この一ヶ月は、なんだか微妙な気持ちで過ごしていた。
足がつかない海に浮かんでいるような。



バレンタインデー。

私は好きな人に、本命チョコを渡したわけで。


しかし…アレ？

本命だって、ちゃんと伝わってるよね…。

口振りから、気付かれてると勝手に判断したのだけれど。



……急に不安になってきた。











　　* 深層心理認知：ＥＥ *











ただいま昼休み。
今のところ、向こうからの接触は…無い。
忘れてるなんてことないよ…ね？
（言い切れないのが痛い）
お返し渡さない派かもしれないし、
そわそわしてる時点で見込み違い？
でも、大石はその辺マメだと思う、けれ、ど。

…そのうち、かな？




その時、クラスメイトの一人が、
とっても可愛い髪留めをしていることに気付いた。
確か、朝はつけてなかったような…。


「ねえ、その髪留め可愛いね。どうしたの？」

どこで買ったの、という意味合いでそう訊いたのだけれど。
でも、やっぱり心の奥では…こんな返事を予測していたかもしれない。


「ああ、コレ？ホワイトデーのお返しで大石くんに貰ったー」

「あ、あたしもテディーベア付きのキーホルダーを貰ったよ」

「うちは万年筆」


……ナニ？



「大石くんにはいつもお世話になってるし、義理であげたんだけど…
　こんな立派なの貰っちゃって良かったのかなぁ」

「ギリチョコで本当に３倍返しなんてね」


マメだし良い人だよねーと。
そこに居た皆は同意していた。

…何。
あげたのにお返し貰ってないのって、私だけ？
なんで、私なんか悪いことした？
他のみんなと何が違……あ。


本命、あげたから…かな。


いや、でも…さ。
向こうがちゃんと本命として理解した上で受け取ったかも謎なのに。
お返しで特別扱いされるなんて…。
自意識過剰。
だけど、他に理由、思いつかないし。



思いつつもお弁当を平らげた。
空になったお弁当箱はロッカーに押し込んだ。
その時、横から声が掛けられた。

「」

…この声は。


「な…に、大石」

「ん、ちょっと」




トクン。　トクン。



この展開って、つまりはそういうこと？


絶対そうに違いない。




と、思いきや。




「委員会のことで相談したいことがあるんだ」





…ダメだ。

大石秀一郎はダメだ。


その瞬間確信した。



もう。




…しかし、あれ？

どうして階段上ってるの。



あれー？？




「実は」


屋上につくなり大石は言った。


「委員会の話っていうのは…嘘なんだ」


はい。薄々気付いてました。

つまり、委員会というのは口実で。
実際は私のことを呼び出したかっただけで。
そして呼び出す理由といったら…やっぱりお返し？

でも、クラスのみんなはそんな呼び出されたような様子はなかったな…。
つまり、私は特別。

良かった。
ちゃんと本命として伝わってたみたいね。


と思いきや。



「もし…義理チョコだったんなら恥ずかしい話だけど」



…ダメだ。

やはりダメだった。

どうしてここまで鈍感なんだ。



“もしも”もクソもなかろう！
あんなに気合入れた義理チョコがあるかい！
義理も人情もあったもんじゃないよ。



でも、確信が無いほどなのにどうしてわざわざ呼び出した？

もしギリだというの可能性を知りながらも改まった様子なのは何故？



そういえば、さっき、“だけど”で止まったよね。
大石、なんて言うつもりなんだ。

続きは？


「これ、つまらないものかもしれないけど…お返しです」


何故敬語。

疑問に思いつつも、差し出された小箱と封筒を受け取った
その嬉しさの方が大きくて、私は呆然としていた。


「それじゃあ。休み時間中にお邪魔してごめんな」


そう残して、大石は去った。




一人きりになって、私は箱を開ける。



「……え？」



それは、小さな細工があしらわれたシルバーのリング。

え、こんな、高価なもの…。



ちょっと待って。

待ってよ。



あ、封筒…。




『先日のバレンタインデーには、素敵な贈り物をありがとう。

　チョコレート、とても美味しかったです。

　ささやかなお返しとして、指輪を送ります。

　気に入ってくれると、嬉しいな。


　本当にありがとう。　　　大石秀一郎　』




………うわぁ。

どう考えてもさ、他の人と格も質も違うよね。



不思議な人。


乙女心は分からずとも、人の気持ちは大切にする。

そんな人ですから。




勇気を出して本命チョコ渡して、
再びこっちが告白する羽目ってのもなんだか…という気もする。

それでも。

私は向かう。彼のもとへ。
放っておけば、鈍感な彼は行動に移してなんかくれない。
だから、私の方から向かっていこう。



この指輪はアナタには填めてほしいと伝えたら、
今度はどんな反応を示す？


動揺する？

否定する？

それともそっと填めてくれる？




予想は裏切ってもいい。

だけど、期待は裏切らないで。



わがままかもしれないけど、これが乙女心なんデス。






















突然左手薬指辺りに填めちゃうのが大石流。（しかも天然）（飛躍しまくり）
手塚以上に質が悪い気がしてきた…。（人の気持ちは理解できてる分）
まあ、大石は予想は裏切っても期待は裏切らないと信じます。↑故
…コノミンに挑戦状かよ。（苦笑）
題名は、ＢＥがbelow expectation、期待値未満。
ＥＥがexceeding expectation、期待値以上。
うちの学校の成績のつけ方だったり。

ホワイトデーメッセージは無視さ。欲しいさ。（話が違う）


2004/03/13