こういうとき、学級委員をやっていて良かったと思う。

更に好きな人と一緒だと。


…というかそもそも、彼が立候補するのを見て、

私も手を上げたのだけれど。



しかし、まさか、こんなチャンスがやってくるなんて。




……学級委員になって良かった。











  * 乙女心理解度:BE *












今日は2月14日。

説明する必要は無いと思われますが、
バレンタインデーってやつです。

鞄の中には、本命チョコレートが入っています。
さぁて、いつ渡そうかな。
昼休みがいいか、靴箱がいいか。
放課後までは引っ張りたくない。どーしよっ。



考えていた、HRの真っ最中。
担任の発した一言、今日の予定。


「今日の放課後は委員会があります」


え〜!?と。
クラスが不満の声を上げている中。

「……やったぜ」

私は小さく呟いていた。




  作戦 変更。



ビバ委員会!

待ってて放課後!!





  **





「それじゃあ、始めようか」

「アイアイサー!」


ついに始まる、二人きりの時間。


今は委員会も終えてその後でございます。
教室には、私たち以外は誰も居ない。

いつものことなんだ。
学級委員会は、話し合いだけで終わるなんてまずない。
書類を出されることが常。
だから、それを持ち帰って書き込む必要がある。

今日も同じ展開。
放課後の教室に二人きり。
後は、チャンスを窺うのみ。



ドキドキしている私の気なんか知らずに、
「ここはこうした方がいいよな?」とか言ってる。

……鈍感。

でも、そんなところもスキ…なのかも。



「ねぇ、大石」


おわ、やってしまった。
ついに声を掛けてしまった。

今ならまだ別の話題に持ってくこともできる。
しかし、ここで逃げては女がすたる!


「訊きたいことがあるの」

「ん、どこだ」


大石は私の前の書類を覗き込んでくる。

違うよ!
このドンカン!


「そうじゃなくって。…今日、バレンタインデーだったでしょ」



トクン。 トクン。


心臓が強く、でも心地好く、叩きかけてくる。



渡すのはとりあえずとして、訊いてみよう。



「チョコレートとか…貰った?」



動揺すれば、貰ったということ。
否定的なら、私に可能性はあるということ。
…次の返事で、向こうの様子は掴むことができる。

さあ、どうくる…?




「うん、貰ったよ」



「!」




動揺しない。

ストレートに肯定的。



――…ああ。

私に、可能性……ないな。





「そ、そうなんだ…」

「ああ。それで、ホワイトデーのお返しをどうしようか考えてるんだけど」


震える声でなんとか相槌を打った。
大石は、そんな私の様子にも気付かずに話を続ける。


ヤダよ。
聞きたくないよ、そんなの。

私なんて渡せなくて困ってるのに、お返しの話なんて。


しないでよ。



「女の子ってお返しにはどんなものを欲しがるものなんだ?…って、!?」




大石の呼ぶ声も振り切って、
私は教室から飛び出していた。







バカ。


バカバカ。



大石のバカ。




人の気持ちを汲み取れる良い人なのに。
乙女心の理解度に関しては、ゼロに等しいと来た。




………バカ。




!」



ああやだ。
見つかっちゃった…。

なんて、分かりやすい場所に逃げ込んだんだけど。


離れたい。
でも見つけてほしい。

そんな複雑な乙女心。


近くに来てほしい。
だから背を向けたまま。

背を向けたままなのは、
顔を見られたくないから。
顔を見たくないから。


乙女っていうのはね、微かな仕種、微かな言葉で傷付いてしまうものなの。

そのつもりはないのかもしれないけど
心を抉る軽率な言葉とか。



「あの…ごめん、って謝るのも変かもしれないけど…」


背中越しに聞こえる、一生懸命な言葉。

一瞬呑み込むような音が聞こえて、
そうして大石ははっきりと言った。



「でも…まだ義理しか貰ってないよ」



それは、
無意識かもしれないけど心を包み込んでくれる言葉。


同じコトを意味する言葉でも、
もし、「本命は貰えなかったよ」
なんて言われたら、
私、どうしただろ。

…そもそも、こんなアナタだから好きになったのかも、なんて。



「教室に…渡したいものがあるんだけど、いい?」

「もちろん」


大石は優しく笑った。
さすがにやっぱり気付かれたかな。



それでもいいや。

それでいいや。


乙女心には全く理解を示さないほど鈍感だけれど、
人の気持ちを大切に包み込んでくれる。



そんなアナタがスキ。






















遅らせながらバレンタインネタ。
ホワイトデーネタとセットにするという
クラフティな手段を使って今頃アップ。

セリフの種明かし(?)。
まず、義理しか貰ってないってことは意味合い的に。
“まだ”という言葉。これから渡そうとしている主人公にとっては救い。
過去形で言われたら、もう貰い終わったみたいな言い草じゃん。
って、意味不明?まあ、いいや。私は分かってるから。(うわ)

大石好きだー。思い起こせばこのネタって
萌ゲージを上げるために妄想を働かせたことから始まったんだよな…。
(語りは3月3日記にございまするれ/宣伝)


2004/03/13