* おつ。ごめ。ありがと。 *












放課後。

選挙管理委員の私は、
授業が終わった後も教室に残っていた。
やりがいはあるけど、大変な仕事。

だけどね、教室には一人じゃなかったの。
もう一人、委員会の仕事で残っている人が。


大石くん。私の好きな人。


席は随分離れてるけど。
一生懸命仕事をしている後ろ姿を、
私はずっと見ながら作業をしてた。



同じ部屋に二人きりで居るってだけで
なんだかドキドキした。

話し掛けてみようかな、とも何度も思ったけど
その度に言葉を飲み込んできた。



 好き だけど

 好き だから

 話し掛けるのは難しい。



意味も無いのに溜息を吐いてみたり。
わざシャーペンを落として「あ」と呟いてみては
必要以上に物音を立てながら拾い上げてみたり。

色々と気を引こうとしてみるけど、効果はなし。


結局、黙々と作業を続けることになる。




暫くすると、仕事を終えたらしい大石くんは立ち上がった。

…このままでは、一人になってしまう。
そんな寂しい末路は嫌だ。


思い切って、話し掛けてみた。



「大石くん、一生のお願い!」

「ん?」

「…手伝って」



私と隣の机の上には、紙の山。
お人好しな性格でもあるし、
断りはしないだろうなと思った。


だけど、大石くんは固まっている。
もしかしたら凄く迷惑だった…?


と思ったら大石くんは笑顔になって。

「丁度こっちのが終わったから、手伝おうと思ってたところだよ」

……だって。


どこまで良い人なんだろう。
こんなに親切な人を使うなんて…。
図々しく頼んでしまった自分を呪った。


だけど、とりあえず作業開始です。



「ここの項目とここの項目のどっちに投票してるかカウントしてるの。
 私はこっちを数えて紙を回すからもう一個の方数えてくれる?」
「分かった。任せてくれ」


任されてくれちゃった。
男らしくていいなあ、なんてドキドキ。


雑談も交わしながら、作業は進む。
仕事は面倒くさいけど、
好きな人と一緒だと、楽しいね。





そうした時がどれくらい経っただろう。
窓の外はオレンジ色が濃くなっている。


ちらりと横を見た。
真剣な表情で投票用紙に目を通している。

私はぼそりと呟くように声を掛ける。

「思ってたより大変だね…これ」
「ああ。でも、一人だったらもっと大変だっただろ?」
「うん…手伝ってくれてありがと。ごめんね…」

いや、全然平気だよ、と大石くんは言ってくれた。


もう帰っていいよ。って、
本当は言ってあげたかったけど。

一人になるのは嫌だったし。
アナタがあまりに一生懸命だったから。
ごめんね、と、ありがとう、を。
何十回も繰り返した。






もうすぐ終わり、というところになって。
窓の外を見た大石くんが呟いた。

「外は随分暗くなってるな」
「本当にゴメンね。ココまで遅くなるなんて…」

私は顔をうつ伏せた。
すると大石くんは慌しく否定して。

「そうじゃなくて。さんが帰るときに嫌だろうなと思って」

夜道は不安だろう?と。


……なんでそんなに優しいの。

「私なら全然平気」
「そうか?」
「うん」

こう見えても柔道歴7年だったりするし。
ヨユー×2。


それより、帰らなきゃいけないことの方が嫌だよ。
だけど、口から出すべき言葉は逆の意味。

「とにかく、早く終わらせちゃお!」
「そうだな」

二人で居られる時間が終わってしまうのは残念だけど。
でも、いつまでも付き合わせるワケにもいかないしさ。

ちょっとの間沈黙が続いて。
夕日が完全に沈んだ頃、大石くんが声を上げた。


「よし、これで全部だな」
「うん…本当にありがとう」


私は腕時計を見る。


「わ、もうこんな時間」
「お疲れ」
「そっちこそ!関係無いのにこんな遅くまで…」

本当に申し訳ない…。
でも、大石くんは「大丈夫だよ」と言ってくれる。


「結構楽しかったしさ。気にしなくていいからな」



……優し。


どうしよう。

大好き。



涙が溢れそうになった。
大石くんの肩越しの窓の外に
一番星が見えたことも関係してるかもしれない。

本当は、早く帰らなきゃ親が心配するかな、とかあったけど。
居心地良くて、気付いたら雑談してた。
さっきまであんなに時間を気にしてた大石くんも、一緒になって。


だけど、いつか必ずお別れの時間は来る。



『グルル…』

「あ」


やだ、恥ずかしい!
お腹鳴っちゃったよ…。


「…お腹減ってきちゃった」
「そろそろ本当に時間がまずいな」


照れ隠しに微笑交じりに言う私。
大石くんは詳しくは触れずに壁に掛かった時計を見上げた。

私はその時計と、自分の時計と、窓の外の色を見比べる。


「んじゃ、この辺でお開きとしますか」



立ち上がる。

なんか、淋しいな。





話を続けながら下駄箱へ。
立ち話を続けていたい、なんて思っているのは私だけ?


「それじゃ、またな」
「うん。バイバイ。今日はありがと!」


送ってくれたりしないかな、なんて虫の良すぎる期待。
だけど、アナタは笑顔で別れを告げる。

だから、私も。


「本当にありがと。またね!」


思い切りの、笑顔で。




私は一人で帰宅する。
スキップのような小走りで。

暗い夜道なんて怖くない。
振り返らず前を向いたまま走った。



明日になったら、一歩近づけてたらいいな、なんて。

虫の良すぎる期待だけど、ねぇ、いいでしょ?



本当にありがとう。私は笑顔で走る。






















あの人って自分のこと好きじゃない?
と期待してみるけど実際は違ったり。
そんなことってありませんか?あはは。
(私が自意識過剰なだけですか)(痛い)

微悲恋の一歩手前。でもこれは違う。
成就はしてないんですけどね。
片想いを楽しむか切なく思うかの差です。

クラフティガールですみません。真美ちゃんへ。
愛情にあらず友情で。本当にありがとう!


2004/05/02