして座っていると、目線はほとんど同じ。
(ごめんなさいね短足なんです/ぬいぐるみ体型)

嫌いじゃないや。こういうの。


がいなかったらさー…私どうなってただろ」


言い終わって数秒は横顔を見せていたは、
ニコッとこっちを向いた。


「身体売ってたかも。耳も穴だらけ。少なくともスポーツで青春なんてありえない」


驚くほどにスパッとそう言ってみせた。
不良娘と化しているを想像してみて、
一緒にバレーのコートで汗を流した姿を思い起こして。

ああ。全然こっちの方がいいじゃん。

卒業したのをいいことに、昨日(卒業式当日よ!?)の打ち上げの段階では
既に髪を茶色く染めていたその行動力には驚いたけど。


だけど。ちゃんとしっかりと。だよ。



「あたしも…と会わなかったら、今どんな子だったろ」



記憶は一瞬、7年前へと遡る。





  ***





です。よろしくおねがいします…」


パチパチと拍手。
当時小学校3年生の私、こんなにも大人しかった。

先生が、子供に語りかける口調で、
さんはニューヨーク、知ってますか?
 アメリカの、ニューヨークという場所から来ました」
と、クラスメイトに説明したのを憶えている。
よほど私は緊張していたのだろう。
その頃のこと、結構鮮明に思い出せる。

不安で、キョロキョロと先生の様子を窺いながら、
クラス全体を見回してみて、また視線を逸らして。

案内されて、空いている席に座った。
隣の席の子は、ずっとニコニコしてた。
学校のこと、沢山教えてくれた。

嬉しかったけど、私は顔をなかなか上げられなかった。
嫌な子かなって思ったけど、どうしようもなくて。


教えてくれた中には、こんなことも。

「あの子…居るでしょ?ここら辺で髪結んでる子」

隣の席のその子は、後頭部の辺りに手を当ててみせた。

「あの子ね、ちょっと変で、怖い子なの。だからみんなあんまり話さないよ」

ふ〜ん…。
私は、隣の隣の隣の席の子を見た。

怖いんだ。どんな子なんだろ。






時は流れて休み時間。
私はクラスメイトに連れられて、校庭にやってきた。

みんなが一斉に走っていく先についていくと、そこにはブランコ。
私はブランコが大好きだから嬉しかったけど、
そこには4つしかなくて、人数分は足りない。

そうしたら。

「ねーねー、さんは転校生だからやらせてあげようよ」
「「さんせー!」」

とかなんとかで。
私は優先席を譲られる老人かのようにそこに座った。
嬉しかったから、笑顔を作ったけど。
今考えてみれば、言葉は何もいえなかった気がするな。


きーこきーこ。

風を切るように、足を動かす。


すると、横に沢山集まってきて。
「ね、アメリカ語しゃべって〜」「バカ、英語っていうんだよ」
とかなんとか、色々と声が掛かってくる。
(小3ぐらいって、一番転入生に過敏じゃないですか?)

私は足でブランコを止めた。
すると、男の子たちは余計詰め寄ってくる。


「ねーねー、しゃべってみてよ!」
「えー…」


喋るって言われても。
話す相手も居ないし。
内容も分からないし。


「うんうん、聴きたいよね、エーゴ!」
「しゃべってぇ」


それに人とか沢山押し寄せてくるし!

何か。


…怖。



「(…ふぇ)」

「やめなよ」


「―――」



そこに居たのは。

怖いという噂の…。


…あれ。名前なんだっけ。



「困ってんじゃん」


そう、一言だけ。

た、確かに……怖…。


けど。
嬉しかった。



「ごめんね、ちゃん」
「ううん…」


謝られながら、横をちらりと見た。

……。

視線は合わせてくれなかった。








転校生人気なんて、ほんの数日だけ。
大人しいし口下手(だったんですよ!)な私の周りからは、
次第に人が減っていった。

元々あったグループに定着したのだろうか。
みんな、楽しそうにおしゃべりしたり、お絵かきしたり。



別に、寂しくなかったけど。
だって、アメリカもこんな感じだったし。

もしかしたら、あんなにみんなに注目してもらえたのなんて。
…貴重な体験だったのかな。


帰り道。
曲がりの少ない真っ直ぐな道を歩いていると。


「……あ」


そこに居たのは、あの子だった。

名前、分からないし。
えっと…どうしよう。

声掛けたいけど。
てか声出しちゃったし。
だって目が合ったんだもん。
というか今も見詰め合ってませんか?

ちょっと私はたじろいだ。
だけど。


さんだぁ!」


にぱっと。
驚くほどの笑顔を、その子は見せた。

…あれ?


