* 苦しいね。 *












 別にあの時のこと

 忘れたわけでもなければ

 傷付いてないわけでもないんだって。



 だけど私って

 だからといって泣き出すようなキャラじゃないでしょ?





みんながバタバタと動いてる。

机の上には鞄。


また今日一日も、私は元気。



。…ちょっと、ねぇ…ってば!」

「え?あっ、おはよう」


自分の名を呼ばれて、はっと顔を上げた。

前にあるのは友人の顔。

相手の様子を見るからに、暫くぼーっとしていた様子。



「…元気?」

「はい。元気ですけど」



訊かれてそう答えたけど。


説得力皆無。



「嘘吐け!今頃おはようとか言ってる時点でどうかしてるアンタ!」

「……あ、そっか」


向こうの溜息が感じられた。


いつの間にやら帰りのHRが終わっていた。

そうか、これから一日が始まるんじゃないんだ。
終わったところだったんだ。



「らしくないよー?今日、お昼の後からおかしかったでしょ」


お弁当食べてるときは普通だったのに…何があったの?そう訊かれた。

大したことじゃない。そうはぐらかした。




「元気出せー!フラれた翌日も元気に叫びまわってたアンタじゃん!」




ケラケラとは笑った。
いつもだったら私も笑いつつ「うるさいぞコンチクショー!」とか言い返すところ。


だけどね。

タイミング悪いよ。




私は強いから。

だから涙を見せるような子じゃない。

本当は泣き虫だったとしても

そう信じて強がることしかできない。



「生理痛デス。ちょっとトイレね」

!」



あからさまに嘘だったってバレバレ。

は追ってこようとした。


皆が鞄を持って教室を出て行く中、
私は手ぶらでその場を逃げ出そうとする。

だけど誰かに阻まれる。


顔を伏せてあるから、顔は見えない。

だけど、背が高くて痩せてる人だ。

あれ、この手は……。



「ちょっと、昼休みの話の続きがあるんだ。さん、お借りしていいかな?」

「…どーぞ」


戸惑いつつもはそう答えた。

そして…私は大石に腕を引っ張られて教室を出る。







そのまま屋上隅。

さっきもここで話した。


その時は日向だった場所が、日影になってる。


「…なに、さっきのわざとらしい発言」

「そういうだって…困ってただろう」


まあ、確かに。

…やっぱり大石は優しいや。



大石はゆっくりと腰を下ろした。

特に何も言ってこなかったけど、
そうした方がいいだろうと思って私も座った。


太陽が明るい。



「で、話の続きってなに」

「……話なんて、してなかったもんな」


そう。

昼休み、私と大石はここに居たけど。


何にも喋っちゃいなかった。

ひたすらに、私が泣き続けただけ。


大石は、そっと肩を引き寄せて、それだけだった。



「…それじゃあ訊くけど」

「うん」





  ―――どうして泣いてたんだ?





…ごもっともな質問でございます。



なんで。

なんで?

私だってよく分からない。


なんでだろう。



「嘘泣きでした」

「……え?」

「演技で泣きました」



大石は黙ってた。

それは私の話を信じてるからなのか、疑ってるからなのか。



「大石優しいから。それに甘えてたのかも」



私はそう伝えた。

大石は申し訳なさそうな顔をして言った。


「ごめん…あの時、俺教室から出るべきだった」

「ううん」


私は首を振ったけど。


ああ。

大石はちゃんと分かってくれてる。



昼休み。

大石に会いに、菊丸くんが来た。


視界の端を掠めるだけで、チクン。

近くに居ると感じるだけで、ズキン。

笑顔が見えるだけで、ドクン。


向こうはこっちの存在に気付いていないのか。

ずっと笑顔ではしゃぎ回っていた。




お弁当を食べている間は、
友達に気付かれまいと必死だった。


いつも通りの笑顔。空笑顔を作って。

これは私の特技だから。



食べ終わった後、屋上に向かった。


大石が来たから、私は泣いた。




そうだよ。

大石が来なかったら、私きっと泣かなかった。

構ってほしかったんだ。甘えてたんだ。


「一人の間は、泣いてなかったもん。泣く必要なかった」

「…俺が来たから、嘘泣きしたって?」

「ウン」


自信満面にそう頷いた私だけど。

大石はこんなことを言った。


「泣く泣かないは別として…構ってほしかったってことか?」

「ま、そうかも」


大石は私の手を握った。




 「寂しかったんだな」




……そうかも。


図星。いつもこの人はそうだ。

私ですら気付いていないようなことを、どうして、外から。



「それはな、嘘泣きっていうんじゃない」

「うん…」

「泣きたいのに泣かない以上の嘘は、ないよ」



そう言い切ってしまう大石。

なにかあったのかな?と思った。


やっぱりこれは甘えなのかもと思ったけど、また、頬を滴が伝った。


私の顔は、大石の胸の中に押し付けられた。






「…ごめんね」

「いや」




「……ゴメン」

「大丈夫だよ」







小さく、「ありがとう」と。


返事は返ってこなかった。






しゃくり上げるのは治まったので、顔を離した。


「本当に大丈夫か?」と訊かれたので、

「どうってことねぇ」とぶっきらぼうに答えた。


声を出して笑ってくれたのが救いだった。


「それでこそだな」

「どーもっ」


そうそう。

いつでも元気。

それが私の専売特許だもん。




ごめんね。

いつもありがとう、大石。


ゴメンね。




「大石ってホント優しいね」

「そんなことないさ」



これも自己満足だ。


いつだかそう言った大石の顔を思い出した。




「…私、大石のこと大好きだよ」



自然と口から漏れた言葉に、私は驚いた。

だけどそれ以上に向こうが驚いていた様子。


困った風な表情をして、斜め下に視線を逸らした。

マズイ。告白と取られちったかな。



「ごめん。ミステイク。…今のは、友達としてって意味ね」

「分かってる。だって、は……」



そこで止めた。

「これ以上は、言わない方がいいな」、と。


ちゃんと気持ち汲み取ってくれる。

良い人なんだ。




他人の気持ちが分かる人は、

好きな人とかも分かっちゃったりするのかな。
幸せが分かち合えるからいいな。


幼心にそんなことを考えたことがあったけど。



だけど、他人の気持ちが分かる人は、

その人の分の苦しさも背負わなきゃいけないから、大変だと思った。




もう少し待っててね、大石。


自分のことを作らないで、

みんなの前でも自分を曝け出せるようになったとき。


その時、漸く離れていくことができるから。





もう少しだけ待ってて。


もう少しの間だけ、胸を貸して。



苦しいかもしれないけど、それが私からのお願い。






















大石が可哀相すぎる!!(大泣)(ナイアガラ)
この鈍感主人公!(ベクシバクシ!/←効果音)
大石の胸まで借りておいて「友達として好き」はねぇだろ贅沢者!
(羨ましいぞコンタクショー!/違)(本音がポロリ)
…贅沢者とかそういう問題じゃなく、普通にありえんだろ。つか気付け。

大石が「好き」発言に対し困った風な顔をしたのは、
まさにその「友達として」だと“分かっていたから”なんです。
うわ、辛ぇー。痛ぇー。大石になりたくねぇー。(爆笑)

お分かりだとは思いますが夢百題の『寂しいね。』と
大石百題の『優しいね。』の続編となっております。
微悲恋シリーズ万歳。


2004/03/19