「もしもし」

「やほ」


家について、丁度落ち着いた頃に掛かってきた。

向こうはこっちの生活リズムを理解しているようで、

嬉しいような悔しいようなくすぐったいような。

なんだか不思議な感じがした。



私が家に帰って、暫くして。

つまり。


電話は、日本の12時に架けて…だった。











  * 今ひとたび安息を *












なんだろね。

去年は、メールで事前に連絡してまで

こっちの12時まで起きてるように言ったくせに。


ドイツではまだ日が照ってる。

…雰囲気出ない。

シュウもそれくらい分かってるはずだよね?


確かにさ、こっちの12時って言ったら向こうは朝早いし大変だけど…。



これって、愛情の薄れじゃないですよね……。




出だしから不安になった。

考えすぎだとは思うんだけどさ。

そもそも、電話もらえるだけで嬉しいのに。


なんだろね。

これが甘えっていうのかな。



「考えてみると…そっちはまだ昼って感じだろ?」

「あー。まだ夕方って感じすらしないね」


窓の外を見ながら私は言う。

するとシュウはこう言う。



「でも実際に生まれたのは日本だもんな」



…反則だ。


「時間的には生まれてないもん」

「そうか」


シュウは苦笑交じりに言う。

意地が悪いな、私も。


別に、不平があったからそう言ったんじゃない。

嬉しかった、から。

照れ隠しというか。

なんでこんなに優しいのって。

泣きそうになるのを誤魔化したかったから。



愛情の薄れなんかじゃないよ。

バカ

シュウは、こんなにもこっちのことを考えてくれてる。

分かってないのは私の方だ。



二人の間は、一時の静寂。



シュウは黙ってる。

何で喋らないんだろう。

と思い私が口を開いた時、

タイミングを見計らったかのように声を出す。





 「お誕生日おめでとう」





時計を見たら、日本は12時になった瞬間だった。

タイミングを見計らっていたのは、

そっちのことだったのか。




…バカシュウ。


バカバカ。



ばか。




「…ごめんね」

「ん?礼は言われても謝られる憶えはないぞ」



それともやましいことでもあるのか?


そんなことを訊いてきた。

冗談交じりだったとは思うけれど。


私は首を振って否定のつもり。

言葉として伝えたのは「ありがとう」だけ。


シュウは、それをどんな風に受け取ったかな?



「それじゃあまたな」

「うん。本当にありがとう!」


そうしたらシュウは、

"Happy Birthday to you."

なんて言うから、どうしようかと思った。



だいすき。










夜。

11時ごろになって。

大あくびをしている自分に気付いた。

そういえば最近睡眠不足気味だしな…。

12時まで起きてろなんて言われても

力尽きてたか…も……?



「―――」



まさか。

でも、もしかしたら…。



記憶の糸を辿ってみる。



『最近寝不足なの』

『大丈夫なのか?』

『うん平気。やりたいことが多すぎてさ!』



宿題多いし遊びたいし忙しすぎだよ〜、と。

愚痴交じりの笑い話を交わした記憶。


メールでのそんなやり取りを思い出した。




シュウ…。




零れてきた涙はそのまま流した。

エヘヘと呟いてすすり上げた。

独り言のような、微笑み。


眠いけど、眠れそうにないや。


なーんて思ってても、きっと布団に潜れば

全て忘れて夢の世界へ落ちてしまうのだろうけど。



さようなら。

16歳のアタシ。



目が覚める頃には、そっちでもこっちでも生まれた時間でも。



新しい私に、なってるはずだから。

新たな一歩目を、踏み出すから。






だから、今はひとたびの眠りを。






















珍しく(?)しっとりと終わる0017。
誕生日記念でごじゃり。自分おめでとう。
豪快に歳をバラしたけどこの際何でも有り。

“Birthday〜歩き始めた日〜”を聴いた記念でもある。
聴きましたよ!きねん↑びになるぅ♪
大石に英語でハピバとか言われた!
と浮かれまくりで泣きじゃくってました。笑。

題名がイマイチ気に喰わない。
あとで直すかもしれないし放置かもしれない。


2004/05/06