「帰り道こっちだったんだね」
「う、うん…」
「一緒に帰ろ〜」


そのまま。

勢いで、私たちは一緒に帰ることになった。


嬉しかったけど。
ちょっと恥ずかしかった。


「えっと…なんて呼べばいいの?」
って呼んで」


そう答えた。
二人で歩く帰り道は、楽しかった。

が話すことに一生懸命耳を傾けて、
それでもたまに言ってることが理解出来なくて。
(当時は今以上に日本語不自由だったわけです)
にも関わらずニコニコしていたら、
「本当に分かってる?」っては聞いてきて。
曖昧な笑顔を見せると、「はっきりしてよ」とは怒った。

やっぱり怖いや…。
そう思いながら、私は下を向いてしまった。


は。

何も言わず。

沈黙を守ったまま。


私の手を。

パシッと。


くすぐったくて。

恥ずかしかったけど。


手が、あったかかった。



歩道橋の下、別れ道で手を離すのが淋しかった。
バイバイの挨拶は、随分と長く掛かった。


そのまま、気付けば私たちは大親友になっていた。
クラスの中でも、誰も入り込めないってぐらい仲良い、親友。


ただ、にこにこしている私に怒るは。
たまに、ちょっとだけ、怖かった。


でも今になってから考えてみれば、
私の態度に怒ったは正しかったと思う。
私って、どうもはっきりしなくて。
あれはいけなかったと思う。

帰国子女は自己主張が激しいとか言うけど。
それは周りに揉まれに揉まれて強くなった場合で。
私はというと、初めて入った社会で言葉が通じず、
そのまま消極的な存在として、自己主張どころか、
どんどん小さくなっていくことばかり学んでしまった。


だけど今は変わって。
ここまで図々しくなってしまいました。

ちょっとずつ明るくなっていく私の周りには、
友達もちょっとずつ増えてきて。
それが嬉しかった。


みんな、変わるんだね。
それが大きいか小さいかの違いだけで。


しかし私は、未だにの突然の態度の豹変ぶりの理由は、知らないまま。

なんで、あんなに明るく、
私に声を掛けてくれたんだろう…。



一緒の小学校を卒業して。
同じ中学校を受験して。
共に部活で青春燃やして。

そして今、ここに。




「…なんか、突然色々思い出しちゃったよ」

「私も」


も、か。
同じこと、考えてた?
同じ頃のこと、思い起こしてたのかな?



は空を見上げてる。
太陽は、まだ見える位置にあるけど。
高層ビルが高いこの辺だと、もうすぐ陰に隠れてしまう。


「私…さ」
「うん」
が転入してきた頃…離婚騒動で大変でさ」

―――…。
初めて聞く話だ。

「学校休むこととか早退することとか、多かったし。
 家庭が荒れてるものだから、それも学校で出て」
「………」
「仲良くなった子も、みんな遠くなった」


…嘘だ。

知らない、私。
のそんなこと…知らない。


「あの頃ね…私、最高に暗い子だったよ。クラスで一番ぐらい」


そんな。

って言ったら。
いつでも明るいし。
ハツラツとしてるし。
ちょっとキツイとこあるけど。
ぐいぐいと引っ張ってくれて。

私の憧れだった。

もしかしたらこれは恋?と勘違いするほどに。
冗談みたいだけど。本当だよ。


「じゃあ、は乗り越えたんだね?」
「ん、そういう言い方もあるけど…」
「えへへっ。あたしと一緒だよ」


友情っていいな。
そう思った。
掴んでいる手をぶらぶらと揺らした。

はちょっと照れた感じで話す。


「私ね、必死だったんだよ」
「何が?どうして?」
「転入生。捕まえて友達にしなきゃ、と思って」


…これまた初耳。
もしかしたら、それでかな?
突然態度が変わったのは。


「優しくしなきゃ、とは思うんだけどさ。
 ついついキツイこと言っちゃって…悪かったわね」
「ううん、あたしこそ…ウジウジ虫でごめんよぉ」


何それ、っては笑った。

、大好き。
恋情じゃなくて、友情だって有りでしょう?



は大きく息を吐いてから。


「私たち…さ」
「うん」
「随分長いこと一緒に居たけど、さ」


ちょっとだけ、切なそうな顔をした。


「結構知らないかもね、お互いのこと」


私は顔を伏せて。
掠れるような声を出して頷いた。

くすぐったくてもどかしい手は、そこで離された。



「さ、そろそろ帰ろうか」

「そだね」



夕日は、そろそろ消える。
地平線とは言わぬ、ビルの輪郭の彼方へ。


「アンタ、これから大石と会うんでしょ?」
「あ、うん…」


そうだ。
さっき買い物中、偶然に出会って。
6時に会うって約束をした。

今は5時半過ぎ。
一回帰るとなると、結構ギリギリだな。



は、ふぅ、と溜息を吐いた。



「いつの間に、私はアンタの一番じゃなくなったんだね」



ズキン。


ちょっとだけ、痛かった。

そっちはもっと痛い?




「私の中ではまだ、が一番なんだけどな」





そう言って、切なげな笑顔見せて。

「私もカレシ探そっかなー」と背中を見せた。






ごめんね。

ありがとう。


いつまでも、一番だよ。


一人じゃなくたっていいじゃん。

みんながみんな、一番で。




が一番だよ」

「まーた、そんなこと言っちゃって」

「んーん、ホント」




私たちは肩を並べて歩いていて。
だけど、いつの間に手を離していたっけ?


でも怖くないよ。

手が離れたって。



「帰ってきたら遊んでくれね」

「そーね、遊んであげてもいいけど?」

「なにその言い方ー!!」



ど突き合いをして。


笑顔交わして。

手を振って。




そこで、バイバイ。



いつまでも一番大好き。






















もう既にドリーム小説の原型留めてません。笑。
大稲シリーズって、ドリームなんですヨ。
神栖さんはね〜。私の友達の集大成なの。

これを読んで楽しめた人が居るとは思えない。(私含む)
でも残しておきたかったから思わず書いちゃった。てへ。
ビバ、神稲真ん中BD!ってことで。

まとまりねーな。ごめんなさぁい。。


2004/05/18