* "So, what was it?" *












転校生が来た。



「アメリカから来ましたデス。ヨロシク!」


独特のアクセントが掛かった日本語。
わざとらしいように聞こえなくもなかったけど、
彼女にしてみたらそれが精一杯なのかもしれない。

髪は茶パツ。耳にはピアス。
一般的な印象でいえば、“不良少女”というやつかもしれない。

顔付きは日本人だから、染めたのだろう。
ピアスは校則違反じゃないのだろうか…。
学級委員なんかをやっているとそんなことばかりが目についてしまう。
(それとも、地の性格なのだろうか…)


「よろしくネ」
「あ、ああ。宜しく」


隣の席の女子を。
思わず全身くまなく見回してしまったなんて。

別に、帰国子女だから気になったとか、
不良のような格好が目に付いたとか、
そんな話じゃあないと思う。


何故だろう。

何か、別の理由があるような。



気になった。





  **





休み時間。

さんは早くもクラスに打ち解けているのか、
輪の中心で楽しそうに話していた。


安心した。





授業中。

何度も横から声を掛けられた。


「コレはどうゆうイミ?」

「アノ先生の話しかた、ちょっとヘン」


些細なことでも話し掛けてきた。
迷惑とは思わなかった。
いや、寧ろ。


嬉しかった。





昼休み。

一人になっている彼女を見た。

「みんなはどうした?」と訊くと。
「んー…」首を傾けて上を見て。
こっちを向き直すと、はにかんだ笑みを見せた。

「日本語、ムツカシイね。ちょっとだけツカれた」

…何かあったのかな。


心配になった。





部活。

まだ活動は開始していなくて、
準備を進める者や打ち合いを始める者や、様々だ。

その中で、目に付いたのが…。


「(越前、準備もしないで立ち話なんか………え?)}


越前が話していた、その相手は。



さん…」だった。



どうして二人が?
彼女は今日転入してきたばかりだ。
委員会とかそういうことはないだろう。
近所とか?
他にどんな理由で知り合えるというんだ。


どうやって知り合ったのか。
それも気になったけど。

どうしてこんなに気になるのか。
それも不思議だった。


「…越前!」
「ん、あ…大石先輩」
「もう始まるぞ。早く準備しろよ」
「分かったっス」


越前は片手を軽く上げると、"Bye, then."と言った。
さんは両手を上げて"See ya round, Ryoma!"と言った。

…親しげだった。


動揺した。





早く準備をしろといいながら話し掛けるなんて。
間違っている気が自分でもしたけど。

さんと何を話していたんだ?」

思わず越前に問い掛けてしまった。
すると向こうは。

「…?」

訊き直してくる。
俺は眉を顰める。

「名前も知らずに話してたのか?」
「いや、…って。言ってた。ファーストネームしか知らない」

へー、って言うんだ。
越前はそう一人で頷いていた。

下の名前…。
一体どれほどの仲なんだ!?
その癖に名字すら知らないなんて…。


越前はふっと笑った。


「気にしなくていいっスよ。向こうではこれが普通っスから」


向こう…?
アメリカ、のことか?

ん…そういえば、越前もアメリカから来たんだったか。
しかし今言った、“気にしなくていいっスよ”というのは
一体どういう意味なのだろうか?

つまり…俺が気にしているように見えた、と。
(実際そうなんだけど。参ったことに)
越前は鋭い奴だとは思っていたけれど…もう気付いたのか。


「で、どんな話だったんだ?」
「別に…普通のこと」


がっついてる感じがして自分でも少し嫌だったけど。
気になるものはなる。

越前は、普通に話してくれた。
いや、普通ではなかった。


「まず、そこでぶつかって」
「へえ」

「"I'm sorry."って言って」
「うん」

「だから"No problem."って返して」
「ああ」

「"'ey, do you speak English?"って訊かれて」
「はぁ」

「そこから会話がスタートした」


……。

こういっちゃなんだけど、まとまりの無い話だと思った。
(そして主語が無いもので非常に分かり難い)

越前は普段あんまり喋らないし、
喋ったとしても不思議な発言をすることが多い。
もしかしたら、言語の問題とか、あったのかな?

