* 流れる雲のように時もまた *












 去年の誕生日は

 確か母の日だったっけなぁ。


 今年は一日ずれてるんだネ。

 時が流れるのって速いなぁ。




口を開けてぼうっと空を眺める。

視線を下に落としてふわっと微笑む。


普段なら絶対にこんなことしない彼の髪をそっと撫でた。




「触るな」

「あれ、起きてたの」




薫は居心地悪そうに体の位置を直した。

私はスカートの皺を調えた。




 放課後。


 屋上。


 青空の下。




普段だったら、授業や当番を終えるとすぐに部活へ走っていくアナタが

今日はこうして私の膝の上に体重を預けて寝転んでいる。


それだけで。

こんなにもシアワセ。



もう、ホームルームが終わって30分近く経つ。

さすがに一般人は掃除当番も部活の準備も終えている頃だ。



「部活、いいの?」

「…たまにはいい」



そう言うけど。

テニスコートの方向から「ファイオー」の掛け声が聞こえるたび、

アナタが片目だけを開けてその方向へ耳を傾けていること、私は気付いてる。



気になるんだね。

だけど、ここに居ることを選んでくれてるんだね。




アナタは私にたくさんの幸せをくれる。

私もちゃんと、アナタに与えられているのかな?



「薫、足痺れたからどく?」



言ってみた。

嘘だけど。

そう言えば、部活に行きたいだろうはずのアナタは

体を起こしてそっちへ向かっていくと思ったから。


なのに。




「……寝ちゃった?」




まさか、フリってことはないでしょう。

そんな茶目っ気を働かすような人じゃない。


だけど、特別な日だし。



どちらにしろ、ここに居てくれるわけだ。



くすっと微笑を洩らして。

「お誕生日おめでとう」と呟いた。




 空に浮かぶ雲を見上げた。

 時の流れが随分とゆっくりに感じられた。


 そっと、髪を撫でた。




「む、本当に足痺れてきた…」

「…やはり演技だったか」

「うわっ、そっちこそ!!」




本当に起きていたみたい。

つまり、それは…。


……そういうこと?




とにかく、ここに居てくれるんだね。




遠くからは元気な掛け声が聞こえてくる。

だけどアナタは、その後一度も目を開かなかった。




風に流されていく雲に、時の移り変わりを感じた。





   ハッピーバースデー。






















昨年の海堂BDに書きました
『幸せ配達人』(裏々)の続編です。
ほのぼのを心がけたそんな一品。

部活に行きたいんじゃないかな、と心配な主人公と、
気になってはいるけどもっと大切な物があるぜ、な薫ちん。
可愛いなぁ…。(何)

最近こういう題名好きだなぁ。
文章のようで文章じゃないベンベン。

とにかく薫たんハッピーバースデー。


2004/05/10