* 不安さえ感じた視線は今 *












今日から、新入生が部活の見学に来ている。

しかし、俺は気になることがあって足を止める。


「………」
「どうした、大石」
「ああ、乾」

返答とは言い切れない返事をして、
俺はその気になる先へ視線を向ける。

「…どう思う?」
「んー、そうだな」

乾は顎に手を当てて考える。
俺はその横顔を見ていた。

と。


「気の強そうな唇、全体には大きい割に瞳は小さい目、
 不機嫌にも見える一歩据えた表情…結構好みだけど、何か?」

「……」


どこまでが本気か分からなかった。
乾はこういうところが難しい。

「あの乾、そうじゃなくて…」
「分かっている。育てればいい選手になるな」
「そうでもなくて」

その少年に目を向ける。
向こうはこっちの視線には気付かない。

気になること。
それは。

ずっと、一人なんだ。


「友達とか居ないのかな…」
「無理をいうな。まだ入学ばかりの一年生だろう?」
「そうかもしれないけど…」

ぽつりと呟くように言った俺に、
乾はさも当然と言うように言い返してきた。
だけど俺は納得がいかない。

周りを見れば、最低二人以上で固まっている。
一人でいるのは、その子だけなようだ。
ただ、ひたすらに既存部員がプレイするのを凝視している。

「信念が強そうだ。やはりいい選手になる」
「そう、かもな」
「…声色が冴えないけど」

まだ言いたいことでも?と。
乾は眼鏡を吊り上げた。

やっぱり。
乾のこういうところは…少し苦手かもしれない。

俺は苦笑いをする。


「いや、なんでもない。さあ、練習の続きと行くか」


ちらりと振り返ってから、コート内に戻った。







何故だろう。
練習中も、視線が気になった。

テニス部の練習を女生徒などが見に来ることは良くある。
それでも、これほどまでに気になったことはなかった。

今日の俺は、随分と集中力が欠けていたに違いない。
練習中、何度もフェンスの外に視線をやった。

幾度か視線が搗ち合ったけれど、向こうはその目を動かさなかった。







信念のある、強そうな、目。

だけど、寂しそうだと、そう感じてしまうのは、俺だけか?







部活は終盤へと向かう。
そのとき、先ほどの子が部室へ向かうのが見えた。
俺は順番待ちの状態であったし、
様子を覗いてみることに決めた。
頭の中では、どのように話し掛けようかなどもこっそり考えていた。

と。


「大石」
「…乾!」
「どこへ行くんだ?」


訊かれて、一瞬固まって。
別にやましいことでもなんでもないのに、
「タオルを取りに…」と言った。

すると乾は。


「ウソ」

「……」


やはり、乾は苦手だと思った。


「まあいい。俺も部室に行く用事があるんだ。一緒に行こう」
「そうなのか?」
「ああ。いいデータが取れそうだ」

にやりと笑った。
何を考えているんだか分からない。
難しい…乾は読めない。



部室に近付くと、なにやら騒々しい音が聞こえる。

何だ?


疑問に思いつつ、扉を開け放つと。



 「………」



一瞬、開いた口が塞がらなかった。
新入部員2名…恐らく、初対面であろう、が
大声を張り上げて喧嘩をしている。

即座に平静を取り返して、止めに入った。


「何をやっているんだ新入部員!」

「大体てめぇ馴れ馴れしんだよ!」
「てめぇこそ、蛇みたいなツラしやがってよ!」

「やめろ2人とも!」


と。

振り上げた腕に辺り、俺はロッカーへと叩き付けられる。
おまけに、上からはボール籠が降ってくる始末。

悲惨だった。


「こら!いい加減にしろ!」


いくら注意しても、聞いてくれる様子はなかった。
乾は乾でノートを広げているし…なんだっていうんだ。


はぁ、と溜息を吐いた。
だけど…なんだろう。
微かに、安堵感のようなものがあった。

そこで喧嘩していたうちの一人は、先ほどの少年。
必要以上の落ち着きさえ感じさせる寂しそうな目は、
完全に釣り上がって闘志剥き出しになっている。

友達…という様子はないが。
例えば喧嘩友達。例えば敵同士。例えばライバルだって。

時には支えになることを感じた。


「大石」

「ん?」


ノートをぱたんと閉じると乾は不敵な笑みを浮かべる。



 「安心できたかな?」



俺は、苦笑いを返すしかなかった。
やっぱり、乾はこんなところが苦手だ。




結局、喧嘩している二人は無理矢理に制した。
渋々と肩を並べてコートの方に出てくる二人を見、
俺は思わずぷっと吹き出してしまった。


もう、大丈夫みたいだな。



その後の練習、もう視線は気にならなくなった。
ただ、たまにフェンスの外に目を向けると、
いがみ合っている横目の二人が見えた。

今度は喧嘩しないかとはらはらして、
やっぱり集中力はかけていた気がする。




そして翌日、二人は揃って正式に入部届けを提出してきた。

良い選手になってくれると思った。



しかし、たまに考える。

もう、あの目を見ることはないのか、と。

見たいわけではない。寧ろ見たくない。

だけど、寂しげだったあの視線はどこにいったのかと。


今でもたまに、ふと探してみるんだ。






















海堂BDなのに大石主人公…!(白目)
まあいいや。長年念願だった大海が書けたよ。けけ。
でもこれ大海じゃなくて乾大(逆?)だよ。。

えー。お節介大石。海堂に一目惚れ。ェ。
なんかよく分からんよ。この小説のCP何!?
大海でいいんだよね?ね!?
桃海メインっぽいし乾大だし…ああ、もういい。

よく分からんけど書けて良かったわ。
『In Our True Color』の続編。一年前の話。


2004/05/10