普段なら考えないことだなと思う。

昼休みのことを思い出した。
ちょっぴり寂しそうな顔をしていたことを。

「彼女…俺の隣の席なんだけど」
「えっ?」
「ん?」
「いや…なんでもないっス」

越前がまたにやっと笑ったのが気になったが。

「やっぱり英語の方が楽なのかな。随分大変そうだった」

越前は黙ってた。
もしかしたら、越前もそうなのかもしれない。
それともただ単に上手く説明できないだけとか?

疑問に思っていたら、越前は突然話題を変える。


「なんでがココ…テニスコートに来たかというと」
「ウン」

らしくもなく、身を乗り出している自分に気付いた。
と、越前はニッと笑った。
そして口を動かした。

俺は瞬きを繰り返すことしか出来なかった。



「"Well, what she told me is that she was looking for someone.
She didn't mention the name but she said... that it's her neighbor.
I was thinking of a home meaning neighbor, but maybe my misunderstanding.
It's about the seat, isn't it? Oh, you won't be knowing anyway.
She said: "Isn't he hot?", so I just told that I don't know and
she kept on saying he's hot, he's hot, and so on.
So, okay. It was 'you' the neighbor. Yeah, sure. I've got it now!"」

「………」


な、何だったんだ。
英語は得意な教科ではあるけれど…全然分からなかった。

突然凄い勢いで捲し立てられたけど。
これが母語で喋る時の越前なのだろうか…。
だったらさんと会話が弾むわけも頷ける。


「"She was saying you're hot."」「先輩、カッコイイってさ」
「暑い?別に」

今日の気温はそれほどに高くないし…
ってどうして越前は笑っているんだ?
(hot : 好色な、セクシーな。まあ、カッコイイって意味で使いますね。coolより過激なイメージv)

「"Also, she told me afterall that she wants to go out with you."」
「あの人、先輩と付き合いたいって言ってましたよ」
「え?外?どうして」


辛うじて文章は理解できたけれど。
理解は出来ても意味不明だった。

そして越前が腹を抱えて爆笑しているワケも分からない。


「あの…越前?」
「いやいや、なんでもないっス」


越前が声を出して笑うのを初めて見た気がする。
何だか腑に落ちないけれど…
貴重なものを見れたということでまあいいだろう。

目の端の涙を拭いながら越前は言う。


「あーあ、面白かった。…先輩!」

「?」



 "Good luck!"



…何がだ。
全く分からなかった。

だけど……。


「じゃあ、別に越前とさんはどうってわけじゃないんだな?」
「どうって?」
「いや、だから、その…」

口篭もる俺。
越前は声を出して笑うことはなく、
いつものように鼻でふっと軽く笑った。


「冗談っス。なんの関係も無いっスよ」


最後に「頑張ってくださいね〜」と加えられたので、
ああ、やっぱり勘付かれているな、と思った。

ん、じゃあ、“グッドラック”というのはそういう意味だったのか?
どうして突然…。
それとも、それまでの会話が全て繋がっていたと言うのだろうか?


分からなかった。





だけど。

確かなものが、一つだけ。


この想いは、やはり、本物なのだろうと。
それを否定することは出来なかった。



微笑した。






















4月12日の日記より。所詮はネタ。
リョーマに英語を喋らせてみたくなったわけさ。
英語になった途端お喋りになっちゃったりすると
可愛いよなぁ萌だよなぁと思って。(所詮は中1)
言いたいことを言えるっていいよネ。

その癖に結局は大石夢って辺りが自分。
あーあ。なんでだろ…。
そしてこの大石のヤキモチ焼きっぷり!ありえん。

英語はそんなに難しい単語は使ってないつもりだが。
最後のちょっと変わった言い回しのみ反転法にしときますね。

しかしこれ、内容としてはどうなの?(滝汗)


2004/04/23