* 悔しいね。 *












最後のリレーで一位になって。

体育祭優勝は我がクラスとなった。


斜め後ろを見ると大石の姿が見えたので、
勝利の感動をともに分かち合おうとした。


「お…」


声を掛けようとした。

だけど大石は、私に気付くことはなく、
すぐ後ろまで駆けていって。


「どうした」

「…全然走れなかった」


ぽつりと。

小さな会話が、耳に入った。


まだその時周りは勝利の余韻に浸っていて、
明るい表情で手を合わせあっている。


だけど。

そんな会話が気になって私は体を後ろに傾ける。


「うちのクラス、一位だったじゃないか」

「…ヤダ。ダメ」


短い言葉だけを述べて、
顔を覆うと泣き始めるクラスメイト。

私は何か言ってあげようとしたけど。出てこなくて。


「でも、普通に速かったぞ」

「うんうん、ちゃんと走れてたよ」


他の子も加わって宥め始める。

だけど当人は、ずっと顔を覆っていて。



ああ。悔しいんだろうな。

元々走るのが速い子だから。

練習も誰よりも一生懸命だったし。


なのに、数日前に怪我をしてしまった。

それこそまさに、リレーの練習中。

練習のし過ぎが逆に祟ったのか、筋を違えてしまった。


もしかすると本番に出られないかもって、何度も言ってた。

それなのに、最後まできちんと走り切って。

充分すぎるほどに役目を成し遂げていた。


だけど、その子は泣いている。



それほどまでに頑張っていた子だから。

周りから見れば充分でも、本人の納得がいかないんだ。



顔を覆ったまま、肩を抱かれるその姿を見て。

私も一言掛けてやろうと思ったけど、
何て言ってあげればいいかイマイチ分からなくて。


よく頑張ったよと言ってやるべきか。

次回はもっと頑張ろうと言ってみるべきか。

それともおちゃらけた言葉で笑いを狙ってみるか。


どれも適切な気がしなかった。だからやめる。




ただ

顔を覆うその小さな肩と

それを包んだ大きな体を見て


胸を引き裂かれそうになった。




顔を覆ったままのその子の肩を大石は抱いている。

その状況を見て誰も冷やかしはしなかったし、
だからといって見てみぬふりもしなかった。


皆、言葉を捜している。

だけど見つかりはしない。



私も、何か、言ってあげたかったけど。

結局何も言えなかった。


言えなかった。





暫くして、落ち着いたらしいその子の様子を見、
大石は漸く体を離した。

「大丈夫」と言いながら目の周りを擦る。

大石はその子を切なそうな、少し愛しそうな目で見やり、その場を離れる。


私はまた皆に囲まれるその子と、
振り返らなかった大石を同時に目にした。


と、目が合ってしまった。

大石はちょっとはにかんだ笑いをした。



「折角勝ったんだから、みんなで笑顔で迎えたいよな」



そうは言いながらも、大石こそ満面の笑みじゃなくて。

心を分かち合って、痛みも感じてるのかもしれない。

泣いてるあの子を見て、自分もまた。



もしかしたら、大石…好きなのかな?


ズキン。





あれ?

なんだろ今の。


変だな。



なに、私。

大石取られたみたいとか思ってるの?

バカ。

元々、私のものなんかじゃなかったじゃない。

そうだよ。

大石は誰にでも優しい。

私だけでなく誰にでも、例外なく。



私を支えてくれるのは大石だけだったけど、

大石が支えているのは私だけじゃないんだ。



……。



やだな、何これ。

失恋したみたい。


やだな。


もし私が今ここで泣き出したら、

大石は私の肩を抱いてくれるだろうか?



だけど、このことは相談できないと思った。

私を支えてくれる人がいなくなるんじゃないかと思って怖かった。


それでも大石は私の前に立っているから、

作り笑いで切り抜けるしかなかった。



「やったね、優勝」

「ああ」


パンと叩き合った手。

私の手より、ずっと大きかった。



とにかく今日は疲れた。

家に帰ったら、ゆっくり休もう。



私は満面の笑みで手を合わせている友達の輪に飛び込んだ。






















体育祭ネタ。でも多分青学は学年対抗。(ぁ
漸くこのシリーズに展開が…!(微悲恋美悲恋♪)
でもまだ気付かない。それともまだ違うのかしら?

後輩のAちゃんへ。よく頑張ったよ…!
涙が出そうだったよ。マジで。
本人的に納得言ってなかったんだろうなぁ。
何しろ練習の時は一番頑張ってたもんな。

ソーラン節より。あーソーランソーラン。


2004/05/08